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昭和転生録 〜戦火を越えて〜

作者: 稲神蘭

現代日本に生きる会社員の主人公︰藤倉陽介は、交通事故によって命を落とす。しかし、次に目を覚ますと、そこは昭和十年(1935年)の日本だった。赤ん坊として生まれ変わった彼は、やがてこの時代が戦争へと突き進む運命にあることを知る。


未来の知識を持つ彼は、迫り来る戦争を生き抜くために動き出す。幼い頃から語学や農業、医療などの知識を独学で学び、戦時中の混乱に備えた。そして、昭和十六年(1941年)、太平洋戦争が勃発。日本中が歓喜に包まれる中、彼だけは敗戦の未来を知っていた——。


戦況が悪化しやがて都市は空襲に襲われる。彼は家族や近隣の人々を守るために奔走し、未来の知識を活かして生存の道を探る。そして、昭和二十年(1945年)、日本は敗戦。


戦争を生き延びた彼は、戦後の復興に尽力し、新たな時代を築くために奮闘する。未来は変えられなくても、人々の運命は変えられる。昭和の荒波を乗り越え、戦後日本の再生を目指す彼の生き様を描いた歴史転生ストーリー。

【死と誕生】


眩しい光が目の前に広がった。耳には誰かの声が聞こえる。温かい手が俺の身体を包む感触——だが、何かがおかしい。


「おめでとうございます藤倉さん!元気な男の子ですよ!」


女の声だ。目を開けると、ぼやけた視界の先に、涙ぐんだ女性がいた。俺を抱きしめているこの人は……


「……ようすけ、私の可愛い子……」


母親なのか…?


優しい声が耳元で響く。


違う、俺は——死んだはずだ。


******


俺は現代日本に生きる普通の会社員だった。毎日、朝から晩まで働き、気がつけば何のために生きているのかわからなくなっていた。ある日、疲れ切った身体で帰路についた時、不意にトラックのヘッドライトが目に飛び込んだ。


——ドンッ!!


衝撃とともに意識が途切れ、次に気がついた時、俺は赤ん坊になっていた。



【昭和の世界と母の愛】


それから数年が経ち、俺はこの世界が昭和十年(1935年)の日本であることに気づいた。


家には電話もテレビもない。電気は通っているが、生活は質素。家の近くには畑が広がり、みんな助け合いながら生きている。


「ようちゃん、ごはんができたわよ」


母の声が台所から響く。俺は小さな足で駆け寄り、ちゃぶ台の前に座った。焼き魚に味噌汁、炊きたての白米。昭和の質素な食卓だが、どこか懐かしく温かい。


「今日はお父さん、仕事で遅くなるからね。一緒にご飯食べましょう」


母はそう言って微笑む。


俺の母、藤倉ふじくら 美佐みさは、穏やかで優しい女性だった。戦争へと突き進む時代の中で、少しでも家族を守ろうと懸命に生きている。


「ようちゃん、大きくなったら何になりたい?」


母がふと尋ねてきた。


俺は少し考えた後、はっきりと答えた。


「お母さんと、お父さんを守れる人になりたい」


母は少し驚いたように目を丸くしたが、やがて優しく笑った。


「ようちゃんは優しい子ね。でもね、お母さんは、ようちゃんが幸せに生きてくれるだけで、それでいいのよ」


その言葉に胸が熱くなった。『母は俺のことを何よりも大切に思ってくれている。だからこそ、俺はこの人を守らなければならない。』



【迫りくる戦争】


時は流れ、昭和十六年(1941年)。


ついに、日本は戦争に突入した。


「日本が戦争に勝てるんだって!」


近所の子供たちが興奮気味に話している。大人たちも戦争に対する不安を抱えつつも、国の勝利を信じていた。しかし、俺は未来を知っている。この戦争は長引き、日本はやがて敗北する。


「どうすれば、この運命を変えられる?」


俺は未来の知識を活かし、少しずつ準備を始めた。食糧の備蓄、避難経路の確保、英語の学習。戦後の混乱に備えるために、俺にできることを少しずつ進めていく。


しかし、そんな中で母は——


「ようちゃん、大丈夫よ。お母さんは、ようちゃんさえ元気でいてくれたら、それでいいの」


母は、どんな時でも俺のことを気遣ってくれた。だからこそ、俺はこの人を守りたいと強く思った。



【戦火の中で】


昭和二十年(1945年)、戦争は最終局面を迎えていた。


東京大空襲の夜、俺は母とともに必死に逃げていた。


「お母さん!こっちに逃げて!」


上空ではB-29が飛び、次々と焼夷弾を落としていく。炎が町を飲み込み、人々の悲鳴が響く。


母は俺の手を強く握りしめながら、息を切らせて走る。


「ようちゃん……大丈夫、大丈夫よ……!」


その言葉とは裏腹に、母の顔は恐怖に満ちていた。それでも俺を安心させようとするその姿に、俺は涙が出そうになった。


そして——昭和二十年八月十五日、終戦。


ラジオから天皇の声が流れ、日本は敗北を迎えた。


戦争は終わった。しかし、これからが本当の戦いだった。



【戦後の未来】


戦争が終わり、日本は焼け野原からの復興を始めた。


俺は学んできた英語を活かしてGHQの通訳の仕事を手に入れ、農業や医療の知識を広めて、人々の生きる手助けをした。


そんなある日、母が俺に微笑みながら言った。


「ようちゃん、大きくなったね。お母さん、誇らしいよ」


「お母さん……」


俺がこの時代に生まれ変わった意味は、きっとここにあったのだろう。


俺はこの国とともに生き、未来へと進んでいく。



【エピローグ】


戦争を生き抜いた俺は、その後も復興の道を歩んだ。母は変わらず俺のことを大切に思い、俺もまた母を守り続けた。

歴史は変えられない。でも、人の運命は変えられる。


そして、俺はこの時代で精一杯生きることを選んだ。

戦争ってやっぱり怖いね…

この時代に生まれたことに感謝

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