8話
ここは海の中にある王国。
ボクたちはこの国で生まれ生きる海の種。
もう何十年も昔の話。ボクたちの故郷であるこの海は今とは違う場所だった。
今は賑やかだけど、昔はもっと静かだったらしい。
「キュイ、お姉ちゃんが虹の事を教えてくれるって」
「うん。今行くよ」
キューナに呼ばれて行くとお姉ちゃんとお兄ちゃんが二人で雑談していた。
「キュイ、キューナ。こっちへおいで」
「はい。お姉ちゃん」
「イオジュ、あの棒どこにしまったっけ?」
「ちゃんと持ってきてる」
ボクたちは自分が生まれた時を何も知らない。覚えてない。でも、一つだけ知っている事がある。
ボクたちの存在は奇跡が生み出した。
「これがこの海の核の最後で貴方たちの始まりの道具」
「ここに影が戻ってくる前、この棒を使って海を守ったんだ」
ボクたちを生んだ特別な道具。
「二人は虹の伝説を知ってる?」
「うん。虹が世界を照らす時光の世界が訪れる」
ここの人たちはみんな知っているし、何度も話をしているところを見かけた。
その伝説の意味も。
「その伝説はみんの、虹の最後を示したものらしいの。みんはイオジュやみっちゃんの助けがあって今こうしていられる。伝説は伝説のままになった。でも、みんはそう思わないんだ。この奇跡が光だと思うの」
あるはずのない未来。今はそれだと思う。
もうここには戻ってこないはずの影が戻ってきて、お姉ちゃんとお兄ちゃんが今も一緒に暮らす。
これはきっと、お兄ちゃんが望んだ事。お姉ちゃんが一度は諦めようとした事。
海の中の王国。その国には虹と呼ばれる特別な女の子がいた。
その女の子は虹の影と共に、今日も、これからも歩んでいくのだろう。
それを見守るのが、ボクたちの中に僅かに残っている核の意思。
核はお兄ちゃんを想いに応えたいんだ。
核の力も意思もいずれは消えてしまう。
だからボクたちはそうなる前に核としての最後の務めを果たそう。
「過去のそして今の全ての虹に感謝を。全て影に虹に与えた加護を」
「虹と影の呪縛の解放を。そして」
「この海を守った恋人の記録を永遠に残そう。過去の虹とは違う選択をとった虹として」




