1話
ボクたち影には縁もないような豪邸。
虹はいつもこんなに良い場所で暮らしていたとは。
「帰って」
高く綺麗だが今にも消えそうな声。
そっちから頼んできたのにいきなり帰っては失礼すぎはしないだろうか。
「約束があるから帰るわけにはいかない」
「……ここで人は生きていけない。帰って」
生きていけない?
そういえば、ここは人が誰もいない。
「今も身体に異常が出ているはず」
「そんなの出てないけど」
「えっ⁉︎あなたってもしかして影、なの?」
「だったら何」
「ここ、影と虹以外には毒の空気が流れているから」
だから誰もいないんだ。ただ、だからこそ分からない事がある。
「虹と共存できる影をなんで」
「今は純粋な影は少ないから、影響が出ちゃう。それに、みんといたら良い事なんてないから。みんなここを出て行った」
「虹が追い出したんじゃ」
「違う。みんは影といっぱいお話したい」
少なくとも彼女には嘘がない。そんな気がする。
でも、信じられる話でもない。ボクはずっと虹が追い出したと聞いていたから。
「みっちゃんが間違った事を言っていた?」
「みっちゃん?もしかしてあの子供っぽくて不思議な雰囲気の女の子?」
「知ってるの⁉︎」
「うん。みっちゃんは嘘をついていない。多分言い方と受け取り方の誤解」
みっちゃんは虹と一緒にいて離れていったと言っていた。それをみっちゃんが持ってきてくれた伝承とかの本を見てボクが勝手に勘違いしていただけかもしれない。
「でも、虹が影に良く思われていないのは事実。きっとあなたも一緒にいればそうなる」
寂しそうな顔。この子はボクと同じなのかもしれない。
「約束では三日間一緒にいるように言われている。今はそのくらいの期間一緒にいても良いと思っている。あなたに会ってそう思った」
「三日……えっと、と、とりあえず中でお茶でも飲んで話を」
「うん」
このあと、ボクは簡単に請け負って何も準備せずにきた事を後悔した。
まさかこんな事になるとは予想もしていなかった。




