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地上の人々が知る海は表面だけ。その殆どが知られていない。
光の届かない深海に巨大な王国があるなど、地上の人々は信じないだろう。
なんて、地上に出た事なんてないからただの憶測。
「今日も外は真っ暗」
王国内は光がそこら中にあるけど外は違う。光の届かない、何も見えない場所。
ボクはこの王国の外へ出たい。だから毎日ここで外を見ている。
「聖と邪の両方を持っている人。それをなんというかご存知ですか」
澄んだ綺麗な声。まるで水みたい。
「そんなの知りませんよ」
「影と言うのです。あなたのような影は大昔はこの国の大半を占めていました」
「見てもないのに言い切れるの?」
「見ていましたよ。ずっと、この国の深い場所で」
「深い場所ってここはしんか」
綺麗な虹のような女の人。ボクを受け入れてくれた人と一緒にいた時に聞かされていたあの伝説のような。
「光の世界へ導く虹」
「懐かしいですね。昔はそう呼ばれていた時期もありました」
「どうしてそんな人が」
「影がいなければ虹が生きていくのは難しいでしょう。あなたと同じ歳の虹がいるのです。何億年もの月日が流れ、世界が新たに虹を選んだようですね」
虹は世界が選ぶ特別な人の事なんだ。でも、最後に虹が現れてから数億年。虹はもう選ばれなくなったんじゃないかってみっちゃんが言っていた。
みっちゃんはボクを受け入れてくれた女の人。虹の伝説にとても詳しくていつも教えてくれていた。
「影はもうあなたしかいません。お願いします。虹を」
「……虹はボクたちがどんな生活を送っているのか知っているの?」
「ええ。見ておりました」
「誰でも虹を愛すると思わないで。ボクたちにとって虹は忌むべき存在」
「知っております。その上で頼んでいるのです」
頼むくせにずっと嘘をついている。
影はまだ他にもいる。減ったというだけでいないわけではない。
みっちゃんが言っていた。
「虹がどうとかもそうだけど嘘をついている相手の頼みは聞きたくない」
「嘘ではありません。影はもうおりません。一年前影はあなたを残してこの地を去りました」
「虹がそうしたんじゃないの」
「現在の影は虹を知らなすぎます。虹はあなたが思うような人ではありません」
虹の事なんて知りたくもない。虹がいなければボクたちはここで普通の人々と変わらない生活を送れたんだから。
「三日間。三日間虹と一緒にいてくだされば影だけのための場所をお作りします。影が平穏に暮らす事のできる場所。その場所を作る事とあなたにも場所を教える事を約束します」
悪い話じゃない。ボクが三日間虹といるだけで今生きている全ての影が平穏に暮らせる。
「分かった。虹に会う」
「感謝します。では、明日の早朝にまたここへ来ます。その時までに」
「虹のいる場所は知ってるから自分で行く」
「わかりました。では、三日後」
影がここにいられなくなった原因を作った虹。
こうして虹との生活が決まった。




