彼女の言葉は私を惑わす
婚約式会場から逃げ出して、どんな方法を使ったのか王族の居住区へと身を潜めていたシルヴィアにその理由を尋ねたがしばらく沈黙が続いた。やはり私が嫌で、でも本人に向かってそんな事も言えないから黙っているのだろうかとまた悪い方にばかり考えてしまう。
だが、リューイに思い込みで判断してはいけないと先程教えられたのだ。例え聞きたくない答えであろうと、直接聞かねばいけない。心臓が小さくなって他の臓器に押しつぶされてしまったような苦しさを堪えて質問を変えてみた。
「私との婚約は嫌だった?」
気づけば全身の血の気も引いて指先が冷たくなっている。聞きたくない言葉が出たらどうしよう、やはりこんな事聞くんじゃなかった。そう思っても出た言葉は口に戻せない。何故か泣きそうにもなっている自分が情けなかった。私こそまさにここから逃げ出したくて、この一瞬がとてつもなく長く感じられた。
「セシル様がお嫌だろうと思って」
私の問いかけに首をブンブンと振ってから、シルヴィアはか細くそう答えた。しかし、質問の答えになっていなくて混乱する。
「え?私が?何を嫌だって?」
「わたくしが婚約相手では、お嫌だろうと思ったのです」
「はああ!?」
思わず大きな声を出してしまい、再び肩をびくんと震わせてシルヴィアを驚かしてしまった。
「ああ済まない、また大きな声を。しかし、私が君との婚約を望んだのに何故そんな事を、、?」
「わたくしが、醜いからです」
「は?」
シルヴィアは何を言っているんだ?これほど容姿に恵まれていて、どこをどう見れば醜く見えようか。何度も言うがこれ程までに整った容姿でそれを言っては嫌味とも捉えられ兼ねないぞ。
「僕は君に一目惚れしたんだよ?」
彼女の訳のわからない理由に混乱して言葉遣いも気にできず、かつ恥ずかしい事をさらりと言ってしまった。つい口から出た言葉に気づいて顔が熱くなる。彼女が顔を隠していてくれて良かった。そんな彼女もよく見れば耳や首が真っ赤だ。
「で、ですが!もう二年も前の事ですし、遠目に見ただけなのでしょう?」
「僕の視力を見くびるなよ?それにさっきの立太子式では君の目の前を通り、あれからさらに綺麗になった君に、み、見惚れた!」
恥ずかしいがもう自棄になってきた。シルヴィアはより一層耳を赤く染める。
「では、お見えになったでしょう?醜いアザか何かを」
「は?」
傷一つ無い滑らかな肌しか見なかったが?