彼女の兄がいい奴すぎて自信を失くしてしまいそうなんだが
城内はとてつもなく広い。簡単に立ち入れない場所を除いてもシルヴィアが迷い込める候補はかなりあった。騎士団も捜索に当たっているから彼らが捜さないような所を中心に捜す事にした私はまずは庭園へと向かった。
広い庭園は見通しも良く一見人が居ればすぐに分かりそうだが、小さな体の子供は簡単に植物の陰に身を潜める事が出来る。かくれんぼには最適で生垣の根元やその間には大人の知らない子供専用の通路なんかも自然と出来ていた。
その一つ一つの入り口を覗き、入り込んでは別の場所へ抜けてを繰り返したがシルヴィアの姿は無かった。気づけば庭園の外れの忘れられたガーデンハウスまで辿り着き、居るわけがないと思いつつも一応中を改めて次に向かおうと覗き込む。
長年放置された建物内は農機具が置かれた倉庫と化している。蔦に覆われたハウスは大きなガラス窓もすっかり曇っていて中が見ずらい。私の背丈では背伸びをすれば何とか覗ける高さの窓でふらつきながら必死で目を凝らす。何も居ないかと結論づけようした時、中で何かが動くのが分かった。それは人の頭のようで、焦がれた彼女の髪の色に見えた。
私はは慌てて入り口に駆け出すと勢い良く扉を開けた。
「シルヴィア!」
「殿下?」
そこにいた者は屈めた体を起こし俺に向き直った。その影は俺よりも頭二つ分背が高い。
「リューイ」
シルヴィアの兄のリューイだった。そう言えば彼に捜索に向かわせたと夫妻が先程言っていたなと思い出す。
「殿下もシルヴィアを捜しに?」
「ああ」
「ご面倒をおかけして申し訳ありません」
「いや、それでシルヴィアは?」
リューイは眉を下げ頭を横に振る。
「そうか」
「すぐに大人が捜索に加わるだろうと思ったので子供の方が気づきそうな隠れ場所を捜そうとここまで参ったのですがおりませんでした」
「私も同じだ。居ないのなら仕方ない。次に行くとするか」
リューイも私と同じ考えで行動していたらしい。ここに居ない事が確かなら長居は無用と次の候補地に向けて歩き出す。
「次はどちらへ?」
私の後に着いたリューイが聞くので温室と答える。王城の温室は花よりも緑が多い。鑑賞というより薬草の研究と栽培が主な役割のため研究職員以外の立ち入りはほぼない。生い茂る緑は姿を隠すのに最適だし冬場でも凍える事はない。訪れる者も研究や植物の生態にしか興味の無い者ばかりで他の者の存在に頓着することもなく、荒れてた頃の身の隠し場所に重宝していた。
「へえ、温室があるなんて知りませんでした」
「城の裏手で研究員以外寄り付かないから」
「殿下、こんな事を言うのも何ですが今後の身の隠し場所に困る事になりません?」
リューイには荒れてた頃は八つ当たりもしたし、稽古をさぼっては散々城中を捜し回らせた。だがいつも自分から姿を現す私をリューイは優しい笑顔で許してくれた。困らせてばかりだったと思うが彼はあえて俺に息抜きの時間をくれてたようにも思う。今もとっておきの隠れ家を白杖した私を心配してくれていた。
「よい。正式な王太子となったのだからもう逃げ隠れる子供のような行動はしない」
「左様でございますか」
やはりその口調は優しい。こんな兄を持つシルヴィアはどんな男を好むのだろう。やはりリューイのような物腰の柔らかい大人な男性が好みだったりするのだろうか。そんな事を考えて私は自然と歩みを止めてしまった。