私には彼女の笑顔に優るものはないのだから
父の様子にとんでもない事をしたのだと責められている気がしたが、そこまで深刻に考える事でもないのではないかと楽観的な考えも浮かんだ。
「でもまあこれでシルヴィアは女神様の加護を受け、身の安全は保証されたのしょう?この鏡もなかなかの意匠ではないですか!聖鏡と言っても申し分ないのでは?」
「馬鹿者。こんな重厚な鏡、どうやってシルヴィアが皆に掲げて見せられる?それに国民は聖鏡は受け継がれる物と思っているんだ。先代の姿を覚えている者も多いのに、ここまであからさまに別物を使う事など出来るか!」
聖女の手にする聖鏡は黒い手鏡で遠目にその意匠を確認する事は難しい。聖女毎にその意匠を変えたところで先代の物とは別物と分かる者はまず居ないだろう。だが、この重厚な鏡を用いれば国宝の鏡はどうしただの今代の聖女は異端だのと国中が大騒ぎとなりそうな事は私にも想像出来た。
「そもそも受け継がれる物だとの認識をここで改めては?」
「国民の不安を煽るだけだ。先程お前だって国宝が割れたと聞いてとんでもないって顔をしただろ?私の不祥事だと一瞬決めてかかった」
「う、、」
「そして、実は聖鏡とはそういう物なのだと発表すれば、それこそずっと国民を騙していたのかと国民の国への信頼は一気に落ちる。それに信仰心が揺らぐ事も国の存続に関わる。聖女の存在に疑問を持つ者も少ないが一定数居るのも事実だ。一気にそちらの勢力に傾いては国もどうなるか分からん。信仰の対象である女神の鏡があり、正統に使える聖女がそれを国のために正しく使う。これを変えるわけにはいかない」
話を聞きながら、これまでにはこんな事故は起こらなかったのだろうかと疑問が浮かんだ。前例があればその時の対処法を参考にすれば良い。素直にそう父に言ってみるが顔色は良くならなかった。
「前例は勿論ある。だがどれもかなり古くこれ程大きな鏡の無い時代の話だ。秘密裏にその鏡を仕立て直し使ったようだがそれでも情報操作などにかなり苦労したのだろうな。近年ではそんな事態にならないように厳重に事を運んできたのだ」
「では、この事態に打つ手は、、」
「それがすぐに浮かべば頭など抱えていない」
そう言って再び父は項垂れる。取り敢えずこの事は王家とグレイ侯爵家、それに一部の重役にのみ共有され慎重に協議される事となった。方針が決定するまでは聖女誕生の発表も見送られ安全のためシルヴィア自身にも聖女である事は伏せられた。
そして私もシルヴィアも間もなく貴族学院を卒業し成人を迎えるのだが、未だ聖鏡について方針が決まっていない。つまり私はとんでもない過ちを犯してしまったわけだが、あの時彼女を笑顔に出来たのだから後悔はしていない。あれ以来シルヴィアとは茶会を開いたり、互いに励まし合い王太子、王太子妃に必要な教養を身につける努力をし共に成長して来た。彼女の笑顔が沢山見られるようになったのだから、父には悪いがそれで良かったと思っている。
貴族学院での生活は厄介な問題解決に奔走する日々でシルヴィアとの時間が持てずもどかしかったが、卒業すれば正式に婚姻を結びずっと側に居られるようになる。あと少しの辛抱だと自分に言い聞かせて、共に卒業パーティーに出席する事を楽しみにこの数日は生き抜いていた。
だが私はまたしてもその直前にシルヴィアに逃げられる事になるのだが、まあそれはまた別の機会にでも話すとしよう。
End
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セシルは再びシルヴィアに逃げられる事になりますがその様子は
「異世界に精通している私達はたとえ悪役令嬢とその婚約者が転移してきても動じない いや、今回はちょっとだけ参っています。。」にて語られています。
ご興味があればそちらもご覧いただけますと嬉しいです♪