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事の重大さを知る


 我が国には今は不在だが聖女という存在がいる。建国の御伽噺によれば女神の加護を受けた少女とそれを助けた男が初代国王と王妃となり国を興し人々を救ったという。それからは何代も王は女神の加護を受ける聖女の助けを得ながら国を発展させ今日に至っている。


 聖女は国宝の聖なる鏡を通して女神の意を知り、国へ加護を与える。聖鏡を使えるのは聖女ただ一人だ。代替わりは先代が亡くなるとただ一度だけ聖鏡が次代の姿を映し知らせるとされている。それを確認出来るのは時の王といれば王妃のみで、知らせがもたらされるまでは毎朝鏡の前に立ち祈りを捧げ続けるのだ。聖鏡に姿が映るのは聖女のみと言われていて、聖女は成人と同時に聖鏡へとその姿を国民の前で映し聖女の役目に就く事になる。


 鏡の聖女についてこれが広く国民に知らされている内容だ。先代がお隠れになり大分経つが未だに今代の聖女の発表はなく、つまりは現国王夫妻は聖女の行方を知らされていないという事になる。あくまで公にはそうなっている。


「王族は成人、もしくは立太子を持って知る事実なのだ。王族以外では一部の人間にしか知らされない機密事項。お前が知らなかったのは仕方がないが、よりにもよってこんな鏡を聖鏡としてくれるとは」


 私の部屋に両親と共に辿り着き、例の鏡を前に父が話し出した。


「聖鏡?国宝は祈りの間に保管されているのですよね?」

「ああ、先代の物がな。ただもう役目を終えて割れているが」

「え!?」


 国宝が壊れている?それでは今後女神の加護を受ける事など出来ないじゃないか!国の一大事を、父は隠匿しているとは国民に顔向け出来ない状況だ。


「言っておくが、とんでもない事をしているのは私ではなくお前だからな?」

「な!?私に罪を押し付けるおつもりですか!?」

「あ゛?」


 私の言葉に蛇の睨みで返され一瞬で体が硬直する。


「あなた、セシルは何も知らないのだから。立太子式の後に話さなかった私たちにも非があるでしょう?」


 母が諌めるとそれはそうなのだがと言って父は深くため息をつく。


「国宝の聖鏡はな、元はただの鏡で代々受け継がれる物でもない。一代毎に聖女に似合う意匠を職人に作らせているのだ。聖女が亡くなり、次代の聖女を知らせると割れて聖鏡は役目を終える。国宝の聖鏡があるのではなく、聖女が初めて姿を映した鏡が聖鏡となり国宝となるのだ」

「か弱い女性である聖女様が持ち運べる大きさの手鏡で、今その制作を急がせていたところなの」

「では、聖女様は既に見つかっていたのですか!?」

「ああ、本来は先代が亡くなって七日目の朝に次代の聖女の誕生が告げられる。あれが女神様のお声だったのだろうが、不思議な体験だったな」

「ええ、本当に」


 何と、両親は鏡に映る次代の聖女の姿を見たのではなく、女神様のお声を聞いたと言う。


「聖女の誕生が知らされる日が公にされていないのは鏡の制作期間が定かではないからだ。聖女に相応しい鏡が出来れば一先ず聖女の姿を映し女神の加護を聖女に与える。そうすれば女神に守られ聖女の安全は約束されるからな。だがそれまではどんな危険があるか分からんから鏡が出来上がるまではその存在を秘匿する必要がある」

「その家族にのみ極秘で聖女誕生を伝え、王城からは護衛を派遣し身の安全とうっかり鏡に姿を映す事を防ぐため可哀想だけどなるべく外出も最低限に制限されるの」

「あくまで鏡の完成までだがな。大抵は誕生に合わせて制作するから遅くれても生後数日から数ヶ月の間の話。ただ今代の職人は怪我はするは材料が揃わないは、それでいて拘りが強く、なかなか仕上げないからこんな事に」


 聖鏡作りもまた最高機密事項で聖鏡の秘密と製法技術は一人の職人から一人の弟子へと伝授されるらしく、その者以外に作成を依頼するわけにもいかないそうだ。


 ここまで聞けば流石に気づく。


「つまりシルヴィアが今代の聖女で、これが聖鏡となってしまったと?」

「その通りだ」


 そう言って項垂れる父の背を母がさすって慰める。




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