正式な婚約者になれてご満悦な私になぜか父が頭を抱え母が倒れるのだが
王の前に立ち微動だにしない私達を、周りの大人達も口を出さずに見守っていた。長い沈黙を破ったのは父の深いため息だった。
「はあー、まったく仕方のない子達だな。そもそも書類を読み上げ署名をするだけだ、済ませてしまおう」
私とシルヴィアは笑顔を見合わせて喜んだ。父は書類の準備をさせ、侵入者について今しばらくその指揮を騎士団長に任せると伝令した。
両家の前で立ち会い人である叔父が書類を読み上げ私とシルヴィアがそれに署名をしやっと正式な婚約者になった。終わってみればとても呆気ないものだったが、シルヴィアとの仲がしっかりと繋がれたようで心は素晴らしく満たされていた。
その後シルヴィアは騎士団に侵入者について供述し、城中をくまなく捜索が行われたが何者も見つけられる事はなかった。侵入時を再現したりもしたが、やはり騎士の前を普通に通りすぎるのは不自然で、侵入者の存在もまったく無かったため子供の記憶違いとして有耶無耶に処理されることとなった。シルヴィアがどう侵入したのかは明らかになっていないのにおかしな話だが、お陰でその時の見張りの騎士達も首が繋がったようだ。騎士団長による地獄の訓練は受けていたようだが。
シルヴィア達が城を後にし、侵入者の件も落ち着いて両親と共に自室へと戻りながら私はシルヴィアを見つけた時の話を得意になって語っていた。
「ちょうどこの辺りで、振り向いたらシルヴィアがいて驚きました」
「して、シルヴィア嬢はなぜ逃げていたのだ?」
「それが、醜い自分が婚約者じゃ私が嫌がるだろうって思ったらしいのです。あんなに可愛いのにおかしいですよね」
「何よりセシルの一目惚れなのにね」
「そ、それは、もう言わないで下さいと、、」
たじろぐ私に両親は面白そうに笑い合っている。
「それで、どう説得してあんなにも信頼し合える仲になれたのだ?」
「そんなの鏡を見せればすぐですよ。鏡を見た事がないと言うんですから。信じられますか?この年まで一度もですよ?でも彼女の様子に嘘をいているようには見えませんでしたし、それならどんなに可愛いか見た方が早いだろうって思って」
歩き出しながら私は話したのだが、両親が歩みを止めたままだったため不思議に思い振り返ると母は口に手を当て驚愕し、父は目を見開き絶望したような顔をしていた。
「お前、あの子を鏡に映したのか!?」
「え?はい、、そうですが?」
「それはどの鏡?どこにあった鏡なの!?」
「えっと、、どれも何も私の部屋には姿見が一つしかありませんよ?」
それを聞いて母がよろけるのを何とか父が支えた。
「姿見、だと?まさか、あの重厚な鏡か!?」
母を支えながら凄い剣幕で父に聞かれ、頷いてはいけない気がして動けずにいたが、そんな事は無駄で私の部屋の鏡はあの一つしかないのは周知の事実。父は空いてる方の手で頭を抱えた。