大胆な彼女
それから私はシルヴィアと手を繋いで元の会場へと戻った。居住区を守る騎士は中からシルヴィアを連れて出た私に酷く驚いていた。
「ところでどうやってあそこまで入ったの?よっぽどの事でもなければ王族以外は入れないんだよ?」
「綺麗な女性に連れて行ってもらったのですけど、王族のどなたかではなかったのでしょうか?」
「女性?今この城には母上以外の女性王族はいないよ」
「そうなのですか?おかしいですわね、その方と一緒にこの護衛騎士の前を普通に通りましたのよ?」
護衛の前をそんな会話をしながら通りすぎると、二人の騎士は顔を見合わせて青い顔をしている。捜索対象者であるシルヴィアのみならず不審人物までも侵入させた事になる。慌てて騎士団長への報告と、居住区の見回りについて話し動き出しているがこれはもはや叱責だけでは済まないだろう。私たちに向かって二人では危険だとか後ろで騎士が喚いているが気にせずにシルヴィアの手を引いて会場へと向かった。
そこには先程の大人一同とリューイが既に集まっていた。騎士達によりここへ二人で向かった事が伝えられていたのだろう。私達が手を繋いで現れると心から安堵した表情を誰もが浮かべていた。
「シルヴィア!」
「お母様!ごめんなさい」
「いいの、いいのよ。無事で本当に良かった。セシル様、本当にありがとうございます」
グレイ夫人が思わず駆け寄りシルヴィアをきつく抱きしめ、次いで私へと礼を述べた。
「さて、婚約式だが侵入者の所在もまだ明らかとなっていない今、執り行うわけにもいかぬ。今日の所は皆の安全を考え後日に延期とする」
「えー!そんな!」
私は父の宣言に思わず不平の声を上げる。そんな私を父は一睨みで黙らせた。それは父ではなく王の睨みで逆らう者を許さない冷たく鋭いもので息が詰まる。すぐに謝ろうとしたが不意に繋がれたままだった手を引かれてシルヴィアと共に王の元へと歩み寄った。
「陛下、この度はお騒がせを致しまして大変申し訳ございませんでした」
毅然と謝罪の言葉を口にして頭を下げるシルヴィアだったが、私の手を握る力は強くそして微かに震えていた。私も王を真っ直ぐに見つめて頭を下げる。
「私も身勝手な言動を致しまして申し訳ございませんでした」
「あ、ああ。もう良いから二人とも頭を上げなさい」
私とシルヴィアは頭を上げて、真っ直ぐ王を見上げた。強く繋いだ手はお互い少し汗ばんでいるのが分かる。