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第九話 大っ嫌い!!

「お母様……コレット……」


 せっかくこのまま顔を見ないで行こうと思っていたのに……人生というのは、本当にうまくいかないものだ。

 出会ってしまったのなら仕方がない、形だけでも別れの挨拶をしておこう。


「お母様、コレット。長い間お世話になりました」

「随分と簡素な挨拶ですこと。ワーズ家の令嬢なら、もっと気の利いた挨拶の一つぐらいしてもらいたいですわね」

「申し訳ございません」


 はぁ……相変わらず、お母様はネチネチしているというか、細かいお方だわ。


 ずっと思っていたけど、お父様は一体お義母様のどこがよくて結婚したのかしら。

 お義母様って、確か元々は村娘でしかなかった。

 でも、お父様が仕事で村の視察に行った際に一目惚れをして、元々の婚約者に難癖をつけて、無理やり婚約を破棄して結婚したと聞いたことがある。


 身勝手な理由で婚約を破棄したり、私のお母様に手を出したり……お父様って本当に酷いお方だと思わない?


「まあまあ、最後くらいは大目に見てあげようよ」

「……?」


 コレットが私に優しくしているのが気味悪くて、思わず身構えてしまったが、暴力が飛んでくることはなかった。

 その代わりに、コレットは私に近づくと、手に持っていた荷物を私から取り上げた。


「せっかくだから、あたしが荷物を玄関まで持っていってあげるよ」

「いや、遠慮しておきますわ。荷物くらい、自分で持てますもの。だから早く返してちょうだい」

「何をそんなに焦っているの? エルミーユお姉様ってば変なの~」


 焦るに決まっているじゃない。あの中には、私の大切な物が入っているのだから。


 その大事な物が入っている荷物を、コレットは遠慮なく広げ、ぬいぐるみを取り出したの。


「へぇ、これがそうなんだ……き、汚い……これの何が良いのか、さっぱりわかんないなぁ」

「ちょ、ちょっと!? なにを勝手に出していますの!?」

「実は、使用人にエルミーユお姉様が何を持っていくか、こっそり調べさせてたから、何を持っていくか知ってたんだよね。だ・か・ら……」


 艶やかな唇を、ペロッと舐めたコレットは、近くにいた使用人から、大きなハサミを手渡された。

 そして、そのハサミを……ぬいぐるみの首元に近づけた。


「こ、コレット!? なにをするつもり!? 返しなさい!」


 コレットがなにをしようとしているのか、容易に想像することが出来る。

 だから、急いで荷物を取り返そうとしたけど、間に使用人が割って入ってきて邪魔をしてくるせいで、コレットに近づくことが出来ない。


「こんな汚いぬいぐるみ、こうしてあげるよ!」

「や、やめて! お願いだからやめて! やめてぇぇぇぇ!!」


 私の必死の叫びも虚しく、クマのぬいぐるみは首から切断されてしまった。

 その光景があまりにもショックすぎて、その場で膝から崩れ落ちてしまった。


 状況からしたら、たかがぬいぐるみが壊されただけかもしれないけど、私にはお母様との大切な繋がりが、絶たれてしまったかのように感じた。


「きゃはっ! なになに、こんな汚いぬいぐるみが、そんなに大切だったんだー? あ、思ったより中の綿は綺麗かも? せっかくだし、エルミーユお姉様との思い出に貰っておこうかなー? なーんて!」

「おやめなさいコレット。そんな汚い物を持っていたら、病気になってしまいますわ」

「やだなぁお母様! 冗談に決まって――」


 小さな子供のように楽しそうに笑うコレットに、私は思い切り体当たりをして突き飛ばすと、変わり果てたぬいぐるみと荷物を取り返した。


「いったぁ~い……お母様ぁ! エルミーユお姉様が私を虐め――」

「うるさい……うるさい!!」


 まるで自分が被害者のように振舞うコレットに、今までに感じたことがないくらいの怒りをぶつける。


「お母様が遺してくれた大切な物に、酷いことをして……! どうしてそんなことが出来ますの!? 私がなにか、あなた達に恨まれるようなことをしましたか!?」

「な、なんですの急に……ワーズ家の令嬢として、もっと品を持ちなさい! これだからバケモノは――」

「私だって、好きでこんな頭を持っておりませんわ! もっと普通の子に生まれたかった! こんな……こんな頭なんて……!!」


 頼んでこんな頭を持って生まれてきたわけじゃない。

 こんな悪い記憶ばかりが捨てられずに蓄積される頭なんて、今すぐにでも捨てたい。


「ぐすっ……この家の人間なんて、みんな……みんな!! 大っ嫌い!!」


 私は変わり果てたぬいぐるみと鞄を持って、屋敷を飛び出した。

 屋敷の玄関を出た先には、馬車が用意されていたけど、当然そんなものを利用しない。この家に借りを作る気は毛頭ないからだ。


「うぅ……ごめんなさい、お母様……いただいた思い出のぬいぐるみも……手紙も……守れなかった……ごめんなさい……親不孝な私を許して……」


 私はぬいぐるみを強く抱きしめると、声を押し殺しながら、涙を流し続けた――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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