第五十二話 愛し合う二人
シュムゲ様と接触した日から数日後の夜、自室でブラハルト様とのんびり過ごしていると、突然ノックも無しに部屋の扉が開かれた。
そこに立っていたのは、なんとシュムゲ様だった。
「坊ちゃま、早くお逃げください! その男、侵入者です!」
「俺は侵入者じゃない。ブラハルト・アルスターの知り合いだ。最初にそう言っただろう」
「そんなの、信じられるわけないでしょう!?」
事情を知らないマリーヌや使用人達は、なんとかシュムゲ様を取り押さえようとするが、捕まえるどころか、触れることすら叶わなかった。
あの動き、伊達に闇の世界で生き抜いたわけじゃないって感じだわ。
「みんな、彼は確かに俺の知人だ。危害は加えないから、安心してくれ」
「ほ、本当ですか?」
「本当ですわ、マリーヌ。私が保証いたします」
「少し彼と話をしたいから、みんな席を外してくれないか?」
「…………わかりました。あなた、坊ちゃまとエルミーユ様になにかしたら、私が許しませんから」
渋々ではあったが、マリーヌ達は静かに部屋を後にしてくれた。
まったく、屋敷に来るなら事前に連絡をくれればよかったのに。そうすれば、こんな騒ぎにはならなかったわ。
「それで、突然何の用だ?」
「仕事の話だ。例の作戦についての報告に行ったら、面白い話を入手したから、てめえらに売ってやろうと思ってな」
「あれだけお金を貰っておいて、まだ貰うつもりですの? どれだけがめついんですか?」
「仕事熱心と言え。ああ、ちなみにかなり重要な情報だ」
「わかった。いくらだ?」
「そうだな、この前の袋の半分で手を打とう」
「いいだろう。取引成立だ」
ほとんど即決で話が進んで、大層ご満悦そうなシュムゲ様は、勝手にソファに座ると、懐から煙草を取り出し、火をつけた。
「まずはエルミーユ・アルスターがこの前提案した作戦だが、無事にうまくいった」
「ということは、私達が破局したと、家族達は思わせたということでしょうか?」
「そうだ。それに、うまくあいつらが屋敷の外で集まる手筈も整えた。まあ、ファソンが勝手に言いだしたから、手間が省けたと言った方が正しいか」
私が提案した作戦。それは、私達が破局したから、家に帰りたいという嘘の情報が書かれた手紙を出し、浮かれて油断しているところに、本人達から今回の件の自白をさせ、確たる証拠を手に入れるというものだ。
そのために、私の家族とエドガー様が、外で祝いの席を設けるように、シュムゲ様にお願いをしたの。
そこに関しては、どうやら私の思っていた展開にはならなかったみたいだけど、結果的には成功してるみたいでよかったわ。
でも……報告の中には、衝撃的な内容も含まれていた。
「エドガー様が、私と結婚するって……そんなの、あまりにも笑えない冗談よ」
「俺もそう思う。だが、あの自意識過剰のかまりみてーな馬鹿男は、自分なら口説き落とせると本気で思っている」
「兄上ならありえるな。それに、彼らは俺達が破局したと思っているだろう」
こう言っては何だけど、私もエドガー様がそんなことを思いながら、調子に乗ってヘラヘラと笑っている光景は、想像できる。
「とにかく、あとは私が彼らと会い、情報を引き出すだけですわね」
「こちらで自白剤は用意しておいた。無味無臭を追及している影響で、あまり効果は高くないがな」
「そ、そんな怪しげな薬を使うのですか!?」
「別に死ぬような代物じゃねえよ。仕事の成功率を上げるために、出来ることをやるのはプロとして当然のことだ」
「……わかりました。あとのことは、私が何とかしますので」
正直不安ではあったが、シュムゲ様を信じて頷いてみせた。
……どんな状況になっても、一切隙を見せずに、凛とした態度を崩さずに接すれば大丈夫……のはず。
ブラハルト様と一緒に住むようになってから、大切な人達が出来たのはいいけど、その人達を馬鹿にされると、我慢できなくなってしまっているから、そこを気を付けないと。
「話は以上だ。細かい話は、また後程しに来る」
「それは結構だが、せめて俺に事前に連絡するとかできないのか? いたずらに使用人を驚かせたくない」
「面倒だから断る。それが嫌なら、金を出すんだな」
「そんな連絡も出来ないなんて、子供以下ですわね。そのくせお金の請求だけは一人前なんて、情けないですわ」
「褒め言葉として受け取っておく。まあ、せっかくの上客を取り逃すのも阿保らしいし、来た時にちゃんと要件を言うようにしておく。んじゃ、俺は帰る」
良くも悪くも、終始マイペースを保ったまま、シュムゲ様は去っていった。
……いよいよ、今回の騒動と家族との因縁に、決着がつけられそうだ。そう思うと、なんだかちょっぴり緊張してしまう。
「エルミーユ、本当に大丈夫なのか?」
「もう、私が作戦をお話してから、ずっと心配してますよ?」
「心配するに決まっているだろう! いくら作戦とはいえ、また君の家族や、兄上にまで会うだなんて……」
「全て覚えていられる私が出席すれば、言葉はもちろん、仕草とか表情とか、全てのことを記憶できますもの」
「それはそうだが……」
「それに、今回もルミス様をはじめ、騎士団の方々が協力してくれますし、なにより……ブラハルト様が一緒にいてくださります。それだけで、私は百人力……いえ、一万人力ですもの!」
ブラハルト様に安心してもらうために、そして自分は大丈夫だと表現するために、ふんすっと握り拳を作って見せる。
しかし、筋力が全然ない私の腕には、力こぶは全然できなかった……。
「ああ、わかった。俺の命に代えてでも、君を守ると誓うよ」
「……誓わないでください」
「えっ!?」
「それだと、万が一のことがあったら、ブラハルト様が死んでも私を守るってことですわよね!? そんなの許しません! 私達は、必ず終わらせて幸せになるんですの! よろしくて!?」
「は、はい!」
珍しく私が口調を荒げるものだから、ブラハルト様は驚いてしまい、背筋をピンと伸ばして、元気な声で返事をした。
一方の私は、それ以上何も言わず、しゅん……と体を少しだけ縮こませた。
「……でも、やっぱりちょっと不安なんです。うまくいかないで、全部バレたら……なにをされるか……私は良いんです。でも、ブラハルト様や周りの人がって思うと……」
「エルミーユ……」
胸の奥でくすぶっていた小さな不安。それを口にしただけで、その不安は大きくなっていく。
しかし、その不安はブラハルト様に抱きしめられたおかげで、スーッと消えていくのを感じた。
「大丈夫、俺が必ず守るから」
「本当ですか……?」
「ああ、その証拠を見せるよ」
「あっ……んんっ……」
ブラハルト様は、私に合わせて少し屈むと、私の唇をそっと奪った。
甘美なキスをしていたら、とても強い高揚感が、私の全身を満たしていっている。恥ずかしいけど、嬉しくて、暖かくて、でもやっぱり恥ずかしくて、胸の奥がキュッと締め付けらえるような……そんな不思議で温かい気持ちだ。
「はぁ……はぁ……ブラハルト様、もう少しだけよろしいでしょうか?」
「そうだな……仕事は一通り片付いているし、今日はもう休んでもよさそうだな」
「それじゃあ……」
「ああ、いこうか」
私はブラハルト様に引っ張られて、ベッドまで連れて来られると、優しく寝かせられ、そのまま再びキスした。
この時には、既に不安は完全にどこかに行ってしまい、ブラハルト様への愛する想いだけが、私の身も心も支配していた。
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