第五十一話 ボクとの結婚
■コレット視点■
エルミーユお姉様と久しぶりに会ってから少し経った頃、あたしは婚約者であるヴィルイ様とのつまらないお茶会を終わらせた後、今日も部屋にエドガー様を部屋に呼び出し、イチャイチャしていた。
「今日の君も、目がくらんでしまいそうになるくらい美しいね」
「やだぁ、いくら本当のこととはいえ、そんなに褒められたらちゃうよ!」
あたしの顎をクイっと持ち上げ、そのまま深くキスをしてきたエドガー様の背中に、両腕を持っていく。
このままベッドに倒れこみたいところだけど、この後すぐに例の男……シュムゲとかいったっけ? エルミーユお姉様達を襲った男がやって来て、話をする予定なんだよね。
「と~っても名残惜しいけど、そろそろ行かないとね」
「やだやだぁ、もうちょっとだけ!」
「まったく、仕方のない娘だね」
約束の時間が目前に迫ってきているというのに、あたし達はその後もイチャイチャしまくり、結局三十分遅れてお父様の部屋に行った。
「遅い。コレットよ、一体何をしていたのだ」
「ちょっと準備に手間取っちゃって!」
「……はぁ。おいファソン、てめえの遅刻癖はいつになったら直りやがる」
「やあやあ、ボクの大親友シュムゲくん! ご機嫌はどうかなぁ~?」
「露骨に話を逸らすな。あと、何度も言わせるな。俺はてめえの親友じゃねえ」
「う~ん、今日もそのツンツンっぷり、しびれるぅ〜!」
遅れて来たというにもかかわらず、エドガー様はヘラヘラと笑いながら椅子に腰を下ろすと、用意されていたお菓子を遠慮なく食べ始めた。
本当に、この人は元貴族なのか疑問に思うくらい態度に品がないけど、そこが面白くて大好きなんだよね!
だって、エルミーユお姉様みたいな堅物とか、一緒にいても全然面白くないし! あ、いじめて遊ぶおもちゃという意味では、エルミーユお姉様の方が最適かもしれないね!
「まあいいや。んで、その後のお二人さんの様子は?」
「てめえの作戦がぴったりとはまったようだ。あのパーティーのあと、奴らは大喧嘩したみたいでな。無事に互いに信じられなくなり、破局した」
「それは本当ですの!? あの子が不幸になるなんて、本当にめでたいですわ!」
あたし達家族の中でも、一番エルミーユお姉様を忌み嫌っているお母様は、満面の笑みで喜んだ。
かくいうあたしも、嬉しくて思わず小躍りしそうだよ。
これも全て、勝手に幸せになったエルミーユお姉様が悪いのよ! ふふっ、ざまあみやがっての! あぁ~いい気味~!
「我々の作戦は、見事にはまったということだな。破局後の様子はどうだ?」
「エルミーユ・アルスターは家を出たが、行く場所が無くなって途方に暮れているのを見た。ブラハルト・アルスターはイリチェ村で見かけたが、随分と意気消沈していた。覇気が全く感じられず、生きた屍のような印象だ」
「あはははっ、なにそれ傑作! ブラハルト様はどうでもいいけど、家無しになったエルミーユお姉様は見てみたいかも!」
そこらへんで物乞いと化して生きているのかしら? それは……とーっても可愛そうで! とーっても愉快だね!
そんな、人がテンション上げて喜んでいるところに水を刺すように、部屋の扉をノックされる音が響いた。
「お話中に失礼いたします! ご主人様あてに、お手紙が届いております!」
「手紙だと? そんなものは、来客が帰ってからにせんか、馬鹿者!」
「しかし……差出人が」
おずおずと渡された手紙を見たお父様の表情が、一瞬強張った。
それが気になって、覗き込むように手紙の差出人をみると、そこにはエルミーユと書かれていた。
「エルミーユだと? 一体何の用で手紙など……」
「そもそも、エルミーユは文字の読み書きは出来ませんのよ?」
「ほう、これはなんだか面白そうな匂いがしますねぇ! ささっ、ここは男らしく読んでみましょう!」
「もう、エドガー様ってば、男らしい読み方ってなによ~?」
「そうだな~……拝啓っ! ワーズ家の皆様にっ! おかれましては! お健やかに! お過ごしのことと! ぞ~んじ、あ~げまぁぁぁす!!」
「あはははははははっ、ちょ、意味がわから過ぎて……あはははっ! お、お腹痛い……!」
エドガー様は、なぜか筋肉を主張するような変なポーズを取りつつ、キリッとした表情を浮かべながら、手紙でよくありそうな言葉を並べる。
その姿が、あまりにも面白くて面白くて……涙まで出てきちゃった!
「バカにはバカがお似合いとは、このことだな」
「ちょっと、あたしは天才だよ! バカなんて言わないでほしい!」
「口じゃいくらでも言えるだろ」
「あなた達、いい加減口を慎みなさいな。それであなた、手紙にはなんと?」
「……要約すると、浮気されたから離婚を申し出た、ブラハルトに浮気のことを謝罪されたが、それでも許せなくて突っぱねたら、暴力を振るわれるようになった。つらいから家を飛び出したが、行く場所がどこにも無いから、実家に帰ってきたいという旨だ」
あははっ! なにそれ、浮気されるわ、本当に暴力を振るわれるわ、住む場所もなくなって泣きついてくるわ、めっちゃ不幸じゃん! 面白過ぎるでしょ! そのままずっと不幸なら、もっと面白いのに!
とはいえ、あたしは聖母のように優しいから、帰ってくるのを許してあげてもいいかな。その方が、間近で不幸になったエルミーユお姉様が見れるし!
えへへへへ……楽しみすぎて、手の震えが止まらないよぁ。なにをしていじめてあげようかな?
……なんて、とても楽しみにしているあたしに、またしても水を差す人が現れた。
「私は反対ですわ! あんな女なんて、見たくもありませんもの!」
「私も反対だ。自分の汚点を再び戻すなど、ありえない」
そう、お父様とお母様だ。
お父様からしたら、一夜の過ちで出来た子供なんて、近くに置いておきたくないもんね。実際に、それが原因でエルミーユお姉様に酷いことをしてたし。
お母様も、エルミーユお姉様のことを忌み嫌い、あたしだけを溺愛してたくらいだし、帰ってこられても邪魔だよね。
でも……あたしはまたエルミーユお姉様で遊びたいの! それに、あたしは自分の思った通りにならないと、気が済まない性分なの!
「やだ~! エルミーユお姉様を家に迎えてあげようよ!」
「駄目だ」
「コレット、わかってちょうだい。そうだ、代わりにあなたがほしいものを何でも買ってあげますわ」
「や~だ~!」
その場でドンドンと地団太を踏みながら、お父様とお母様に反抗する。
なんでも買ってもらえるのは魅力的な提案だけど、それよりもあたしはエルミーユお姉様という遊び道具を取り戻したいの!
「なんだか随分と大変なご様子ですね~。もしよければ、ボクに任せてもらえませんかぁ? もちろん、お礼はいただきますが」
「なんとかできるのか?」
「ええ、お約束しますよ〜」
「……ふん、やむを得ないか」
お父様とエドガー様が、なにかヒソヒソと話をしているけど、そんなのアタシには関係ない。首を縦に振るまで、ずっとねばってやるんだから!
そう思った私に、エドガー様はあたしにニコニコしながら近寄ると、そっと耳打ちをしてきた。
「ボクの可愛いコレット。ちゃんと言うことを聞ければ、あとでたっぷりと可愛がってあげるよ」
「え、本当に?」
「もちろん。いつもの何十倍も楽しませてあげるよ」
何十倍って……普通でも凄すぎて、後が大変なのに……その何十倍なんて……ど、どうなっちゃうんだろう。
……ごくり……ちょ、ちょっと興味あるかも……エルミーユお姉様よりも、そっちのほうが欲しい……!
「……お父様、お母様、今回だけは言うことを聞くよ」
「まあ、さすが私達の愛娘だわ!」
「貴様、一体何を吹き込んだのだ?」
「あはは~っ! ご想像にお任せしま~す!」
いつものように笑うエドガー様は、私の肩を強く抱いた。
もう何度もエドガー様に愛されているせいか、こうして触れ合っているだけで、ドキドキする体になっちゃっている。もうエドガー様無しでは生きていけないかも……。
「とりあえず、家に帰らせない方向なのはいいが、このまま放っておくのも、それはそれで問題があるかもしれんな」
「え、どうして?」
「離婚していくあてが無くなった娘を放っておくなんて、ワーズ家は酷い家だという悪評が流れてしまうのは避けたい。それに、失うものがなくなり、自暴自棄になって過去のことを言いふらされる可能性もある」
あ~……それはちょっと面倒かも。あたしには直接関係のないこととはいえ、後々になってお鉢が回って来たら、たまったものじゃないよ。
「それなら、金銭面だけ支援すれば万事解決ですよ!」
「それも手だが、それだけではまだ危うい」
「ワーズ家の家長は、心配性なんですから! このこの~!」
「馬鹿にしているのか? 家を守る者として、当然だ」
お父様、今更馬鹿にしてるとか言っても、さすがに遅いと思うんだけどなぁ……エドガー様、最初から今まで、常にお父様を馬鹿にしてると思うよ……?
見てる分には面白いから、これからも言うつもりはないけど!
「それなら、良い手がありますよ! ボクとエルミーユが結婚すればいいんです!」
『…………は?』
その場にいた全員の呆気にとられた声が、部屋の中に響く。
え、えっと……エドガー様がエルミーユお姉様と結婚って……そんなことをしたら、あたしのことを愛してくれなくなるじゃん!!
「大丈夫、ボクが本当に愛しているのは君だけさ。これはあくまで作戦の一端だからね」
「ほ、本当に?」
「本当さ、愛しのコレット」
耳元で愛を囁かれたせいで、思わず体がゾクっとしている間に、エドガー様はいつものようにヘラヘラと笑いながら、さっきの言葉の説明を始めた。
「まあまあ、そんなに愉快な顔をしてないで、聞いてくださいよぉ。ボクをあなた達の古い友人として、エルミーユに新しい婚約者として結婚すれば、馬鹿な貴族達には、エルミーユのためにすぐに新しい相手を探した有能な家だと思われますよぉ?」
「な、なるほど……?」
「それにほら、娘と友人を支援するという名目で援助をしても、なんら不思議ではないでしょう? あ、お金はそんなに用意しなくてもいいですよ。ボクが愛しの弟君とお話して、慰謝料として毎月援助させますから! う~ん、ボクってば気配り上手ぅ!」
そうやって無駄に自画自賛するところ、本当に面白い! 貴族の人って、大体がそんなことありませんよ~みたいなかんじで、謙遜する人ばかりだから、エドガー様みたいなのは新鮮だよ!
「……どうして急にそんな提案をするんですの? それをするメリットが、あなたにありまして?」
「メリット、ですかぁ……弟から婚約者を奪った優越感とか、美人の婚約者を手に入れられるとか……まあ色々ですね! あ、もちろん断っても良いですよ。その時は……これ以上言う必要はありませんか~!」
「ちっ……どこまでも貴様の掌の上だと言いたいのか」
お父様は、忌々しそうにエドガー様を見つめる。それに対して、エドガー様はいつものような態度……ではなく、無表情でお父様の隣に立ち、その肩を抱いた。
な、なんなの……いつものエドガー様と同じ人とは思えない。なんだか、背筋がゾッとしちゃった。
「何か勘違いをしていませんか? 確かにこの状況では、ボクが悪者に映るかもしれませんが、それもこれも、全てあなた達の行いのせいですよ」
「……っ!」
「ふん。勝手に決めるのは結構だが、その案はうまくいくのか?」
「おいおい、大親友なのにボクの話術を知らないのか~? ボクにかかれば、どんな女性でもイチコロさ」
すぐにいつもの調子に戻ったエドガー様は、意味深にあたしの方を見ながら、ウィンクをする。
確かにエドガー様には不思議な魅力がある。それに加えて、あたしのことをたくさん褒めてくれて、深く愛してくれる。
そのおかげで、あたしはもうエドガー様にぞっこんで、婚約者であるヴィルイ様とか全く眼中に無くなってるもん。
「さてと、それじゃあ未来の妻との話をするため、そして今回の大成功を祝して、最高の祝いの席を準備しないとね! シュムゲ、良い店頼むよ?」
「なんで俺が……」
「沢山弾むからさ……お・れ・い」
「ちっ……仕事なら仕方がない」
「そうと決まれば、ボクも準備しないと! んじゃみなさま、バイバ~イ!」
そう言い残して、エドガー様は屋敷を去っていった。
あーあ、話が終わったらエドガー様とイチャイチャするつもりだったんだけどな~……まあ今回だけは我慢するしかないか~。
「ふふっ……美人姉妹を両方楽しめるなんて、こんな機会はめったに無い……それに、ブラハルトを破滅させた後の資金も、仮に国家からぶんどれなくても、問題は無くなる……まさにボクの一人勝ちじゃないか! ふっ……ふふっ……あはっ! あはっ! あはははははっ! ボクの人生らくしょ~! 笑いが止まんねぇ~!!」
「…………ふん、馬鹿な男だ」
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