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第四話 婚約破棄!?

「……はい? 今なんと仰いましたか?」

「だから、君との婚約を破棄して、コレットと婚約をするんだ」


 同じことを二度言わされたからか、ヴィルイ様は少し眉間にシワを寄せていた。

 聞き間違いかと思ったけど、私の耳がおかしくなったわけじゃなかったようだ。


 婚約破棄なんて、冗談じゃない。結婚が出来なかったら、私はこの屋敷を出ることが出来ないわ!


「そんな話、私は何も聞いておりませんし、納得できるはずがありませんわ!」

「君が納得いかなくても、これは既にワーズ家とジョレッド家の間で話し合い、両家共に了承していることだ」

「っ……! どうしてそんなことになったのですか!?」

「それは、自分がよく知っていることだろう?」

「わ、私が?」

「エルミーユ、君はコレットに日常的に肉体的にも、精神的にも酷いことをしてきたそうじゃないか」

「はっ……?」


 ヴィルイ様の仰っていることが全く意味がわからなくて、変な声が出てしまった。


 私はコレットにそんなことなどしていない。むしろ、日常的に酷いことをされているのは、私の方だ。


「暴力を振るったり、食事を抜いたり、寒い部屋に放置したり、随分とやりたい放題だったそうだね。コレットから全て聞いたよ」


 だから、それは私が幼い頃からされていたことだ。

 もしかしてコレットは、私がされていたことを、全部自分がされていたことに置き換えて話したの?


「そ、そんなことはしておりませんわ。むしろそれは――」

「ぐすんっ、大好きなエルミーユお姉様とはいえ、毎日つらくて……お父様とお母様に相談しても聞いてもらえなくて……それで、ヴィルイ様ならなんとかしてくれると思って……」


 私の言葉を邪魔するように、コレットは涙声で弱音を漏らす。


 傍から見れば、とても可哀想で儚げな少女に見えるかもしれない。

 でも、私は見逃さなかった。顔を覆う両手の隙間から見えた、嫌らしく上がる口角を。


「可哀想なコレット……ご両親の弱みを握ってまで、コレットを虐げていると聞いた時は、耳を疑ったよ。エルミーユが、そんな酷い人だとは思っても無かったからね」

「よ、弱みって……?」

「君の出生のことだ。君のお父上は、使用人だった女性に襲われたことで、君が生まれたが、それをお父上が襲ったと偽りの噂を流すと、脅したそうじゃないか。ご本人からも、脅されていると直接聞いている」

「なっ!?」


 ヴィルイ様から語られた内容の衝撃は、凄まじいものだった。

 まるで、頭の先からつま先まで、強い稲妻が走ったかのようだ。


「それは違います! 虐げていることはコレットの嘘ですし、私の出生のことは本当です! 私のお母様は――」

「ヴィルイ様、可哀想なエルミーユお姉様をあまりいじめないで上げてください。きっと真実を受け入れられなくて、あたしをいじめて鬱憤を晴らしたかったんですよ」

「ヴィルイ様、私を信じてください!」

「エルミーユ、これを見てもまだ同じことが言えるのかい?」


 ヴィルイ様は、そっとコレットのドレスの袖口を上げる。

 そこにあったのは、痛々しく刻まれた切り傷や、青あざだった。


「この傷は、君がやったものだね」

「い……いえ、違います」

「口では何とでも言える。この傷以外にも、体全体にたくさん傷があるのを、この目で見させてもらったよ」


 まだ嫁入り前の若い女性が、体中にある傷を殿方に見せたというのも気になるが、どうしてそんな傷があるのかの方が重要だ。


 私が知る限りでは、腕にあんな怪我はなかった。

 それに、ちょっと転んですりむくだけで大騒ぎをするコレットが、そんなにたくさんの傷がある状態で、耐えられるとも思えない。


「もう言い訳をする必要はないよ。とにかく、コレットの話を聞いた僕は、君との婚約を解消することに決めた。それを決めてから、君と関わるのも嫌になって、極力関わらないようにしていた」


 最近冷たい態度を取っていたのは、そういうことだったの?

 いくら愛し合っていない関係だったとはいえ、嘘を信じ込んで態度を一転させるのは、納得できるものじゃない。


「それでね、親身に聞いてくれるヴィルイ様のことを、いつの間にか好きになっちゃって……エルミーユお姉様には申し訳ないけど、自分の気持ちに嘘をつけないの」

「僕も、コレットと交流を続けているうちに、彼女の優しさや愛らしさに心をを奪われてしまったから、僕から婚約を申し出たんだ」

「あたし、中々婚約者に恵まれなかったから、本当に嬉しかった! エルミーユお姉様なら、祝福してくれるよね?」


 さっきまでめそめそしていたのが嘘のように、コレットは小首を傾げながら、ニッコリと微笑む。


 祝福なんて、出来るはずもない。

 今だって、怒りや悲しみといった負の感情を発散させるために、テーブルの下で握り拳を作っているくらいだ。


 でも、ここでコレットとヴィルイ様に何を言っても、決定は覆ることは出来ないと思う。

 それなら……今の私に出来るのは、とりあえずこの場を乗り切って、お父様に直談判をすることだろう。


「あれ、エルミーユお姉様? 急に立ち上がってどうしたの?」

「少し体調がすぐれないから、今日は失礼させてもらうわ。あとはお二人でどうぞ」

「まだコレットの傷についての説明と謝罪を受けていないが?」

「何度聞かれても、私の答えは変わりません。では、失礼いたしますわ」


 私は丁寧にお辞儀をしてから、二人の前から立ち去った。


 あまりにも色々な情報を頭に詰め込んだせいで、少し眩暈がするけれど、この地獄から逃げだすために、立ち止まってはいられない。早くお父様とお義母様に事情をお伺いしないと。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、モチベーションに繋がりますので、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


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