第三十三話 奴らをどん底に
■コレット視点■
あれ、アルスターって確か……エルミーユお姉様が結婚して、嫁いでいった家の名前じゃん!
エドガーって名前は聞いたことがあるけど、結婚したのってブラハルトって名前だったよね? 他にはアルスター家に結婚できそうな人っていなかったはずだよ?
「馬鹿な、エドガー・アルスターだと……!?」
「アルスター家の長男は、事故で亡くなったはずではありませんか!」
そうそう! アルスター家の前の当主と夫人、そして長男が事故で亡くなったから、ブラハルトって人が若くして家長をしているんだよね?
なのに、どうして死んだはずの人がここにいるわけ? ひょっとしてオバケ!? やだ~こわ~い!
「ふっふっふっ……ボクはこの世に残ってしまった怨念……なぁんて冗談ですよ~! 色々あって、ボクは死んだことになっちゃってるんですよねぇ」
一瞬だけ怖い顔を見せたカッコイイ人……もといエドガー様は、すぐにヘラヘラと笑ってみせた。
こういうおちゃらけた人は、あまり社交界では好まれないけど、あたしはこういう人って好きなんだよね! 喋ってて楽しいし、さっきみたいに急に真面目なことをされると、そのギャップでドキッとしちゃうし!
「さて、おふざけはこれくらいにしておきましょう。実はあなた方に、少々協力してほしいことがありましてね」
「協力だと?」
「あなた方にとっても、悪い話ではありませんので、聞いて損は無いですよ。ああ、協力してもらえるなら、さっきの話は漏らしませんよ」
今の言い方だと、協力をしないならわかってるな? って言っているように聞こえるんだけど?
別にあたしは、家の評判とか噂とか、全然興味ないけど、それで大好きなお父様とお母様が困ってしまうのは、見たくないかな……。
「単刀直入に言いましょう。ボクと一緒に、弟のブラハルトと妻のエルミーユを、破滅させてください」
エドガー様の申し出によって、さっきよりも部屋の空気が張り詰めた。
破滅させるって、一体何があったらそんな発想になるんだろう? まあ、エルミーユお姉様が不幸になるのは、面白そうだから大歓迎だけどね!
「なぜそのような提案を、我々を脅してまで提示した?」
「簡単ですよ。エルミーユを心底嫌っていたあなた方なら、エルミーユが幸せになったら面白くないと思うでしょう? ただ、普通にお願いしても聞いてくれなさそうなんで、ちょっとだけ交渉材料を用意したまでです」
「エルミーユお姉様には、どん底の人生が良く似合うのはその通りかも! って……今のエルミーユお姉様って、幸せなの?」
「ええ、と~っても幸せらしいですよ! ボクの友達が仕入れた情報ですから、間違いはないです」
はぁぁぁ!? エルミーユお姉様が幸せとか、世界が滅びることよりも許せないんだけど!?
あたしはてっきり、評判最悪の家に嫁いだせいで、うちにいる時よりも酷い目に合っていると思ってたのに!
「あたしのおもちゃとしての役割から逃げて、面白くもない男をあたしに押し付けておいて、自分だけ幸せとか信じられない!」
「コレット、口を慎め。はしたないだろう」
「あっ……ごめんなさい、お父様」
しまった、つい感情に任せて素を出しちゃった。人前では、良い来場でいないといけないのに……失敗失敗。
「ははっ、気にしなくてもいいよ。ちなみにボクも似たような考えなんだ。ボク達、案外気が合うのかもしれないね! どう? ボクと友達にならない?」
確かに、嫌いな人をどん底に叩き落としたいって考え方は似てるかも!
「私達を脅しておいて、大切な娘を口説こうとしないでくださいまし!」
「ははっ、これは失礼しました!」
「……それで、どうしてあなたがそのような考えをお持ちになられたんですの?」
お母様が質問を投げかけると、一瞬だけエドガー様の表情が歪んだ。
「ボクもあなた方と似たような考え方でしてね。ボクの劣化でしかなくて、ボクの言うことに何も逆らわなかった弟が、幸せになってボクに逆らうのが気に入らないんですよ。それ以上に、あの女……ああくそ、あの生意気な顔を思い出すだけで、全身が熱くなる!」
い、一体エルミーユお姉様と何があったんだろう……気になるけど、さっきまであんなにふざけていた人がこんなに怒るくらいだし、聞いたら面倒なことになりそうだから、聞かないでおこっと……。
「おっと……あはは、ボクとしたことが、ついうっかり! いや~申し訳ない! 話を戻しましょう。今回の件のやり方については、こちらにまとめましたので、一読してください。もしなにか意見があれば、言ってもらえると助かります」
エドガー様は、お父様に三枚の書類を渡した。
あたしも見たい~! えっと、なになに……わぁ、随分とびっしりと書かれてる! どれだけ今回のことに本気かがよくわかるよ!
「貴様のやりたいことは把握した。だが、これを我々に実行しろと? もし何らかの理由でこれが公になれば、ワーズ家への損害は計り知れん」
言われてみれば、ここに書いてあることをすれば、エルミーユお姉様やブラハルト様にとって嫌な状況になるだろうけど、普通に犯罪っぽいことが書かれてるね……。
「そこはご心配無く。ワーズ家にしてもらいたいのは、あくまでサポートです。実行に関しては、ボクの方にお任せください。もしバレたら、ボクのことを言ってくれればいいですよ。それか、ワーズ家の権力でもみ消せばいいですし? そうそう、サポートしてもらいたい部分は太字で書いておきました」
「……随分と用意周到ですこと。どれだけ二人に恨みを持ってるんですの?」
「あはは、そこはご想像にお任せしますよ! それで、どうでしょうか?」
お父様は、腕を組みながら唸り声を上げる。
悩む必要なんて無いと思うけどなぁ……あたし達が責任を取る必要は無さそうだし、エルミーユお姉様をまた不幸に出来るし。
それに、そもそも断ったら面倒なことになるだろうしね。
「………………わかった、その話に乗ろう」
「さっすが~、話が早くて助かりますよぉ! んじゃ、作戦の実行日とか諸々の話は、また今度しに来ますね~。ほら、突然お邪魔して長居するなんて、無礼ですし? それじゃ、ごきげんよう~」
「待て。エルミーユはすこぶる記憶力がいいから、そこだけは気を付けろ」
「ほうほう、それは彼女から聞いてませんでした! 貴重な情報、感謝感激〜! ではでは〜」
エドガー様はまたヘラヘラと笑いながら、部屋を後にした。彼がいなくなった後の部屋は、何とも言えない空気になっていた。
こんな空気の部屋なんかにいたくないよ。それに、早くエドガー様を追いかけて、もっと仲良くなっておかないと!
「ねえ、待ってよ~!」
お父様の部屋を飛び出したあたしは、急いでエドガー様の後を追いかけると、鼻歌を歌いながら廊下を歩いている姿を見つけた。
「ん? やあ美しいお嬢さん。ボクになにか用かな?」
「お嬢さんじゃなくて、コレットだよ!」
「もちろんわかっているさ。しかし、この呼び方の方が、君の美しさに感動しているボクの気持ちを伝えられるかと思ってねぇ~」
そんな、美しいだなんて……わかってることとはいえ、改めて言われると照れちゃうよ〜。
「ちょっと話があるから、こっちに来て!」
「っと、そんなに焦らなくてもボクは逃げないよ~?」
お父様とお母様に気づかれると面倒だと思ったあたしは、早足で自分の部屋にエドガー様を招いた。
「自室に連れ込むだなんて、随分と情熱的だねぇ」
「ふふ……あたしと仲良くしてほしいなって! もちろん、男女の関係として!」
「おっと、これは嬉しいお誘いだね。でもいいのかい? ボクは交渉するためとはいえ、ワーズ家を脅すような人間だよぉ?」
エドガー様は艶めかしい笑顔で、あたしの顎をクイっと持ち上げた。
や~ん、そんな綺麗な顔で見つめられたら、ドキドキしちゃうって!
「協力するってなったんだから、もう脅すことはしないでしょ?」
「それはもちろんさ。協力者を貶めるようなことなんて、考えただけで胸が張り裂けそうだよ! あぁ、ボクにはこの胸の痛みを伝える術がないが、今だけはそれに感謝したい! なぜなら、君にその気持ちが伝わってしまい、悲しませてしまったかもしれないからね!」
あたしの美貌にほれ込んだのか、それとも別の思惑があるのか知らないけど、この言い回しが面白くて、癖になりそう!
「ぷっ……あはははは! 本当に面白い人だね! あたし、イケメンで面白いあなたが気に入っちゃった! だぁ~かぁ~らぁ~……ね、いいでしょ?」
「……ああ、もちろん。言っておくけど、ボクの愛はとても激しいよ?」
「ふふっ、その方が互いに色々な意味で良いでしょ?」
「違いない。それじゃあ、さっそく……といいたいところだけど、さすがに君の両親にバレたら、面倒なことになりそうだねぇ」
あ~……確かにそうかも。お母様には愛人が欲しいとお願いしたけど、その相手が脅してきた相手だと知ったら、さすがに怒られそう。
「だから……はい」
「なに、この紙切れ?」
「僕が住んでる場所に行くための地図さ」
「ありがとう! なるべく近いうちに遊びに行くよ! そうだな~……三日後の夜には遊びに行けると思う!」
「わかった、楽しみにしているよ、コレット。ああそれと、その日は帰すつもりは無いし、寝かせるつもりもないから、そのつもりでね」
そう言うと、エドガー様は私に軽くキスをして、今度こそ屋敷を後にした。
「ファーストキス、奪われちゃった〜えへへ」
イケメンで、面白くて、ちょっとキザっぽい感じで、自分の目的のためなら情報集めや脅しも厭わない強かさ……もう……さいっこう~!!
決めた! 絶対にあの人を、あたしの愛人にする! 堅物男と結婚生活をするよりも、エドガー様と愛し合う方が、絶対に楽しいに決まってるよ!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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