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第三十一話 告白

「随分と唐突だな。エルミーユが話したいのなら、もちろん聞かせてもらうよ」


 ブラハルト様の許可を貰った私は、一度深呼吸をして落ち着いてから、ゆっくりと口を開いた。


「……私は……ブラハルト様のことが……」


 口を開いたのはいいけれど、そこから先の言葉が出てこない。

 その代わりに、いざ好きと伝えようとした私の頭に、ある考えが浮かんできた。


 あくまでマリーヌから見たら、ブラハルト様は私のことを異性として愛しているように見えるだけで、本当は私のことを、異性として愛していないのでは?


 私が気持ちを伝えてしまったら、ブラハルト様には迷惑になるのでは?


 そんな気持ちなんて持ってもいないのに、異性としての好意を向けられたくないと、嫌われてしまうのではないか?


 考えれば考える程、悪いことばかりが頭に浮かぶ。それに伴うように、全身から血の気が引いていくような感覚がする。

 体は震え、冷たい汗が流れ、目の前がだんだんと暗くなっていった。


「エルミーユ」


 優しく私を呼ぶ声に応えるように顔を上げると、そこには真剣な表情のブラハルト様の姿があった。


「すまない、エルミーユ。こういうことは、男である俺から先に伝えるべきだし、そうするつもりだったのだが……エルミーユの口から、俺が今一番聞きたい言葉を聞けると思ったら……俺は本当に情けない男だ」

「ぶ、ブラハルト様……?」


 そう仰ると、ブラハルト様は私の隣にやってくると、その場で片膝をつき、私の手をそっと取った。


「俺は……君のことを愛している」

「……えっ……?」

「愛さないと最初に言っておきながら、虫の良い話だと思われるのはわかっている。だが……エルミーユと一緒に過ごしていくうちに、いつの間にかエルミーユを心から愛していたんだ」

「ほ、本当に……?」

「ああ。これからも、エルミーユのことを世界一大切にし、愛すると誓う。今までは守ってもらってばかりだったが、これからは俺がエルミーユを守る。だから……互いの利益のための仮初の夫婦ではなく、互いに愛し合う理想の夫婦になってくれないか?」


 ……どうしよう、嬉しすぎて何も言葉が出てこない。その代わりに、とめどなく涙が溢れてしまっている。


「うっ、うぅ……」


 ブラハルト様の愛の告白の答えは、もちろん決まっているのに、声がうまく出ない私は、嗚咽を漏らしながら、大きく頷いた。


「わたっ……私も……ブラハルト様を愛してます……優しくて、真面目で、多くの人のために頑張る誠実なあなたが……大好きです……!」

「ありがとう、エルミーユ」


 喜びや感動、想いあっていた安心感といった感情で涙を流す私は、ブラハルト様に優しく抱きしめられた。


 愛する人と結ばれることが、こんなに嬉しいことだったなんて、知らなかった。

 この喜びを言葉にして、ブラハルト様にちゃんと伝えたいのに、私にはその力は無く、代わりにしがみつくように、ブラハルト様の背中に手を回した。


 そして、そのままブラハルト様と見つめ合うと、自然と互いに顔を近づけて――


「おめでとうございます、坊ちゃまー!」

「うおっ!?」

「きゃあ!?」


 互いの愛を確かめ合おうとした瞬間、どこからか大きな祝福の声が聞こえてきた。

 その声に驚いてしまった私達は、咄嗟に離れて辺りの確認をすると……庭の茂みからマリーヌが飛び飛び出してきた。


「よがっだ……お二人が結ばれで、ほんどうによがっだです……!!」

「ま、マリーヌさん!? 出てこないで見守るって話だったじゃないですか! それに、明らかに出て行っては駄目なタイミングでしたよ!?」


 マリーヌに続いて、建物の陰から使用人が出てくると、号泣し続けるマリーヌのもとに慌てて駆け寄った。

 その他にも、続々と使用人達が茂みや建物の陰から姿を見せた。


 も、もしかして……今の告白をたくさんの使用人に見られてたってこと……!?


「なるほどな……今日はどうして外での食事なのかと思っていたが、俺達を見守れるようにするためか。部屋の中だと隠れる場所が少ないからな。それに、珍しく食事の準備が遅くなっているのもわざとで、告白が出来る時間を設けたのだろう?」

「お、仰る通りです。我々一同、お二人のことが心配で心配で……仕事で手が離せない者以外は、見守らせていただきました」


 マリーヌの元に駆け寄った使用人が、簡単に説明をしてから、申し訳なさそうに頭と眉尻を下げた。


「やり方は少々あれだったかもしれないが、心配してくれていたのは事実……エルミーユ、彼らを許してやってくれないか?」

「許すもなにも、私は彼らを怒ってなどいませんわ。だから皆様、お気になさらないでください」

「それで、今回のことは全部マリーヌが準備をしたのか?」


 いまだに泣き続けるマリーヌは、うんうんと何度も頷いた。


「当然じゃありまぜんが~! 坊ぢゃまにも、エルミーユざまにも相談ざれだんですがら~! 急いで準備をしだんですよ~!」

「……えっ? ブラハルト様もご相談されたのですか?」

「エルミーユもか?」

「は、はい。マリーヌに胸の高鳴りのことについて相談したら、恋だと教えてもらって……お手伝いもしてくれると」

「俺も、イリチェ村から帰ってきてすぐに、同じことをマリーヌに相談したんだ。それで、俺も同じ様にそれが恋だと教えられて……今日の夜に伝えようと思って、夕方までに仕事を片付けてきたんだ」


 まさか、同じ内容を同じ日に、そして同じ人に相談していただなんて、思ってもなかった。

 そう思うと、なんだか途端に面白くなってきて、自然と笑みが零れた。



「ははははっ! 夫婦揃って同じ事をしていたなんてな!」

「ふふっ……うふふふ……! 本当ですね! 私達、変なところで似た者同士ですわね!」

「まったく、その通りだな!」


 ああ、面白い……! こんなにたくさん笑ったのは、生まれて初めての経験だわ。笑いすぎて、お腹と顔がちょっぴり痛いくらい。


「ほらマリーヌさん、泣いている場合じゃありませんよ!」

「うぅ……坊ちゃま、エルミーユ様、改めてお祝いさせてください。おめでとうございます!」


 まだ涙声ではあったが、マリーヌは使用人を代表して、再び祝福の言葉をかけてくれた。

 それに続いて、見守っていた使用人達も、揃って祝福の言葉と共に、深々と頭を下げた。


 最初は見られてて恥ずかしいと思ったけど、これも私達のことを心配したゆえの行動だと思うと、嬉しい気持ちになってくる。


 私、こんなに幸せになってしまって良いのだろうか? 今までずっとつらい生活をしてきたから、こんなに幸せになってしまうことに、戸惑いを覚えてしまう。


「さあ、無事に告白を終えたことですし、二人が結ばれた記念のパーティーを始めますよ! コック長に、告白が終わったらご馳走を出せるように、お願いしておいたんです!」

「そ、そこまで大事にしなくても良いのではありませんか!?」

「いや、せっかく準備してくれていたものを、無下にするのは良くない。それに、俺も結婚パーティーを開けなかった分、エルミーユと結ばれたことを大々的に祝いたい!」

「まさかの乗り気ですか!?」


 ――結局その後、私があたふたしている間に、ブラハルト様とマリーヌの指示の元、山のような料理やお酒が振舞われた。

 屋敷の人が大勢参加したそのパーティーは、貴族の開くパーティーよりは規模は小さかったけど、笑顔と幸せに満ち溢れた、世界一素敵なパーティーだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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