第二十一話 ブラハルト様はどこに?
「では、今日はここまでにしましょう」
翌日、今日の分の勉強を終えた私は、大きく体を伸ばした。
あぁ、本当に勉強って楽しい。自分の記憶力のおかげでもあるんだけど、やればやるほど、知識が蓄積されていく快感がたまらない。
まあ、一度にたくさん勉強し過ぎると、凄く疲れちゃうから、一日中勉強できないのが残念だ。
「では、坊ちゃまを呼んで、お茶にしましょうか」
「ブラハルト様? 今は自室で仕事をしているのでは?」
「そうでしょうけど、適度に休ませないと、ずっと仕事をしちゃうんですよ」
「確かに、アルスター家にお世話になってから、ブラハルト様が一日お休みしているのを、見たことがありませんわ……」
「休日はありませんからね。そうそう、ぬいぐるみを直す時なんか、仕事は三日ほど徹夜すれば問題ないと言って、修理をし始めたんですよ」
「あのぬいぐるみのために、そこまで……?」
それくらいの気持ちで、大切なぬいぐるみを直してくれたのは嬉しいけど、いくらなんでも、三日も徹夜をしたら倒れてしまうわ。
「お気持ちは大変嬉しく思いますが、もう少し休んだ方がよろしいかと」
「私もそう思うのですが……ご両親が遺した大切な家や領地、領民を守るために、毎日仕事をしているのです。そんな真面目で優しい坊ちゃまのために、私達が適度に休ませなければならないんです。どこかの誰かさんもその気がありますから、気を付けないとですね」
マリーヌは、私の方を見ながら、くすくすと楽しそうに笑う。
私は関係ないと言いたいところだけど、私も時間と体力があれば、ずっと勉強しているだろうから、なにも言えないのがつらいところだ。
「わ、私がお声がけしてまいりますわ!」
「私もお供しますよ」
私はマリーヌのからかいから逃げるように、ブラハルト様の部屋の前までやってきた。
「ブラハルト様、エルミーユです」
部屋の扉をノックしてみたが、何の反応も返ってこなかった。もしかして、留守なのだろうか?
「マリーヌ、今日のブラハルト様の予定はご存じですか?」
「もちろん把握はしてますが、この時間の予定は無かったはず……」
「まさか、中で倒れているなんてことは……?」
「さすがにそれは心配しすぎかと思いますけど、一応確認しましょうか。坊ちゃまー、入りますよー? 嫌なら今のうちに返事をしてくださーい」
今度はマリーヌが声をかけるが、やはり反応は無かったから、万が一のことがあるため、心の中で謝罪をしながら、部屋の扉を開けた。
そこには……ブラハルト様の姿は無かった。
「どうやら留守の様ですね」
「どこに行かれたのかしら……」
「探してみましょうか」
マリーヌの提案に頷くと、屋敷の中でブラハルト様がいらっしゃりそうな場所を探し始めた。
「おや、エルミーユ様にマリーヌさんではありませんか。ご主人様をお探しですか?」
「ええ。あなた、坊ちゃまがどこに行ったか知らない?」
「つい先程、客間に行かれましたよ」
「客間? 今日は来客の予定は無かったはず……」
「どうやら、彼がお越しになられたようです」
「ああ、なるほど……また面会の予定を入れなかったのね……」
たまたま通りかかった若い男性の使用人は、やや呆れ顔をしていた。それに釣られるように、マリーヌも深々と溜息をする。
どうしてそんな表情をするのかはわからないけど、とりあえずブラハルト様が無事みたいだし、良かったわ。お茶のお誘いが出来なさそうな雰囲気なのは、ちょっと残念だけど。
「マリーヌ、今日は一人でお茶をいただくことにしますわ」
「わかりました。では、お部屋に戻りましょう」
「はい。教えてくださり、ありがとう存じます」
「お力になれたなら幸いにございます。では、僭越ながら私もお部屋までお供いたします」
教えてくれた使用人とマリーヌと一緒に自室に戻ってくると、マリーヌは紅茶とお菓子の準備をし始めた。
はぁ……ブラハルト様は忙しいお方なのだから、一緒にお茶が出来ない日があって当然だけど、やっぱり残念に思ってしまうわ。
「どうぞ」
「ありがとう存じます……ふう、おいしい」
今日出された紅茶も、お菓子もとてもおいしいわ。
ただ一つ、ワガママを言わせてもらえるのなら……ブラハルト様がいないから、すこしだけ、ほんの少しだけ味気が無いような気がする。
……これでは、ブラハルト様がいなくて寂しいと拗ねてる子供みたいだ。
ここは、切り替えてお茶を楽しもうと……そう言い聞かせたタイミングで、廊下が急に騒がしくなってきた。
「兄上、おやめください!」
「まあまあ、いいじゃないか~!」
今の声は、ブラハルト様? そう思っていると、一人の男性が、ノックも無しに入ってきた。
「え、えっと……?」
突然入ってきた男性は、満面の笑みを浮かべながら、私の元に歩み寄ってきた。
どこかで見たことがあるような……? おかしい、私の記憶力なら、見たことがあるならすぐにわかるはずなのに。
それにしても、ノックも無しに女性の部屋に入ってくるなんて、少し失礼じゃ無いかしら?
「おお、随分と綺麗になったじゃないか~! 当時も美しかったから、妥当ではあるかな?」
「あの、どちら様でしょうか?」
「ボクのことを覚えてないっ!? あぁ、何度かお話したことがあるのに……実に悲しいよぉ! しかし、そんなことで女性に怒るほど、ボクの心は狭くない! 故に、名乗らせてもらおう! ボクの名は、エドガー・アルスターだ! よ・ろ・し・く!」
「……あ、アルスター??」
彼は私の手を遠慮なしに握ると、そのまま上下にブンブンと振った。
私の耳がおかしくなっていなければ、確かにこのお方は、自分のことをアルスターと名乗っていた。
ということは……ブラハルト様のご家族のお方!?
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