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すすき野原の三角塔

「お母さん、たんぽぽ」

ふわふわ、白い毬玉みたい。


お母さんの湿った温かい手に引かれて歩く、幼稚園までの路は、まだ一段高い歩道だけが舗装されていて、車道はブルドーザーが掘り削った赤土が剥き出しのままだった。

そもそも、くるまなんて、あんまり走っていない。


ふっ、ふーっ


ふわあっ


白い綿毛が息で飛ばされて、風に乗って、種を運んで飛んでいく。


ああ


どこまでとんでいくの?


歩道の脇には、一面すすきで埋め尽された野原。

「ここね、バッタがいっぱいいるんだよ」

「そうね、いっぱいいるわね」

「ほら、殿様バッタでしょ」

「そうね」

「細いバッタもいっぱいいるー」

「しょうりょうバッタよ」

「精霊バッタ?」

「そうよ」

歌うように言うお母さんが大好きで、手を引っ張っていると、

「重いわよ、やあめえて」

とあやすように言われて、やめる。

片手でお母さんの手につかまったまま、右手をバッタに伸ばす。

ぷ。

つかまーえたっ

「ほらっ、つかまえたー」

「まあ、いいわねえ」

にこにこ笑うお母さんが大好き。

好きなお母さんの足に顔をこすりつける。

やわらかくて、顔が埋もれる感じが大好き。

いつまでもここで遊んでいたいけど、お母さんが言う。

「ほら、幼稚園に行かないと」

「はあい」

しかたなく、バッタを草むらに放して、お母さんの手につかまって、とことこ、と歩き出す。

すすき野原の端っこには、▲の形をした塔みたいなのがあるんだよ、知らないの?

「さんかくの塔があるよ、おかあさん」

「さんかく、ねえ。ほんとね」

ブルドーザーがあそこだけ削り残したってお父さんと散歩した時にお父さんが言ってたけど、あそこだけでも残してくれてよかった。

だって、尖ってて恰好良いんだもん。

ブルドーザーでいっぱい削っちゃったんだろうね、それで平らになったところにすすきがいっぱい生えたんだって、お父さんが言ってたよ、お母さん。

「あら、そう」

「この道も、ブルドーザで削ってたよねえ、前に見たよお」

「そうだったわねえ」


ゆるく下って来る坂の下の方は、まだ削る前の山のもこもこした斜面の下の方の地形がわかるくらい、未開発でした。赤土も露出して、中途半端に削られて、まるで地面そのものが横向きに置いたドリルのようにぐるりとねじれた形をしていて、おもしろかった。あんなものはその後50年経っても他に見たことがありません。


「この前、アマガエルとトノサマガエルがいたよ」

「お母さんは、カエルはちょっと」

「ふうん」





幼い頃の感覚をできるだけ思い出して、書いてみました。

場所は四丁目の、打越へ下る辺り。

あ、清泉女学院音楽部の皆さん、Nコン関東ブロック金賞、全国銅賞おめでとうございます!

全日本合唱コンクール全国出場おめでとうございます!


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