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第一話 とりあえず生きてみる?


 夢とは、いつも唐突に始まり唐突に終わる。それは現実で言う「夢」も同じだ。そして、夢はいつの日か忘れてしまう。忘れてしまったのは、「夢」の見方かもしれないが。

 だから、目が覚めるまでは覚えていようと思った。見失わないでいようと思った。




「もうすぐね、新しい神様が産まれるの」


 彼女はそう言った。まるで我が子に向けるような微笑みを浮かべて。








                 ※







 冬だ。雪だ。

 そう思う頃にはもう全部遅くて。冬着やブーツ、こたつに冬用の掛け布団などを用意するつもりだったのに、いつの間にか周りは鋭く寒くなって。

 そして、それだけじゃなかった。自分はまだ、返事をしていなかった。そう、返事だ。

 その日は高校三年生の夏からその子と交際を始めて丁度4年になる、そんなちょっとした記念日だった。そして自分はまた、遅かった。


「私と、結婚してください!」


 「喜んで」と、咄嗟に言えればどれほど良かっただろう。ああ、またなのかと、そう思ってしまったんだ。

 彼女のことが嫌いなわけじゃない。むしろ、これまで出会ってきた女性の中で1番好ましい。そう思うのに、


「分からないよ。僕には愛が分からない」


 半ば嗚咽じみた言葉にならない言葉を泣きそうになりながら口に出すのを躊躇って、「返事を、もう少し待って欲しい」と言うことしか出来なくて。きっと、彼女からすればなぜ自分が泣いているのか分からなかっただろう。その日はお互い怪訝そうな顔を浮かべて帰った。


 あれから5ヶ月と少し。「もう少し」の期間は一般的にどれくらいなのかは分からないが、たぶんもう「もう少し」の有効期限は切れていると言える。それなのに僕らは、何も無かったと互いに言い聞かせるように普段と変わらない日常を送っていた。

 こんな日常を愛おしく思うのに、「愛が分からない」なんて言えない。いやむしろ、この日常を愛おしく思うからずっとこのままで居たかったのかもしれない。


「ああ、またなのか」


 気がつけば一人になるといつも出てしまう口癖を吐いていた。


「……」


 静かになったリビングに自分の声だけが鳴る。時計に目をやると、帰ってきて椅子に座ってから気がつけば一時間が経っていた。

 シワになる前に制服から着替えて風呂に入らなければ。夜ご飯は昨日作った肉じゃがが残っていたから温めて食べよう。今日は味噌汁はインスタントにして。はあ、明日も仕事だ。新しいプロジェクトのリーダーを任されたは良いものの、チーム内での報連相がイマイチでなかなか進まない。一度みんなでご飯にでも行くといいかもしれない。部署異動したての人も二人ほどいるから少しの残業は覚悟しておこう。そういえば、最近忙しくてなかなか行けなかった行きつけのラーメン屋台があった。一段落着いたらまた行きたい。それだけで仕事が頑張れそうだ。だから、頑張らないと。頑張らないと。頑張らないと。頑張らないと。頑張らないと……







                ※





 全身を包む暖かい抱擁。最初に感じたのはそれだった。少し身を捩るとシーツが肌を直接撫でる。だがそこでふと気がつく。

 これは服の感触じゃなくてシーツの感触なら、今自分は全裸で布団の中にいるのか?

 昨日は考え事をして、そのまんまテーブルに突っ伏して寝てしまったと思ったがそうではなかったのだろうか。記憶が遠い過去のように曖昧だ。

 とりあえず起きようと思い目を開けると、それはまるで夢のようだった。


「あ、起きた。おはよう。お母さんだよ〜」


 ……泣いた。




               ✕✕✕



 

 夢のような現実で目を覚ましてから10年が経った。すなわちこちらでは10歳とゆうことになる。

 ここ10年で分かったこと、分からされたことがいくつもあった。


 この状況は俗に言う「異世界転生」とゆうもので、元居た世界とは全く別の世界である。自分の元居た世界を基準に時代背景を考えると、おそらく中世ヨーロッパといったところ。

 

 そして、特筆すべきはこの世界には「魔法」とゆう概念があること。

 母に、


「魔法を教えるのはルーちゃんが12歳になってからね」


 と言われたので、今から楽しみで仕方がない。ちなみにルーちゃんは自分のことである。この世界では「ルカ・ルミニア」である。


 話は変わり、自分の今住んでいる所は「超大陸ハルドラ」の東側に位置する「セレン・セレス連合国」の「シリス国」のうちの「シドの町」と言うそうだ。長くて暗記するのに苦労した。地図を見せてもらったことがあるが、元世界と違いこの世界はもっとずっと大きいらしい。

 その地図は超大陸ハルドラを中心として書かれていたが、端の方は未だ未踏の地が広がっているだとか。そのためこの地図も未完成だと父が言っていた。

 

 そう、家族の話をしよう。構成は祖父と両親と自分で、祖母は自分が生まれる3年前に亡くなったらしい。先代が名のある騎士(元世界で言う武士みたいなもの)を輩出する名家の分家らしく、領土もかなり広い領主らしい。ただ、祖父の世代からその家を出ているため今は繋がりが無いに等しい。ちなみになんで家を出たかは教えてくれなかった。

 

 父「セドリック・ルミニア」は騎士で、一年のほとんどを王室のある「騎士国家アルベニア」で過ごしている。帰ってくるのは冬の約1ヶ月間の長期休暇と、任務で通りかかる時くらいだ。騎士とだけあって真っ直ぐ実直な人で、それでいていい父親でもあった。尊敬する憧れの人だ。

 母「リーナ・ルミニア」は……少し抜けている人だった。身近に魔法が使える唯一の人で、近所の人からもその力で助けて欲しいことがあると度々頼まれるのだが……なんとゆうか散々だ。

 羊を捕まえに行ったのに小屋を壊し、畑を荒らし、依頼主と羊とともにずぶ濡れで帰ってきたと聞いた時は驚いた。母曰く、


「羊はね、あくどいのよ」


 とだけ言って次の日は風邪をひいて寝込んでしまった。

 まぁ、厳格な父と抜けてる母で上手く釣り合いがとれてるのかもしれない。二人とも仲が良くて幸せそうでなによりだった。


 祖父「セグルス・ルミニア」は父方の祖父で、父と同じく騎士だったらしい。そして昔は魔法も使えたと聞くが、本当かどうかは分からない。ただ、祖父の部屋にいくつか魔法についての文献があったので信憑性は高いと見た。魔法が使えるようになったら色々聞いてみたい。

 

 祖父についてはひとつだけ気になることがあった。

 自分は「精霊」が見えた。「精霊」とは魔法を使ううえで一番大切な存在だが、普通の精霊は普段見えないと教えてもらった。魔法を発現するには大気にある「魔素」を使って「詠唱」などの合図で「精霊」に伝え、それを力として発現するのが「魔法」だと祖父に教えてもらった。

 その時に、自分には精霊が見えることを伝えると祖父は目を見開いて数秒の後


「ルカ、その事はあまり他の人に言わない方がいい。その意味を理解するのはまだ先だと思うがね」


 とゆうことを言われた。とりあえず意味が理解出来るまでは言わないようにしようと思う。けど本音はモヤモヤするから全部教えて欲しかった。まぁ今は子供の姿だし、誰も中身はもう30年生きた大人だとは思わないだろう。


 家族についてはこんなところ。ちなみに家には猫が一匹いる。黒猫の「セノ」。太ももの上に乗るのが好きで、座ると毎度丸くなりに来る。可愛い。


 とまぁ、何となくこの世界に馴染んでいる。まだ謎なことは多いが。


 なぜ転生したのか?元世界の自分は死んだのか?最初っから言語が理解できるのはなぜ?


「元居た世界に帰れるのか?」


 分からないことだらけだが、自分が今生きていることには変わらない。生きていればそのうち方法も見つかる。とにかく今は死なないことだけを考えればいい。もっとも、そんな鬼気迫る環境でも無いため普通に生きてればそれでいい。そう言い聞かせた10年だった。




               ✕✕✕




 この世界に来てから随分と暇な時間が増えてしまったものだ。

 仕事や同僚のこと、一人暮らしだから家計の面も。それに、彼女のこと。元世界では頭が痛い問題も綺麗さっぱり無くなってしまった。

 嬉しいには嬉しい。だが、いざ暇になると何をすればいいのか分からない。


 そこで最近は祖父の部屋から、こっそーり魔法についての本を借りて読んでいる。今回は「初級魔法と応用について」を借りた。あくまで「借りた」んだよ。

 この世界の言語は聞いたり言ったりすると日本語の通りなんだが、どうやら文字までは影響出来ないらしく一から覚えることになった。文法が日本語に近くて良かった……。これで早く習得できたため本は読めた。

 しかし、この本読み進めると「詠唱」について書かれているのだが、その詠唱する呪文の文字がこれまでの文字と全く違っていた。まずこの文字が読めないと詠唱すら出来ないらしい。

 それらしい本を探し、まずは文字の解読にとりかかる。


(まるで考古学者みたいだな)


 とか思ったりしながら丸一週間をそれに費やした。

 ようやく読めた魔法は6つだけだったが、そのうちのひとつ初歩中の初歩の炎魔法「赤き灯火(フィレア)」を詠唱することにする。

 大事なのはイメージ。炎の熱さ、揺らめき、明るさ、その全てを手のひらの上に集中させる。まずは少し大きな蝋燭を思い描いて。


赤き灯火(フィレア)!」


 ―――――あれ?魔法が発現しない?

 呪文が間違っていたのか、あるいは他が原因か?心当たりは……うーん。

 そういえば、魔法には精霊の助けが必要不可欠だと言われていた。部屋の外に精霊はいるが、思えば魔法を使う時精霊はいなかった。


「おーい、そこの精霊さーん。ちょ〜っとだけ力を貸してくれない?」


 部屋の扉から廊下へ顔を出し、返事は無いと分かっていながら話しかける。案の定そっぽを向いてどっか行ってしまった。


「ルカ、何をしてるのかね」


「―――!?」


 扉の後ろから声を掛けたのは祖父だった。気づかなかったので心底ビックリする。


「おじいちゃん。あ、えっと、精霊さんとお話かな……」


「……そうか。ところで、儂の部屋にあった本を知らぬかね。持ち出した記憶が無いのじゃが数冊無くなっておる」

 

(ギクッ)


 不味い、勝手に持ち出したことがバレる。バレないように抜き出した隙間を隠したつもりだったが、意外と見ているらしい。

 いや、待てよ。別に悪いことをしようとした訳じゃない。それに自分は今10歳の子供だ。正直に言えばそこまで厳しく怒りはしないだろう。素直に謝ろう。


「僕が勝手に持ち出しました。ごめんなさい…」


「そうか。ならよい、儂にはもう不要な本ばかりある。ちょうどお前にいくつかやろうと思っていたのだ」


「ほんと!すっごく嬉しい!ありがとうおじいちゃん!」


 その後何冊か本をもらい自室に持ち帰った。


「初級〜上級魔法の応用と、呪文と魔法陣の辞典複合図鑑と、あとは過去の英雄たちの逸話が載っている英傑録。それとこれは……」


 見ればその本は、他と違う「ナニカ」があった。本のタイトルは「クロビッツ・ブルームーンによる魔法哲学と全容、及び私的論文集」だった。

 内容はパッと見タイトル通りの魔法哲学や基礎、著者による論文が書かれただけだ。「ナニカ」については不明だが思い過ごしだろう。

 思えば魔法を使いたいと思っていても基礎の何たるかを理解していなかった。とりあえずこの本を一通り読み進めることにする。


「…………マジか」


 基礎についての部分をあらかた読み終えた頃、驚きと嘆きの言葉が出てしまった。


 この本によると、まず魔法を使うにあたり必要なのは精霊の力だとゆうことは知っていたが、まさか適性があるとは……。適性とゆうのはその精霊に好かれる事だと。

 

 魔法には属性がある。その属性も大きく2種類に分かれる。

 まず「炎(熱)・水・雷・土(原子)・風・光・闇」とゆう「七大元素属性魔法」があるらしい。こちらは「純元素属性」の魔法であるそうだ。

 そしてもう片方、「毒・耐抗・治療・時間・空間」がある。こちらは「神性属性」と呼ばれる。


 2つの属性の大きな違いについては以下の通り。

 精霊とは神々の遣いだが(詳しいことは割愛する)この現実世界を構成する七大元素の精霊の力を借りれば「純元素属性」。

 「神性属性」は「準精霊」とゆう、神として生まれた者ではなくそれ以外に生まれながらにして神となった者の遣いがもたらす力。そして、「純元素属性」のように形になるとゆうよりは、物や人に付加したり見えないものに干渉するのが主なのだそう。

 つまるところ、純粋な神の力か成り上がりの神の力か、とゆうことである。


 ちなみに余談として「権能」や「加護」、「超能力」についての記述があった。

 

 「権能」とは魔法と違い神により直接与えられたスキルのことを指すようだ。あまり詳しいことは書かれていないが、どうやらその神のことをよく知っていることが重要なようだ。そして神に認められること。それが「権能」を手にする条件らしい。

 「加護」は神に祈りを捧げることによって条件を満たす者に付与される奇跡のこと。条件は割と緩くて「同族を殺したことがない」だとか「権能」を持っていないだとか。その逆もあるらしいが。

 「超能力」は結構アバウトなもので、一言で言ってしまえば「神々の悪戯」だと書かれている。上記したものの全てに当てはまらないものだ。色んな能力があるため限定してまとめることは出来ないが、神が気まぐれに与えたものだと考えられている。そのため生まれながらにして持つことが殆どで、意図して得られるものでは無いそうだ。

 

 話が逸れてしまったが、この世界で元世界では成し得なかった奇跡を使うにはそれ等の適性が必要らしい。


「なぁ、神ってやつは今も僕の事を覗いてるのか?」


 天井を仰ぎ独り言ちる。

 この世界に来たのもその神々とやらの仕業なのか。何か目的があったのか。いや、神からしたら悪戯とゆう遊びに過ぎないのかもしれない。


(けど、ある意味感謝してるかもな)


 まだ分からない。これからどうなるかなんて。でも、あのまま元世界にいても空っぽのまま一生を終えることになっていただろう。有象無象の一人として何も成さぬまま。

 だが今は違う。この世界で生まれた人なら魔法やその他能力などのことは普通のことかもしれない。だけど、自分からすればその全てが神秘に満ちていて、触れることがなかったその奇跡が目の前にある。


 初めて魔法を見たその時のことを鮮明に覚えている。

 3歳の時、初めて自分の足で外に踏み出したその日。はしゃいで転んでしまった自分の服の汚れを取るために母が施してくれた魔法。


「見ててね、ルカ。これが魔法とゆうものよ」



「――――清めよ(ウォルタ) その流れにて(スクリリアム)



 母の周りに水の精霊が集まり、大気の魔素を使い何も無いところから水を生み出す。自分の周りで水滴が踊り、太陽の光に反射したプリズムが地面に落ち綺麗に映る。肌と服の間を通るひんやりとした湿り気。


(それだけ。ただそれだけのことが、こんなにも胸を突き動かすんだ)


 だから、ありがとう。そう心で呟く。この先どんなことがあったとしても、今見ている夢を生きてみよう。今はそれだけでいい。


 ……ちなみに母の魔法は繊細さが無いらしく、汚れは落ちたのはいいが服が濡れっぱなしだったので結局着替えることになった。せっかくの初めて見た魔法体験がこれだとは苦笑するしかない。母らしいエピソードで悪くは無いが。


「ふぁぁぅ。頭使ったら眠くなってきたな。ご飯食べてお風呂入って寝よう」


 


 幸せを噛み締めながら、明日も頑張ろう。そう思えることが幸せだと信じてるから。









                ※








「ねぇ、■■■■。夢ってなんだと思う?」


「んぇ? 夢って、寝てる時に見る特に意味の無い妄想じゃないのか?」


「それはそうだけどさー、そーっちじゃない。リアルの方だよ」


「あー。でもそれは人それぞれだからなぁ。俺はなんとも言えん」


「そっか。じゃあ今■■■■に夢はある?」


「夢、か。そうだな……俺は――――――」




 夢は、唐突に始まり唐突に終わる。終わらないように願っても、始まるように祈っても叶うとは限らない。

 


 これはそれ故に足掻く者達の夢物語である。



「結末はいつもハッピーエンドとは限らない。そうでしょ? だから、どうか。嗚呼どうか、お大事にどうぞ―――――」




初めまして。カガミ ルツと申します。

初めて本格的に投稿する作品です。最後まで書きたいと思うので、末永くよろしくお願いします。そしてどうか、お大事にどうぞ。

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