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唯一の王子




「その頃、

先代国王陛下は多忙で、先代王妃様との時間を取れていなかったそうです。

そんな中、先代王妃様は周りから《懐妊はまだか》と言われ続けたようで。


先代国王陛下は《遠い祖国を離れ、知り合いのいないこの国で一人。

王妃は思い詰めてあんな行動に出てしまったのだ。だから悪いのは私だ》と。


ご自分ばかりを責めておいででした。

ですから先代国王陛下は、先代王妃様を責めはしなかった。


ですが……。

貴方は《養子》に出すことにしたのです。


先代王妃様を、貴方を、守る為に。


ひと目で先代国王陛下の子ではないとわかる《王子》。

それは先代王妃様の《したこと》を皆に晒すことになりますからね」



「だが……私は……先代の……父上の《唯一の王子》だ」


机に手をついたまま、力なく言われた国王陛下。

その国王陛下の、ちょうど真後ろに立たれたお父様が告げました。



「それは事情が変わったからです。


不貞を責められはしなかった。

極刑は免れた。


しかし先代王妃様――貴方のお母上は恐れたのです。

いつか《やはり極刑にする》と言われるのではないかと。


……国王陛下を裏切って罪に問われないなど、異例中の異例ですからね。

本当に赦されたのか。疑う気持ちは、わからなくはありません。


一度疑えば信じることが難しくなる。


先代国王陛下に優しくされればされるほど、先代王妃様は恐ろしかったのでしょう。


そして考えた。

いつ《極刑にされる》日が来るのか、と。


そうだ。


もし夫の実子――王家の血を引く子が生まれたら、


不貞を犯した自分と、自分が産んだ赤子は邪魔な存在でしかないはず。


きっとその時は、自分と赤子は《殺される》。


……そう思い込んでしまった先代王妃様は、愚かにも先代国王陛下に毒を盛ったのです」


「……母上が……?」


「先代国王陛下は一命は取りとめられましたが、半身の機能は失った。

生涯杖を必要とし、また……子の授かれない身体となってしまわれたのです。


……突発的にしてしまったことだったのでしょうね。

我に返った先代王妃様は、罪の大きさに耐えきれず自ら毒を飲まれました。


罪を告白する遺書を残して。

そう。貴方のお母上は《ご病気》で亡くなったのではありません」



国王陛下は顔を伏せられました。


お父様の声は続きます。



「王家の――いえ。この国、存亡の危機でした。

先代国王陛下には王家の血を引かぬ《唯一の王子》――貴方しかいないのです。


そこで。


先代国王陛下は《唯一の王子》――貴方を王位につけることにした。

そして王家の血を引く妃を迎えさせることで王家を繋げることにしたのです。


先々代国王陛下の提案でね。

そう。先々代国王陛下――貴方のお祖父様の提案です。



理由は、ふたつありました。



ひとつは他の王族の中に、次の王に相応しい者がいなかったこと。



実は、先代国王陛下は真っ先に他の王族への譲位を考えたのですよ。

ですが、次の王を任せられる者がいなかった。


先代国王陛下にきょうだいはない。


先々代国王陛下には弟君と妹君がおられましたが、公爵となっていた弟君はすでに亡く、その一人息子である公爵――我が妻の父上は王位を継ぐには弱すぎた。


残るは妹君でしたが、妹君はすでに他国へ嫁いだ身。

呼び戻せるはずがありません。


それより前の代は探せません。

王族による国王の椅子を巡る争乱を引き起こしかねませんからね。



そして、もうひとつは。

臣下には、貴方を消せという声が大きかったことです」


「―――――」


「いかに先代国王陛下が赤子に罪はない、と諭そうと声は消えなかった。

そこで貴方の立場を明確にしたのです。


王家の血を引く妃を迎える《唯一の王子》だとね。


貴方がいれば王家の血を引く妃が得られる。

王家の血は続いていく。


そう言うことで貴方を守ったのです。



貴方は先代国王陛下の《唯一の王子》として育てられました。

《身体が弱いから》と、王宮の奥深くでね。


そして成長した貴方に《王太子として》執務をしていただくことにした。


ですが貴方は先代国王陛下にどれほど言われようがやらずに逃げてばかり。

興味は女性に向くだけで執務など、全くやる気はなかった。


執務は先代国王陛下と先代の宰相、大臣、主要貴族たち――私には先代ですが、今も現役の方がいらっしゃいますから《我ら》と言うことにしましょうか。


執務は先代国王陛下と《我ら》がし、

貴方は《王太子という駒》として置いておく以外、どうしようもないでしょう。



王家の血を引いていない《唯一の王子》に妃以外との子は許せない。


許せば、再び王家は《厄介な事態》に陥りますからね。

ですから再三、貴方に申し上げたはずです。


《妃以外の女性は認めない》と。


しかし貴方は全く聞き入れず、下女をしていた平民の女性を侍らせた。

こっそりと貴方に《薬》を与える以外、なかったのですよ。



王家の血を引く《貴方の妃の子だけ》が生まれ、次の王となるようにね。


《魔石》に認められない者が、国王として存在する異常事態は《貴方一人》で終わりにしなければならなかったのです。



そして先々代国王陛下の妹王女の孫娘――王妃様が成人された年。

予定通り貴方を即位させ、同時に王妃様をこの国に迎えることが出来ました。


これで王家は正統な血を引く者が繋いでいく、《正常な状態に戻る》。



貴方が生まれて25年目のことです。

長かった。ほっと胸を撫で下ろしましたよ。


先代国王陛下もそうだったのでしょう。

お二人のご成婚を見届けた後、すぐでしたね。


先代国王陛下が永眠されたのは。

ちょうど現在の貴方のお年だ。まだお若かった。


ですが、安心して逝かれたでしょう。



しかし、それも束の間。


一年としないうちに、今度は《何故か》貴方と妾妃様の間に子ができた。

いや、焦りましたよ。《薬》が効かなかったのではないか、と思いました。


ですが。


生まれたそちらの――そうですね。元、王太子殿下とお呼びしましょうか。


元、王太子殿下のその、妾妃様お気に入りの護衛そっくりな顔を見て納得いたしました。



ああ、歴史は繰り返されたのか、と」




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