魔石
この国には《魔石》があります。
なんでもその昔、当時の国王陛下が竜の巫女だか、魔女だか、占い師だかに貰ったという石です。
拳ほどの大きさの、紫色の石ですが、この国を守っていると言われています。
真偽の程はわかりませんけどね。
ですが、この国は酷い凶作や天災に見舞われたことがありません。
周りの国々とは明らかに違います。
この国が《守られている》のは確かなようですね。
さて、その《魔石》ですが。
《王を選び》ます。
《王家の血を持つ者》しか《王》として認めない。
その昔に《魔石》を貰った国王陛下が、何か契約でもしたのかもしれませんね。
過去に一度、内乱が起き、王族以外の者が王になろうとしましたが……。
《魔石》に焼かれ終わったそうです。
そんな経緯がありまして。
この国の国王は、即位する時に必ず《ある儀式》を行います。
《魔石》に触れ《私が次の王だ》と宣言する儀式です。
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「そんなことは知っている!その儀式なら私も行ったからな。
だが何も問題は起こらなかった。
私が《魔石》に王だと認められた証拠ではないか!」
お父様のお話を聞いた国王陛下が苛々した様子で言われました。
それを軽く流すように、お父様は国王陛下の後ろへ歩を進めます。
「貴方は即位と同時に成婚されました。
その儀式は貴方と王妃様の二人。《ご夫妻》で手を合わせて行われましたね。
直接《魔石》に触れたのは?
貴方ですか?
王妃様ですか?」
お父様に問われた国王陛下は言葉を失われました。
「王妃様、でしょう?《魔石》に認められたのは王妃様です。
つまり《魔石》からすれば、この国は今《女王陛下》の国なのでしょうね。
……この国の王と認められた者の瞳は、以前より濃い紫色になるそうですよ。
今の王妃様の瞳は……と。貴方はご存知ないかもしれないですね」
国王陛下はふん、と鼻を鳴らし横を向かれました。
お父様は苦笑されます。
「信じられませんか?
なら、試していただいても良いですよ。
ですが、お勧めはしませんね。
何年かに一人はいるんですよ。
信じずに《魔石》に触れ、冗談半分に《私が次の王だ》と宣言する愚か者が。
困るんですよねえ。
誰か《特定》するのに時間がかかって。
なにせ頭が綺麗さっぱり消えていますから」
「―――――」
無意識にでしょうか。お父様の言葉に首に手を当てた国王陛下。
居並ぶ皆様は頷き合っています。
「《魔石》があるこの国では、王家の血を引かない者は王になれないのです。
そして王家の血を引く者は、瞳の色を見れば一目瞭然だ。
―――ですが。
先代王妃様――貴方のお母上は、外交で遠くの国からいらした際に、先代国王陛下が見初めた方でしたからね。
知らなかったのでしょう。
《瞳の色以外は》夫と似た者の子――貴方を産んだのですよ。
子の《姿形》が夫に似ていれば、不貞に気づかれないと思ったのでしょうね。
お父上の先代国王陛下はもちろん、周りも皆、気づきましたよ。
当然です。生まれた貴方は王族の《証》を持っていなかったのですから。
しかし、
それでも先代国王陛下は、先代王妃様と貴方を極刑にはしなかった。
むしろご自分を責めたのです。
《自分が王妃をそこまで追い詰めたのだ》と。
責められるべきは自分で、先代王妃様と貴方には罪はない。
そう思われたのです」
よく《まるで父のような方だった》と話していた先代国王陛下を思い出されたのでしょうか。
お父様は遠くを見るような眼差しで言われました。