更なる秘密
「私……は……?」
信じられないと言った様子で彼は呟きました。
一方、国王陛下は怒りで我を忘れたようです。
「あいつを呼べ!」
と、狂ったように叫ばれました。
「あいつを!妾妃をここに連れて来い!その護衛もだ!
私が直々に問いただしてやる!」
ですが居並ぶ皆様は平然と座ったまま。
お父様も平然と答えました。
「《親戚》の護衛でしたら王宮の、ではありませんよ。
妾妃様のご実家の酒屋の、です。
妾妃様の信任厚く、お出かけの際の護衛は常にその者だとか」
「黙れ!……宰相。
貴様……お前の言うことが間違いなら、お前を極刑にしてやるからな!」
国王陛下は今すぐそうしてやるといったご様子です。
ぶるぶると怒りに震えながらお父様の前に来られました。
お父様は、それでも平然と言われました。
「どうぞ、ご自由に。
ですが、もし本当なら?どうされますか?」
「決まっておるわ!もし、私の子でないのなら極刑だ!
妾妃も!子ども二人も!」
「父上!落ち着いて下さい!」
彼が慌てて駆け寄りましたが
しかし
国王陛下は彼を突き飛ばしました。
「ええい!うるさい!もし、お前が私の子でないのなら極刑だ!
私を――国王を、王族を謀ったのだからな!」
「父上……」
彼は呆然としています。
お父様は―――
「極刑ですか。確かに貴方が王族ならば、そうなるでしょうねえ」
「何?」
国王陛下の目が彼からお父様へ移りました。
「貴方は、この国の王族の特徴をご存知ですか?」
話を続けるお父様。
国王陛下の顔は、怒りから訝しむものに変わりました。
「……特徴?」
「ご存知ないでしょう。当然です。
貴方に教える者など、誰もいなかったでしょうからね」
「何の話だ」
「では質問を変えましょうか。先代の国王陛下の瞳の色は何色か。
覚えてみえますか?」
「紫色だ。覚えていないわけがないだろう。私の父上だぞ?」
「では、先々代の国王陛下の瞳は?」
「お祖父様か。私が物心つく前に亡くなられたからな。
覚えてはいないが、肖像画が残っている。―――紫色だ」
「そうですね。先代、先々代のどちらも紫色の瞳。
ちなみにそれ以前の国王陛下も皆、例外なく紫色の瞳です。
―――では、お聞きしましょうか。貴方の瞳の色は?」
「―――――」
お父様が言わんとすることがわかったのでしょう。
国王陛下の目は大きく見開かれました。
「でたらめだ!」
国王陛下が再び叫ばれました。
ですがそれは先ほどまでとは違い、どこか弱々しい叫びでした。
「そんなわけがあるか!
瞳の色がなんだと言う!私は確かに父上の――先代国王の子だ!唯一の!
だから私は父上の後を継ぎ、国王となった!」
「先代国王陛下は貴方に譲位されるにあたり、ある《条件》をつけられました。
普通では考えられない《条件》をね。
それが他国に嫁いだ先々代国王陛下の妹王女の孫娘――つまり王妃様との結婚。
先代国王陛下は王妃様との結婚なしに、貴方に国王になることを許さなかった。
そうですよね?」
「政略だからだろう!それは政略のためで――」
「――すでにあちらの王家とは親戚なんですよ。政略のわけがないでしょう。
王妃様に、何がなんでも貴方に嫁いでもらわなければならなかったのですよ。
理由は王妃様が、この国の王族の末だからです。
さてお聞きしましょうか。
王妃様の瞳の色は?何色か、覚えてみえますか?」
「―――――」
「お忘れですか?
では、こちらはどうでしょう。
先々代国王陛下の、臣下に降った弟君を祖とするこの国唯一の公爵家。
その血を受け継いでいる我が妻が遺した我が娘。
今、私の後ろにいるクリスティンの瞳の色は?」
「―――――」
「おわかりでしょうか。
この国の王家の血を持つ者は皆、必ず紫色の瞳を持っているのですよ。
王家の血を引く人間以外には出ない、紫色の瞳をね。
紫色の瞳こそ、正統な王家の血を引く者の証なのです」
「―――――」
国王陛下の身体がぐらりと揺れました。
国王陛下は机に手をつき、それをなんとか支えました。
「……そんな……馬鹿な……」
お父様は立ち上がると、
顔色を無くしている国王陛下の真横に立ち、言いました。
「少し昔話をしましょうか」