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秘密




「「「「「「いえ、ご遠慮させていただきます」」」」」」



居並ぶ全員の声が揃いました。


「お前たち、臣下のくせに国王である私を馬鹿にするのか?!

ミリア嬢は王太子の妃になり、ゆくゆくは王妃になろうという令嬢だぞ!」


国王陛下が顔を真っ赤にして怒鳴ると、今度は笑いがおきました。


「令嬢ですか」


「令嬢だそうですよ」


「王妃になられる方だそうです」


「王妃ですか。これはまた。はは、とんだ笑い話だ」


我慢できなかったのでしょうか。

ミリア嬢が叫びました。


「わ、私、良い義娘むすめになれるよう頑張ります!ですから!」


「わかっていませんね、お嬢さん。貴女を養女にするのはお金と時間の無駄だ。

だから誰も引き受けないのですよ」


お父様が言えばミリア嬢が首を傾げました。


「お金と時間?」


「ええ。貴女を引き受けたなら、自分の義娘むすめとして恥ずかしくない《淑女》に育てなければなりません。


淑女を育てるにはお金と時間が必要なのですよ。


――失礼ですが貴女、今おいくつですか?


クリスティンをはじめ、ここに居る者たちの娘は全員が生まれた瞬間から淑女のレッスンを始めます。


見るもの、肌に触れるもの、口に入れるもの、全てから学ぶのです。


そして物心がつけば様々な教育を受け、成人を迎える頃になんとか淑女と呼べる者になる。

生まれた瞬間からはじめてやっと、ですよ。


わかりますか?


今の貴女からはじめたら……見られるようになるのは何年後だと思います?

いえ、何十年後か。百年かけても無理かもしれませんね。


割に合わないのですよ。

貴女に使うお金と時間がね」


「そんな!やってみなければわからないじゃないですか!お願いします!

やらせてください!」


「そこまで言われるのでしたら、ご自分でお金を出して教育を受けられては?」


「お金って……そんな……私、そんなお金……」


国王陛下が立ち上がりました。


「宰相!貴様、ミリア嬢に失礼だぞ!良い!お金なら私が出そう!」


「出そうって。貴方のどこにそんなお金があるとお思いで?国王陛下」


「私は国王だ、そんなものいくらでもあるだろう!」


「《そんなもの》ですか。これはまた。お金は湧いてくるわけではありません。

貴方が使われているのは国民の血税です。無駄にできるお金など全くない。

そのお嬢さんに使う分などないのです」


「なんだと!」


「それに。そのお嬢さんには使うだけ無駄ですよ。

誤解のないように言っておきますが、平民だからというのではありません。


身分など関係ない。


平民でも優秀な者はたくさんいる。

現に私たちの部下の中にも、何人もの素晴らしい人材がおりますからね。


逆に高貴な家に生まれても全く話にならない者もいます。

生まれではないのです。


さて。

で、貴女ですよ。お嬢さん。


貴女は豪商のお嬢さん。平民としては裕福な家に生まれたそうですね。

何不自由なく暮らし良い学園にも入れてもらえた。殿下と出会えるくらいのね。


でも、そこで何をしていたのです?


あの学園は、良い手本になるような令嬢たちが多く通っていたでしょう?

マナーを学ぶ授業もあったはずだ。


ですが、貴女は何ひとつ学んでいない。


座り方、お辞儀の仕方、口のきき方。

何ひとつ、なっちゃあいない。


それも道理。


成績は下の下。

なのに放課後の補習は必要ないといつも欠席だったそうですね。


教師たちがこぼしてましたよ。

卒業できたのは奇跡だ、と。


ああ、卒業試験だけは信じられないほど優秀だったそうですね。

風邪をひいたからと厚着をし、帽子にマスク姿で挑んだ《卒業試験だけ》は。


そんな貴女に今さら《教育》?


今まで親がどれだけ金を注ぎ込んでも無駄だった貴女を、国民の血税を使えば

立派な淑女にできると?――はっ。あり得ないでしょう」


「そんな……それは……殿下とお付き合いする前だったから……」


「良いんですよ。責めているわけではありません。

人には向き不向きがありますからね。


それに大丈夫です。


貴女は貴族の養女になる必要も、淑女になる必要もないんですよ。

貴女が王太子妃に。ましてや王妃になることなど、あり得ないのですから」


「そんな!だって私は殿下と!酷いわ!

わ、私のお腹にはもう殿下の赤ちゃんが……っ」


お腹を押さえたミリア嬢。


さすがに黙ってはいられなかったのでしょう。

彼がミリア嬢を庇うように立ちました。


「宰相!私とミリアとの結婚を認めてくれると言ったではないか!」


お父様は――凍るような声で言いました。


「ええ、言いましたよ。貴方とそのお嬢さんとの結婚を認めると。

……ああ、わかりませんか?


では、はっきり言いましょうか。

貴方が国王になることなど、ないのですよ。一生、ね」


「え?」


何を言われたのかわからないと言う顔をした彼。


……お父様は告げました。


「クリスティンの《婚約者だったから》貴方は《王太子》だったのですよ。

クリスティンとの婚約が破棄された今、貴方は王太子ではありません」


「……なんだって……?」


彼は言葉を失いました。

その代わりのように国王陛下が叫んでいます。


「ちょっと待て!なんだ、その話は!私は認めておらんぞ!」


「認めていただく必要はございません、国王陛下。

貴方も、もう国王ではなくなるのですから」


「なんだと……?」


「どうやら全く、ご自分の立場を理解されてはおられなかったようですね」


「立場だと……?」


忍び笑いが聞こえて来ました。

何処かから声も聞こえます。



「《駒》だと気づいてもおられなかったとは」



「何?!今、何と言った!」


声を聞き取ったのでしょう。

国王陛下がぐるりと居並ぶ方々を見回しました。


お父様は大きく息を吐きました。


その後やれやれと言った様子で額に手を当てて―――


「《駒》だと言ったんですよ。気づいてくださいよ。

どこの世界に全く執務をせず愛妾と閨に籠るだけの国王がいるんですか」


「ぐっ!執務なら私の代わりに王妃がやっているだろう!

それに次世代の王家を担う者を生み出すのは重要なことではないか!」


「重要なことねえ……」


「私には王太子と王女がいる!私の後を継ぎ、我が国を統べる子がいるのだ!

それは私の功績だろう!」


「王太子と王女とは。

そこのなんちゃって王太子殿下と、その妹のことですか?」


「なんだと!」


「まともな頭をお持ちなら、おかしいと気づいていたのでは?

何人も何年も愛妾がいるのに、身籠った愛妾は一人きり。


子どもは二人だけ。


その二人の子どもは、二人ともご自分とは全く似ていない。

理由は……おわかりになりませんか?」


「……は……?」


「貴方が《王太子だ》という方。

妾妃様の護衛の者とよく似ておられますよね。《親族》でしょうか」


「―――――」


国王陛下は息を呑みました。


そして


ゆっくりと……

彼に顔を向けました。



「まさか……私の子……では……ない……?」




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