成立
正式な婚約者になって初めての顔合わせ。
彼はずっと目を伏せていたの。
――「君は、僕にはもったいなさすぎる」――
そう言って、
唇を噛んで、
拳を握って。
わかったの。
彼は
私を
だから私は―――――
――「私は貴方といたいです」――
と告げて。
彼は、それを聞いて驚いてそして
笑ったの。
頬を染めて
笑ってくれたから
私は
私……は……
嘘よね?
彼女のお腹に子どもがいるなんて。
……だから卒業記念パーティーに来たの?
早く、確実に
私との婚約を破棄するために?
嘘……よね?
彼に聞きたい。
ちゃんと、彼の口から聞きたい。
嘘だって……言って欲しい。
ずっとそう思って
でも……彼には全く会えなくて
ようやく彼に会えた《会議》の日。
なのに。
ミリア嬢に笑顔で寄り添う彼を見たら……何故でしょう。
私の中の、何かが壊れてしまいました。
もういい、と思えてしまいました。
私は書類に淡々とサインしていきました。
彼との婚約を破棄するための書類に。
不思議なほどに……心は、凪いでいました。
もう……終わりにして良いのです。
もう……頑張らなくて良いのです。
「皆、集まってくれて感謝する」
明るい国王陛下の声が響きました。
王宮の会議室。
広い室内には大きく重厚な机があり、宰相であるお父様と大臣、そして主要貴族の方々が集まり会議をする場所です。
今日も、いつものように皆様が並んでいました。
その他に。
今日は、部屋の最奥に玉座と椅子がふたつ置かれていました。
玉座に国王陛下。
その横の椅子に彼と、ミリア嬢が並んで座っています。
全員で、これから話し合うのです。
彼と私の婚約が破棄された後の、今後のことを。
私はいつも通り、宰相であるお父様の後ろの壁際に席をいただきました。
ここからは皆様の様子がよく見えます。
―――皆様は晴れ晴れとした、とても良い笑顔です。お父様も。
その顔は、卒業記念パーティーの場にいた方々の顔と同じです。
……そうですよね。
彼と私の婚約は誰もが本意ではありませんでしたから。
私はきゅっと唇を結んで下を向きました。