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最終話 私にできること




「そうだわ。鉱山の収益も、もう使わずに済むから貴女に戻すわね」


次に王妃様はそう言われましたが、私は――首を横に振りました。


「いいえ。国庫から持ち出した分も、私が支払うべきことです。

それに……鉱山は自分の力で取り戻します。それまでは国のために使って下さい」


「そう」


「はい。よろしくお願い致します」




「ああ、そうだ。

―――二年後には多分《恩赦》が出るわよ」


「え?」


突拍子のない王妃様のお言葉。

私は思わず首を傾げました。


その様子が可笑しかったのでしょうか。

王妃様は笑われました。



「私の祖国で学んでいた息子ギルバートが帰国するの。恋人を連れてね。

二年後くらいには《王太子の成婚》ということになるんじゃないかしら」


「―――――」


「無条件で《我儘》を許される《一生の願い》はもう使った。

もし今度《我儘》を言うのなら……相当の責任を負う覚悟で言いなさいね」



「王妃様!クリスティンは我が公爵家の後継者ですよ。

妙なことを吹き込まないでください!」


叫ぶように言ったお父様。

王妃様はうんざりした顔をなさいました。


「もし、と言ったでしょう。

それに、こうなったのは貴方に責任があるのよ宰相。

幼いクリスティンを連れ歩いて」


「死神に我が妻セレリアを取られた後だったんですよ?

次はクリスティンが狙われるんじゃないかと夜も寝られなかったんだ。

離れるなんて冗談じゃなかった」


「……病気ね」


「病気だ」


「ああ、病気だな」


王妃様の声の後に、皆様からも同意の声が上がりました。


「全く。

そのせいでクリスティンはお友達が《ひとり》しかできなかったと言うのに」


王妃様が大きなため息と共に言われました。

お父様は意味がわからないという顔をされています。


「は?ひとり?」


「もういいわ。脳筋宰相。それより、公爵家の心配なら必要ないでしょう。

クリスティンが継がなくてもランドールがいるもの。ねえ、クリスティン」


「お義兄様?」


「あら。ふふ、そう呼んでくれるのね」


今度はお父様がため息を吐きました。


「小さな頃から《お義兄様だ》と教え込まれれば当然でしょう。

本当なら《おじ様》だ。私とそう変わらない歳のくせに。厚かましい」


「あら、8歳の差は大きいと思うけど?

それに書類上は確かに貴方の《養子》よ?」


「ええ、《高貴な赤子ギルバート》を連れた父親のランドールに相応しい家と身分を与える為に、私は27歳で19歳のランドールの養父になりましたからね。

我が妻セレリアなど同い年の息子がいる身となった」


「公爵家にとっても良い話だったでしょう?

身体が弱くて子は望めないと言われていたセレリアだって、私達の息子ギルバートを見るうちにあんなに元気になって。

可愛いクリスティンを授かったんだから」


「それは……感謝しておりますが……」


「ついでにクリスティンには厳しく言うランドールという義兄ができた。

彼、ぼやいてたわよ。

《激甘な義父のせいで、自分はいつまでたっても憎まれ役だ。クリスティンに嫌われてる》って」


私は慌てて言いました。


「そんな!嫌ってなんていません」


「良いんだよ、クリスティン。あんな奴のことは嫌いと言って」


と、お父様。


「……自分がランドールに勝てないものだから悔しいのね」


と、王妃様が言われました。



「馬鹿だ」


「ああ、馬鹿だな」


皆様からも声が聞こえます。



私は本当に、ランドールお義兄様を嫌ってなどおりません。



確かにお義兄様は私の胸を抉るようなことばかり言います。

私は泣かされてばかり。


けれど


思いきり泣いたその後に出される甘いお菓子と温かいお茶を

用意してくれているのが誰なのか。


……私は、ちゃんと知っています。


知っているのです。



今日も帰宅すればきっとまた何か言われ、私はぼろぼろと泣くのでしょう。


けれど思う存分泣いて泣き止めば


そこにはきっと、いつものように甘いお菓子と温かいお茶が用意されているはずなのです。




―――二年後。



王妃様はああ仰いましたが


私と彼が


再び会えるとは、思えません。


会っても


お互い、ちゃんと顔を見られるかどうか……わかりません。



だから


今の、この想いはいらないものなのかもしれません。


捨てられたなら

この胸の痛みは無くなるのでしょう。


けれど、私は思い出す。


お母様を亡くして

お父様と歩く私に向けられた


《可哀想》という目ではない唯一の


あの優しい翡翠色の瞳を


これからも、ずっと……。



―――どうか、幸せに。



私は心の中で呟きました。



そして



きゅっと唇を結んで下を向き


次に、私は、顔を上げました。


背筋を伸ばし


私は……皆様に向けてお伝えします。


深い


深い、お辞儀と共に



感謝を込めて。




「皆様。本日は、ありがとうございました」




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