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クッション




「では。そろそろ移動していただきましょうか。

まずは国王陛下。《北の塔》へどうぞ」


お父様が会議室の外で待機していた衛兵を呼びました。

国王陛下は静かに衛兵に従って行かれます。


彼と皆様が、黙って見送りました。



「次に元、王太子殿下とミリア嬢は国外に《追放》する為の馬車へ」


お父様の言葉に衛兵が彼を促し、彼は素直に従って部屋を後にしました。


別の衛兵はミリア嬢を促します。


と。


「ま……待って!」


ミリア嬢が叫びました。


「ご、ごめんなさい!違うの!

な、なんかね。違ったみたい!お腹に子どもがいるなんて!


ほんのちょっとした間違いなのよ。

だからお願い!許して!許してください!」


私は呆気にとられました。


が、


「やっと言って下さいましたねえ」


そう言ってにっこり笑ったお父様。

居並ぶ皆様からも笑いが漏れています。


お父様が言われました。


「学園を卒業しても貴女には納得できるような縁談が来なかった。

親からいつまで選り好みしているんだと怒られましたか。


そんな時に、自分の同級生には《王太子》がいたことを思い出した。


平民の貴女に彼が《影武者》だなどと教える者はいない。

貴女は彼が《本当の王太子》だと信じていた。


在学中は、彼の周りには大臣や高位貴族の子女ばかりで近づけはしなかった。

けれど……会ったら何とかなる。


上手くいけば《王太子妃》になれる。


そう思ったんでしょう?

貴女、見た目は可愛らしいですものね。


貴女の家の商会は王宮にも出入りしている。


貴女の父親――会長、直々に商品を納めに来ている。

貴女は父親について王宮にやって来て、父親から離れた。

そしてこそこそ王宮内を歩いていたら幸運なことに、偶然《王太子》と会えた。


猛アピールしたそうですねえ。

最後には既成事実を作ろうと《王太子》に睡眠薬まで盛った。

そして子どもができたから責任を取ってくれ、と言い寄った。


でしょう?」


「何で知って!」


驚いて叫んだミリア嬢。

お父様はやれやれと言った様子で続けられました。


「貴女ねえ。王宮の侍女を何だと思っているんですか。

《空気》じゃないんですよ?


貴女と話していた《王太子》が何故か眠ってしまった。

そして貴女は帰った。


そのひと月後に《妊娠》?

阿呆ですか。


まあ《何故だか》《王太子》が乗ったのでここまで来たわけですけれど、お粗末にも程がある。


いや、本当に楽しい方だ。ねえ、皆さん」


皆様、楽しそうに笑われています。

ミリア嬢は息の仕方を忘れてしまったようにパクパクしておられます。


「今日は、本当に貴女に会えるのを楽しみにしていたんですよ。


いや、見事に《私たち貴族》を騙してくださいました。


このあとはとりあえず、牢にご案内しますね。

そしてご家族に連絡を取らせていただきます。

―――娘さんが《大勢の高位貴族を謀った》とね。


本来なら《極刑》ですが。


商人は信用第一でしょう?

貴女を《貴族を騙した罪人》として《極刑》にしたら。


ご家族は今のご商売を続けていけるかどうか。従業員たちも困るでしょうね。

さぞ肩身の狭い思いをしなければならなくなるでしょう。


お気の毒です。


まあ、こちらとしても探られたくないことが多いですからねえ。


貴女のお父様には《慰謝料》で、手を打つことを持ちかけてみますよ。


貴女の家は有名な豪商だ。

今後《毎年》いくら払ってくれるか……楽しみですね」


「ま……毎年?」


「《秘密》を知られたからには貴女を外に出すことはできません。

ちょうど王宮の《下女が一人》いなくなりましたから。


貴女には働いていただこうと思うんですよ。

貴女の家から《慰謝料》をいただく《お礼》に。一生、ね。

もちろん、お給料は出せませんけれど、衣食住の面倒はみますよ。最低限ね。


と、言うことで。

外の護衛に牢まで案内させますから。

どうぞ、ご退出を。ミリア嬢」


「い……嫌よ!牢なんて!」


「―――ならば即、極刑の方がよろしいですか?」


思わずでしょうか。

ミリア嬢は真っ青になって立ち上がりました。


と、同時に何かがミリア嬢の足もとに落ちました。


……薄い、小さなクッションのようです。



「ご出産、おめでとうございます」



お父様の言葉に皆様が吹き出されました。




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