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回想 ※彼side




ずっと見ていた。



宰相に連れられて、王宮へ来て


会議室へ向かう女の子。


ふわふわと揺れる蜂蜜色の髪。


宝石みたいに綺麗な薄紫色の瞳を……



―――私が見かける唯一の子どもだった。



私の周りは大人ばかりで


子どもはいなかったから。



ただ見ていただけ。


時折、視線が交わっただけ。


言葉を交わしたわけじゃない。


それでも十分だった。


胸が温かくなった。




正式な婚約が結ばれたと聞いた時は嬉しくて仕方なかった。



けれど怖かった。



――「この子が次期国王。王太子である」――



父上が宣言したあの時。


この国の中枢である大人たちの冷たく刺すような視線。

自分が《彼ら》に次期国王として認められてはいないと思い知るには十分だった。


そんな私とは反対に

《彼ら》に認められ、あの場に堂々といた彼女。



私は、自分が、彼女に相応しいとは思えなかった。



婚約者になって初めての顔合わせ



私なんかの婚約者に《なってもらえた》ことが申し訳なくて

もう彼女が見られなかった。


言えたのはただ一言。



――「君は、僕にはもったいなさすぎる」――



でも、彼女は



――「私は貴方といたいです」――



そう言ってくれて


驚いた。


びっくりして


嬉しくて


泣きそうだった。



その後は、何故か父上が彼女を良く言わず


私が近づけば、彼女が何か酷く責められるのではないかと思うと

彼女に近づくことができなかった。



それでも大人になれば何とかなると思っていた。



大丈夫だ。今はすれ違っているけれど

結婚すればずっと、一緒にいられる。

それから愛を育めば良い。



何が《大丈夫》だったのだろう―――――



成長するうちに理解した。

父上はただの《国王陛下という駒》だと。


私を見る、この国の中枢である臣下たちの《あの時》の冷たく刺すような視線は

当たり前だったのだ。



国政に携わることのない

ただ、王宮にいるだけの


《国王陛下という駒》。



いずれ父上に代わり自分がそうなる。



その時、王妃として私に付けられるのは彼女だ。


今の王妃様のように《仕事をさせる》存在として。



それが……彼女の幸せなのだろうか?


彼女を《仕事をさせる》ために


私と結婚させることが?



そんなわけが……ない。



かと言って、どうしたら良いのかわからなかった。


宰相の言ったように《駒ではない国王》になることなんて考えられなかった。



《あの時》の、

この国の中枢である《彼ら》たちのあの、冷たく刺すような視線。


自分は認められないのだ。

自分では駄目なのだ。



成長しようと、そうとしか思えなかった。



学園で私を囲む同級生の優秀さを見て

もっとそう思った。



私は彼女に相応しくない。



―――そうとしか、思えなかったのだ。



ふわふわと揺れる蜂蜜色の髪。


宝石みたいに綺麗な薄紫色の瞳。


彼女にはもっと幸せな未来があるはずなのに。



私といれば、不幸にしてしまう。


私など、彼女に相応しくない。



彼女に相応しいのは……私では……ない。



だから


どれほど辛くとも


私から


解放してあげるのが彼女の為だと。


それが彼女の幸せだと。



信じて疑わなかったのに―――――




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