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クリスティン




「さて、残るは妾妃様とその娘。そしてミリア嬢ですが。

元、王太子殿下と同じく国外へ《追放》でよろしいでしょうか」


もはや当然のように、お父様の言葉に居並ぶ皆様から拍手が贈られました。

慌てたのはミリア嬢です。


「待って!なんで私も?わ、私は関係ないじゃない!」


椅子に座ったまま、おろおろと皆様を見回しています。


お父様はわざとらしく目を丸くしてみせました。


「おや、逃げますか?ミリア嬢。

無理ですよ。

卒業記念パーティーでのことをお忘れですか?


貴女がそこの元、王太子殿下の愛する《婚約者》なのは大勢が認めています。


それに、貴女のお腹には元、王太子殿下の子がいるのでしょう?


なら、もう家族だ。

運命は共にしないと」


「違う、違うの!」


「何が違うんですか?先ほど貴女がおっしゃったのですよ。

《私のお腹にはもう殿下の赤ちゃんが》とね。


聞きましたよね、皆さん。


それとも……もしや《我ら》を騙したのですか?

平民の貴女が?

ならば極刑ものですが……どうなんです?」


「―――――」


両手でお腹を押さえ、はくはくと口だけ動かすミリア嬢。

言葉を失ってしまったようです。



と。



「クリスティン……」



彼に名前を呼ばれました。

初めてな気がします。


ですが私は、返事は出来ません。

答える代わりに俯き、目を閉じました。


彼の声は続いています。



「すまない。でもお願いだ。

私たちはいい。

だけど、妹はまだ五歳だ。妹だけは助けてやってくれないか?」


「―――――」



「やれやれ。困ったものですねえ。―――いいですか?」


今度はお父様の声。

そしてすぐに何かぶつかるような音が聞こえました。


思わず顔を上げて見れば、そこには―――



「ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ、お坊ちゃん」



彼の胸ぐらを掴んで首を締め上げるお父様の姿が。


私は―――動けませんでした。


彼はもがき、お父様は更に締め上げます。



「お前、父親が《国王という駒》だと知っていたんだろう?

お前は《父親よりは自由に》育ったんだからな。


知っていながらお前は何もしなかった。

《駒ではない国王》になる努力をしなかった。


母親と似たような女と一緒になって

父親と同じように《駒》となって生かしてもらう気だった。


何も考えない《駒》の方が楽だものな」



―――優しい翡翠色の瞳……



「く……苦し……」


「ああ?この程度で苦しい?


親切に二度も言ってやったのに全く理解していないようだな。


クリスティンはお前と婚約を結ぶことで、お前たちが《幽閉》や《追放》されないようにした。


それが単に《それだけ》だとでも思っているのか?」



―――ただ見られていただけ。時折、視線が交わっただけ。



「お前たちはクリスティンひとりによって《生かされていた》と言っただろう。

その言葉の通りなんだよ。

クリスティンはな、お前たちの生活費を出していたんだ」


「…………え?」



―――言葉を交わしたわけじゃない。それでも十分だった。



「《我ら》が国政で《追放》と決めたものをクリスティンは覆した。

《我ら》全員の反対を押し切り国政を曲げたのだ。


いかにクリスティンが王家の血を引く《女王》になる資格がある者でも、

《成人まで様子を見れば良い》という王妃様の口添えがあったとは言っても、

明らかに《限度を越えている》。


クリスティンは責任を取ることにした。


お前、妾妃、妹。

《追放》されるはずのお前たちを王宮に留め置いた責任だ」



――「私は貴方といたいです」――


―――そう告げたら、彼は



「《王太子の婚約者》に支払われる金はそっくりお前たちの生活費。

他にクリスティン個人の資産も使っていた。

我が妻が愛しい娘にと遺した鉱山を差し出してな」


「なん……」



―――彼は、それを聞いて驚いて。そして……笑ったの。



「それでも《全額》じゃない。

三人生かすのには金がかかるからな。


《名ばかり》でも存在を認められた《国王陛下》とお前たち三人は違う。


お前と妹は存在を認められていない。どこにも籍のない《いない》人間だ。

愛妾は認められていないから、妾妃は書類上《下女》のままだ。


国庫からは最低限の金しか出せない。

お前たちの《豊かな》生活が成り立っていたのはクリスティンのおかげなんだよ」



―――笑ってくれたから



「妾妃は今月何枚ドレスを作った?

クリスティンがここ三年で新しく作ったドレスは一枚きり。

お前が婚約破棄を言い渡した卒業記念パーティーに着ていたドレスだけだ!」



―――だから私は……



「《我ら》全員を敵に回してもお前を、お前の家族の生活を守っていた。

お前の《色》を纏い、学園では《王太子殿下の婚約者のくせに影武者に恋した愚かな公爵令嬢》だと嗤われようが、平然とお前を守り続けた。


何年も、だ。


クリスティンの苦しみはこんなもんじゃねえんだよ。

そのクリスティンをあっさり捨てておいて、まだ助けてもらおうだ?


厚かましいにも程があるだろう。


妹がなんだって?

助けたいならお前が何とかしろよ。


自分の妹一人くらい自分で守って見せやがれ!」




―――私……は……




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