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追放




「次はそちらの元、王太子殿下ですね。

皆さん、《数年前》に決めた通りでよろしいでしょうか?」


お父様の声に今度は拍手で応えた皆様。


お父様はその音を背に、立ったままの彼の前に進み言いました。


「国王陛下に《いるはずのないご家族》ですからね。

先代国王陛下の遺言はありません。


ですから《我ら》で決めさせていただきましたが。

まずは―――ご苦労様でした」


「……え?」


「長年に渡り、《王太子殿下の影武者》を務めていただき感謝します」


「……影……武者……?」


「ええ。《影武者》です。

貴方は《王太子殿下の影武者》ということで学園に通われていたのですよ。

《我ら》の子女に囲まれてね」


彼は驚いたように、お父様を見つめています。


お父様は――少し首を傾げて、話を続けました。


「わかりませんか?

貴方が王宮を出られる時は国外に《追放》になる時か、亡くなった時だけです。


王家の血を引く正統な王妃様の《王子》が国王となられようが、

貴方がクリスティンと結婚して今の国王陛下から《国王という名》を継ごうが、


どのみち貴方を《王太子》だ《国王》だと表に出すことは出来ない。


本来なら今の国王陛下と同じ。

ずっと王宮で―――それも王宮の、ほんの一部で暮らすことになっていた。


国外に《追放》されるか、亡くなるか、するまでね。


――それを《不憫だ》と言われたのが王妃様です。


そして貴方を、外に出すことを許された。

《王太子の影武者》だということにしてね」



「……王妃……様が?」



「はじめからご説明しましょうか。

貴方が赤子の時から。


《我ら》は貴方と、王妃様の《王子》を入れ替えようと考えていました。

貴方が生まれた数ヶ月後に、王妃様が《王子》をお産みになってからずっとね」


「……入れ……替え?」


「ええ、入れ替えです。

生まれ月は違っても同じ年に生まれた二人の男子。

入れ替えるのは簡単でしょう?」


「―――――」


「――ですが、まずは様子を見ていました。

貴方が本当に国王陛下の実子かどうか、見極める必要があったからです。


実子でなければ国王陛下に妾妃様の不貞を告げ、貴方と妾妃様を国外に《追放》し、国王陛下を《幽閉》するだけ。


だがもし、貴方が国王陛下の実子なら。


国王陛下と妾妃様と貴方――三人を《幽閉》するか、

国王陛下だけを《幽閉》し、貴方と妾妃様を《消す》か。


決めなければいけませんでしたからね」



彼は信じられないと言うように口を開きました。


お父様は――ただ、淡々とお話を続けています。



「しかし、

その全てを、王妃様が止められたのです。


我が子と、わずか数ヶ月しか違わない赤子の貴方を《幽閉》や国外に《追放》。

ましてや《消す》などという選択は望まれなかった。


我が子の方も。

《王子》として育てれば、身分が低い《父親》は我が子に父親として接することも出来ませんしね。


それで貴方はそのまま国王陛下の子として育ち、

王妃様の《王子》は密かに《父親》に育てられたのです」


「―――――」


「それでも、いつかは入れ替えようと考えていましたよ。

王家の血を引いていない貴方を《国王》にするわけにはいきませんでしたから」



お父様はそこで一度話を区切ると、小さく息を吐かれました。



「……この国に《王子》が《ひとり》誕生したことは発表したので。


気の早い他国から内々にですが、婚姻を打診されるようになりました。

もちろん、受けられませんよ。面倒なことになりますからね。


そこで《公爵家の令嬢》――クリスティンを形ばかりの《王子の婚約者》に据えました。

他国や、《我ら》以外の貴族への牽制でね。



国王陛下と《王子》が揃って《身体が弱かった》ので。


執務は《我ら》と王妃様。

社交、外交は王妃様。


必要があれば《王子の婚約者》のクリスティンも出しました。


そうして、《入れ替え》の時を待っていたのです。



―――そこに数年前の、国王陛下の《この子が次期国王》発言ですよ。



あの頃にはすでに、貴方のその容貌から貴方が国王陛下の実子ではないことはわかっていましたからね。


頃合いだと思いました。


妾妃様の不貞を国王陛下に告げ、貴方と妾妃様を国外に《追放》し、国王陛下を《幽閉》する。

そして王妃様の《王子》を《本物の王子》として王宮に迎える。


そうするつもりだった。


だが、今度は《王子の婚約者》のクリスティンがそれを止めた。

《貴方との婚約》を望んだのです」



彼が目を見開き、こちらを向きました。


ですが、私は視線を落とし、ただドレスを見つめていました。


侍女が気を遣ったのでしょう。

今日、着せられたのはいつもの翡翠色のドレスではなく私の瞳の色。


淡い紫色のドレスでした。



お父様の声が聞こえます。



「《我ら》は全員、反対しました。

当然でしょう。


クリスティンと結婚すれば、貴方が今のまま《国王になれて》しまう。

王家の血を引く、王妃様の《王子》が《国王になる》ことが正しいのに。


認めるわけにはいかなかった。

どうするか頭の痛くなるほど考えましたよ。


けれど、

ここでもまた王妃様が《成人するまで様子を見たら良い》と言われましてね。



そういう方なんですよ、王妃様は。



なんと!

その少し前に、ご自分の《王子》を《我ら》に黙って祖国へ送っていた。


瞳の色で、王族だとひと目でわかる《王子》だ。

この国に置けば行動に制限をつけるしかない。


それがお嫌だったのでしょうが。

なんともまあ……やってくださいましたよ。


おかげで貴方と王妃様の《王子》を入れ替えようにも《王子》が不在です。

どうしようもない。


それで王妃様の言われた通り、

貴方と王妃様の《王子》が成人するまで様子を見ていたのです。



……王妃様の言う通り、待っていて良かったようですね。


貴方は人前で堂々とクリスティンとの婚約破棄を宣言した。


その瞬間です。


貴方は完全に《王太子》ではなく《王太子の影武者を務めた者》になった。

もう、お役御免です。ああ、命は取りませんよ。王妃様に叱られますからね。


ですが。


この先は、国内に居てもらっては面倒なのでね。

国外に《追放》、決定です」


「―――――」


ドレスを見つめていた私には、彼がどんな顔をしたのかはわかりません。


けれど、お父様はふっと笑われました。


「恨みますか?私たちがしたことを。

どうせ捨てるなら、とっとと捨ててくれれば良かったのに、と」


「…………」


「まあ、恨まれても仕方ないですがね。

……貴方は国外に《追放》されることが、どういうことだかわかりますか?」


「え?」


「どこの誰だかわからないように特徴のない質素な平民服を着せられ、

装飾品ひとつ、身分証すらも渡されず、僅かばかりの金を持たされ

―――ただ、国境から放り出されるだけです」



「―――――」




「貴方が赤子だった頃。

貴方がまだ幼い子どもだった頃。


もし、《追放》になっていたら、きっと即座に命はなかったでしょう。


ですが、立派に成人した今の貴方なら。

なんとか生き延びられる可能性は高いでしょうね」




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