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決別




「貴方たちはクリスティンひとりによって《生かされていた》のですよ。


―――ですが。


そこの元、王太子殿下の希望で婚約は破棄されましたからね。

貴方たちが《生かされていた》時間は終わりを迎えました」


お父様はそう言うとくるりと向きを変え、居並ぶ皆様を見回しました。


「さて。どうしましょうか、皆さん。


まずは国王陛下ですね。


先代国王陛下の遺言で《消す》ことも王宮から《出す》ことも出来ません。

ですので《幽閉》でよろしいでしょうか。賛成の方は挙手を」


お父様が言い終わるかどうかのところで、手が一斉に上がりました。

大臣、主要貴族の皆様全員の手が、です。


「はい、《幽閉》決定で。

現在、妾妃様が全員追い出してくださいましたので、愛妾もいない。

ちょうど良かったですね。一人で《北の塔》に籠ってもらいましょう。

世話は男性限定にしてね。警備は―――」


話を進めるお父様を、国王陛下が慌てて止めました。


「―――ま、待て!そんな、いきなり!そうだ!

名ばかりでも国王がいないのでは、何かと不都合があるのではないか?」


「いいえ、全く。《病弱な国王陛下》は籠っていてください。

これまでも、この王宮の者や《我ら》以外、ほとんど《誰とも》会っておられないでしょう?


お陰で国民、他国の王たちに貴方の顔は知られていないのです。

問題ないですね。


それに、言ったでしょう?

貴方は国王ではなくなると。


数年もすれば王太子殿下が新しい国王として即位されますので。

心配は無用です」



けろりと言われたお父様。

国王陛下は驚いたように、顔色を無くし立ったままでいる彼に視線を向けました。



「王太子……?いや、しかし王太子は……」


「ああ、もちろんそこの《偽物》元、王太子殿下ではありません。

王妃様がお産みになった、王家の血を引く《正統な王太子殿下》です」


「何っ?!王妃の子だと?!」


「ええ。お歳はそちらの《偽物》元、王太子殿下と同じ。

王妃様の意向で幼い頃はお父様に育てられ、成長後はこの国ではなく、王妃様の祖国で学ばれていました。


自由な方でね。


《国王の地位などに興味はない》とずっと言われておられましたが。

《こうなった》以上、立って貰わねばなりませんね」



「誰だ!いったい誰の子なのだ!

―――まさかお前じゃないだろうな、宰相っ!」


再び立ち上がると、お父様に詰め寄った国王陛下。

お父様は、うんざりしたように長い息を吐いてから告げました。


「そんなわけないでしょう。私は今でも亡き妻一筋ですよ。

……まあ、教えて差しあげても良いでしょう。


王太子殿下のお父上は、王妃様の長年の想い人です。

本来なら、王妃様と添うことなど決して叶わない。身分違いのね。


その者を《実質の夫》とし、生涯添うことを許すこと。

《お飾り》ではなく、国政に携わる王妃とすること。


この国に嫁ぐにあたって王妃様が出された条件です。

先代国王陛下と《我ら》はその条件をのんだ。


愛妾を侍らせていた貴方にはすでに《薬》が与えられていましたからね。

こちらとしても良い条件だった。


他に三人の姉君がいたにも関わらず、王妃様がこの国に嫁いでいらしたのは、この国と王妃様、双方に利益があったからなのです」



国王陛下は力なく首を左右に振られました。


「そんな……王妃が……」


「不貞だとでも言う気ですか?

ご自分が成婚より先に《愛妾》を侍らせていたのに?


言っておきますが、この国は《愛妾》など認めてはおりません。

妾妃様についても便宜上そう呼んでいるだけです。名無しでは不便ですからね。


王妃様の祖国も同じです。

言いましたよね?


王妃様にも一喝されていらしたではないですか。


《信じられないけれど、もうすでに愛妾がいると言うなら良いでしょう。

愛妾を認めて差し上げるわ。何人作っても宜しくてよ。


―――でも私に触れないで。


《過去》の女性なら気にしないし、私の《お古》なら差し上げましょう。

けれど《共有》するのはごめんだわ。


昨日愛妾に使ったモノを今日は私に使われる、なんて考えただけで虫唾が走る!


と、言うことで。二度と顔を見せないで。

さようなら、旦那様》


とね。


いやあ、あれはお見事でした」



「―――」



「残念でしたね。

《7つも年下の子どもではないか》と言っておきながら、顔を合わせた瞬間から式典の間中、ずっと惚けたように王妃様を見ていらしたのに。


《夫》にしてもらえないどころか、会っても貰えなくなるとは。


貴方が《愛妾》など侍らすことなく王妃様とのご成婚を待っていれば。

今とは違う世界が開けていたかもしれないのに」


「……黙れ」


「ああ、もしかしたらそれでクリスティンが気に入りませんでしたか。

貴方でしょう?

そこの《偽物王太子》にクリスティンとの婚約など破棄しろ、と唆したのは。

クリスティンの髪色、瞳の色。面差しは王妃様と良く似ていますものね」


「黙れ!」


「その結果がこれですよ。

貴方たちはクリスティンという唯一の味方を失った。

お別れです。

残念だよ。―――ジェイ」



国王陛下は言葉を失ったようです。



ジェイ、は国王陛下の愛称です。


王太子殿下だった頃の国王陛下と共にいたお父様のみが許されていた呼び方。


お父様は《護衛》兼《友人》に、と先代国王陛下から請われたので仕方なく、と言っていましたが。


きっと《それだけ》で一緒にいたのではなかったのでしょう。



項垂れた国王陛下を見るお父様の瞳が、そう語っていました。




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