婚約は
床にへたり込んだ国王陛下。
お父様は手を貸し、国王陛下を再び玉座へと座らせました。
一方、彼はずっと呆然と立ち尽くしたままです。
ミリア嬢は――置かれた状況が全くわからなかったのでしょうか。
両手をお腹にやったまま、目だけをきょろきょろと忙しなく動かしています。
居並ぶ皆様は、ずっと平然と見守っておられます。
そして、お父様は―――
お顔は白く、身体に力は無く、
魂が抜けてしまったかのように座っている国王陛下に、にこにこと微笑みながら言われました。
「実はですねえ、国王陛下。
数年前、
この部屋で会議をしていた《我ら》のところに貴方がこちらの元、王太子殿下を連れて来られたことがあったでしょう?
そして、元、王太子殿下を《我ら》の前に差し出すようにして、こう言われた。
《この子が次期国王。王太子である》と。
いやあ。
あの時は《我ら》全員さすがに、貴方に殺意が湧きましたよ。
――この《駒》、何言ってくれちゃってんの?――
ってね。
まあ《親の罪など貴方には伝えないでくれ》という親バ……いえ。
《お優しい》先代国王陛下の遺言のせいでもあったのでしょうが。
それにしても、執務もせず快楽に溺れてばかりいたくせにアレはない。
限界でした。
王妃様がいらっしゃいましたし、もう機は熟した。
これ以上、貴方たちを《王族》として置いておく必要もない。
《我ら》は考えましたよ。
妾妃様を含めた貴方たち家族を《幽閉》するか《追放》するか。
もしくは―――《消す》か。
どれにするかをね。
―――が。
なんと我が娘クリスティンが、そうさせてはくれなかった。
そちらの元、王太子殿下と正式に婚約を結びたいと言い出した。
次期女王の資格がある。
王家の血を引いた、紫色の瞳を持つクリスティンがね。
それで《我ら》は仕方なく、貴方たちを現状のままにしておいたのです。
そう。
貴方たちはクリスティンひとりによって《生かされていた》のですよ」
私は自分に視線が集まるのを感じ、目を伏せました。




