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episode09 野盗急襲


「どうも、毎度あり!」



 ゲインはミスリルの腕輪を受け取ると、上機嫌に握手を求めてきた。



「どうよ? 俺に任せて良かったろ」

「うん、助かった。ところであれは、一体どういうスキルだったの?」



 ホビトのスキルは一般的に精神型と呼ばれる。

 ナホロス達の脳や精神に作用するスキルで、騙したってことなんだろうけど……。



「やっぱ、気になっちゃう? 教えてあげてもいいんだけど……どうしよっかなぁ」



 ゲインがこちらを、チラチラと見てくる。

 もしかして、もっと金を寄越せ、ということだろうか。



「……強欲が、すぎる」



 軽蔑一色の冷ややかな視線。シャルティが呆れている。

 本当に嫌いなんだな、ゲインみたいなタイプ。



「なんだよ、なんだよ、そんな目で見るなよ。ちょっとしたお茶目じゃん。ジョーダン、冗談。ちゃんと教えるって。じゃあ、こっち見て、3、2、1、はいっ」



 ゲインの姿が一瞬にしてシャルティに変わった。



「シャルティ!?」

「でんっ――」



 隣にシャルティがいるから、場所が入れ替わったわけではない。シャルティが二人いるのだ。まったく見分けがつかない。


 シャルティはシャルティで、ゲインと僕とを見比べている。きっと、シャルティには僕が二人いるように見えているのだろう。


 っていうかシャルティ、いま「殿下」って呼びそうになってたよね。


 よく考えたら、シャルティも賞金首にされているんだから、いつまでもシャルティって呼ぶのは危ないな。


 何か偽名とか、コードネームみたいなものを決めないと。



「どうだ? どんなスキルか理解できたか?」



 シャルティからゲインの声が聞こえる。

 変わるのはあくまで見た目だけ、ということらしい。



「うん、ありがとう。おかげで大切なことに気づけたよ」

「大切なこと? なんだかよく分かんねぇけど、まあいいや」



 ゲインがパチンッと指を鳴らすと、シャルティの姿がゲインに戻った。



「それで、お兄ちゃん達。これからどうすんの?」

「どうって、とりあえず村をでるよ」

「そのあとは南へ、か」



 古来より、この国の逃亡者は皆、南へ向かう。

 トリスワーズ国は南北に広く、王都は北に位置している。


 したがって、僕らに限らず、逃亡者が向かう先は南しかないのだ。



「気をつけろよ。王都と違って、外は物騒だからな」

「そうなの?」

「そりゃそうさ。王都がなんで城壁に囲まれてるか知ってるか? 敵から身を護るためだよ。つまり外は敵でいっぱいってこと」



 なんとも雑な解説だ。

 とりあえず「敵」の解釈が広すぎる。


 でも、ゲインが本気で心配してくれているのは伝わった。



「そっか。ありがとう、ゲイン」

「よせよせ、礼なんか言われると背筋がゾクゾクしちまうよ。これはあれだ。ミスリルの腕輪のお釣りだよ。アフターフォローってやつだ」



 ゲインは照れくさそうに頭を掻いて、椅子からピョンと飛び降りた。



「じゃ、達者でな。縁があれば、またどこかで会えるだろ。お互い、運よく生きていられたら、な」



 僕は、食堂から去っていくゲインの背中を見送った。

 しかし……シャルティはほとんど喋らなかったな。


      ★


 ゲインを見送って間もなく、僕たちも村を出発した。


 ナホロス率いる王国軍の捜索を乗り切ったばかりとはいえ、王都から目と鼻の先にある村に長居する度胸は無い。


 街道を南へと歩く。王都から離れれば離れるほど、人影はまばらとなっていく。



「……だれか、いる」



 シャルティが足を止めて、臨戦態勢を取る。

 もちろん僕も剣を抜いて、敵に備えた。



「やれやれ、ガキに勘付かれるようじゃ、俺もおしまいだな」



 街道の脇から背の高い男が1人……いや陰に子供がもう1人。背後からも1人。


 全員が外套(がいとう)を羽織っていて、姿を隠している。



「相手はガキ2人だ。気付かれても仕事に支障はないだろう」

「そういう問題じゃねぇんだよなあ」



 仕事。仕事かあ。人気のない道で、旅人を囲んでやる仕事っていったら、やっぱりアレだよなあ。



「さて、命までは取らないでおいてやるから、荷物は全部置いていきな」



 ――デスヨネ。


 これが世に有名な野盗ってやつですね。本では読んだことあります。


 とはいえ、言われるままに荷物を置いていくわけにはいかない。


 逃げるのにも先立つものが必要なのだ。



「……なあ、アニキ。こいつらって――」



 何やら手に持って、前方の二人がコソコソしている。

 アニキと呼ばれた小さい方が手に持った紙と、僕の顔をチラチラ見比べている。


 小さい方がアニキなのか。ということは子供じゃなくてホビトだな。



「いや、どうだろう。似てなくもないが……微妙だな」



 ああ、イヤな予感。あの紙って人相書きだよね。



「おい、お前ら。もしかして賞金首か?」



 直接、本人に訊いてきたーーー!?

 それで「はい、そうです」なんて答えるヤツはいないだろ。



「そうだ。僕が賞金首のエヴァルトだ」



 え? 僕、今なんて言った?

 シャルティも、何言ってんだこいつって顔でこっちを見ている。



「隣の女、名は?」

「……私は、シャルティ」



 僕とシャルティは顔を見合わせる。

 間違いない、これはホビトの精神型スキルだ!



「そうか、そうか。それじゃあ、荷物だけってわけにはいかなくなったな。ついでに首も置いていけ」



 背が低い方の野盗がスラリと剣を抜く。

 後方の野盗は剣の代わりに、メロンくらいの大きさの火球を構えている。

 

 メロンくらいの――火球!?


 男は大きく振りかぶって、手元の火球を投げつけてくる。

 とっさに火球を躱すと、さっきまで立っていた場所が黒く焦げていた。


 属性型スキルってことはあいつはエルフ。


 もしかしてこれ、当たったら火傷じゃ済まないやつ?


 僕たちは村を出て早々に、野盗と命懸けの闘いをすることになった。


 ところで、素朴な疑問なんだけど、野盗でも賞金首を持っていけば報奨金を貰えるのかな?



 野盗ってバレなきゃいいのか、そうか。

―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


トリスワーズ国 Tips <貨幣>


 鉱石の産出国であるトリスワーズ国では金属貨幣が流通している。

 尚、この貨幣は現代のような信用によって成り立つ信用貨幣ではなく、一定の重量と金属含有率が担保されていることが重要な本位貨幣である。

 便宜上、日本のお金で換算すると以下のようになる。

 

 金貨1枚=10,000円

 銀貨1枚=1,000円

 銅貨1枚=100円

 ※産出量による貨幣価値の変動は考慮しないものとする



★次回予告★

 どうも、めずらしく戦っているエヴァルトです!

 それにしてもスキルって怖いね。

 火の玉投げてくるとか反則じゃない?

 もう1人のスキルはなんだろう……。

 次回、あにコロ『episode10 仮面の女』

 ちょっとだけでも読んでみて!

―――――――――――――――――――――――――

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