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episode75 成人の日


「……殿下、あのね。……私、発現したわ」


 シャルティがスキルに発現したのは、エルフの森からアヴェールの古城へと帰る道すがらのことだった。


 そのことをコッソリと耳打ちされた僕は「おめでとう」と小声で祝った。


 そろそろだろう、とは思っていた。

 僕たちがトリスワーズの各地を巡っている間に、シャルティは15歳になっていたのだから。


 どんなスキルが発現したのか、は聞かなくても分かる。

 僕たちは未来のシャルティと会っているし、彼女が持っていたスキルも知っている。


 もし別のスキルだったとしたら、シャルティはもっと焦った様子で伝えてきたに違いない。


「……ちゃんと、止められたわ」


 僕は、そっか、とだけ答えた。

 

 止めたのは時間。

 クロ姉と同じ【時間操作】のスキルだ。


 ただそれだけのことなのに、ついクロ姉のことを思い出して感傷的になってしまう。


「……クールタイム、あるの。……だいたい、1時間くらい」

「わかった。覚えておくよ」


 クールタイムとは、スキルを使用できる間隔のことだ。

 強力すぎるスキルには効果時間やクールタイムが発生するものがある、と言われている。


 なぜこのような表現になるかというと、そもそもそんなに強力なスキルが発現するケースが少ないし、発現したとしても大っぴらに話すようなことではないからだ。


 強力すぎるスキルを持てば警戒される。

 警戒されるような立場になれば、普通の生活は縁遠いものになる。


 万が一、スキルについて誰かに話したとしても、効果時間やクールタイムまで伝えるとは限らない。それは相手に弱点を教えていることと同じなのだから。


 シャルティは僕と主従の関係にあり、背中を預け合うことになるから教えてくれているが、通常は他人に教えるようなものではない。


 結果として「強力なスキルには効果時間やクールタイムという制限があるらしい」というふんわりした情報だけが後世に伝わっていったのだろう。


「あまり時間がないけど……、なるべく使ってスキルに慣れておいて欲しい。そのスキルは切り札になると思うから」


「……ええ、わかってるわ」


 シャルティは静かに頷き、その場を去った。

 この時点までは、このことはふたりだけの秘密にしておくつもりだった。


 ベントットやモカをはじめとした仲間のことはもちろん信頼している。

 しかし、信頼している仲間にだって言えないことはある。


 この秘密を開示せざるを得なくなったのは、王都潜入の前日のことだった――。


 シャルティがスキルを発現したことについて伏せていたこともあり、自然とヒュムでは僕が神器を持つ流れになった。僕も異存は無かった。


 シャルティのスキルは強力だが、1時間のクールタイムを考えると使い勝手は悪い。それよりも僕が保有している複数のスキルを他のメンバーと共有出来た方が便利だと考えていたからだ。


「それでは、神器の稼働テストをしてみましょう」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれよ」


 ユベルの言葉にすぐさま待ったをかけたのはベントットだ。


「オレの記憶が間違ってなければ……だけどよ。神器ってのは1回使ったら次に使えるようになるまで100年かかるんじゃなかったか?」

「そうですね」

「稼働テストなんてしたら、次に使えるのは100年後になるんじゃねぇのか?」


 ベントットの疑問に、他のメンバーもうんうんと頷いている。


「それは心配ありません。『神器の効果発動は8つの珠を持つ者達の総意によって発動する』という条件があり、私は絶対に同意しませんから」

「それで稼働テストになるのか?」

「ええ。それではご説明しますね。『8つの珠を持つ者は8つの人種が揃っていなくてはならない』という条件を満たすことで珠が光を放ちます。ここで全員が発動に同意すれば神器の効果が発動することになります」

「なるほど。珠が光を放つところまで確認するのが『稼働テスト』ってことか」

「そのとおりです。では、早速やってみましょう」


 ユベルにうながされ、僕とベントット、ダイサツ、モーカレラ、ルチア、モンセノー、ゲインはそれぞれ神器の珠を手に取った。


「……」

「…………」

「………………」


 光らないんだけど。

 明るいと光ってても分かりづらいのでは? という声にお応えして、小屋の灯りを吹き消してみたりもしたけど、やっぱり光っていない。

 月明かりの方が明るい……。


「……えーーっと?」

「もしかしてぇ、神器さん壊れちゃったのかなぁ?」

「……そ、そんな!?」


 さっきまでニコニコと自慢げに神器の説明をしていたユベルがガチ凹みしている。

 先祖代々300年以上も守り続けてきた神器が使いものにならないともなれば、そういう反応にもなるだろう。


「ユベル、まだ壊れたって決まったわけじゃないから」

「……じんぎ……そんな……じんぎが……。我が祖、ガルフよ……、私は使命を果たせませんでした……」


 ダメだ、聞こえてない。

 ユベルってこんなに思いつめるタイプだったのか。


「あー、ちょっといいかしら?」


 ルチアが静かに手を挙げて言った。


「もしかして……私がクォーターだからダメだったり……する?」

「「「「「「「「あ゛」」」」」」」」


 そうかもしれない。

 とはいえ、今から他のハピラを古城まで呼びに行くのも時間のロスが痛い。


 クォーターか、そうかぁ、盲点だったなぁ。

 クォーターか……あ。


「シャルティ、ちょっとこの珠を持ってみて」


 僕は自分が持っていた神器の珠をシャルティに手渡した。

 その瞬間、8つの珠は8色に光り出した。


「ひ、光った! 光りましたよ!! 父上! 母上! ご先祖様!! 光りました!!!」


 ユベルのテンションがどん底から跳ねあがった。

 情緒不安定が過ぎる。


「んー、でもなんで光ったんだ?」

「シャルティもクォーターだからさ」

「だから?」


 察しの悪いヤツだな。


「問題ね。ルチアの3/4がハピラ。シャルティの1/4もハピラ。足したら?」

「1」

「そのとおり。つぎの問題。ルチアの1/4がヒュム。シャルティの3/4もヒュム。足したら?」

「いち……、なるほどな」


 つまり、ふたりが揃うとバランスがいいんだ。

 こうして神器を使うメンバーが決まった。


 決まった以上はそれぞれのスキルについて情報の共有が必要になる。

 スキルを共有するのだから、当然だ。


 そこまで信頼できる相手なのか、ということもこの神器は問うているのだろう。

 まさに神の器だ。


 僕とシャルティは目配せして頷き合った。


「まずは僕たちからスキルのことを話そう」




もし「面白そう!」「期待できる!」って思ったら、広告下からブックマークと★を入れてくださいませ。★の数はいくつでも結構です。それだけで作者の気分とランキングが上がります٩(๑`^´๑)۶

―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 そういうわけで、前回ゲインが使った奥の手は時間操作だった、と。

 残すは残虐なる王、ヴァルデマル! 首を洗って待ってろよ!!

 次回、あにコロ『episode76 兄を追え』

 ちょっとだけでも読んでみて!

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