episode74 地下牢で
(三人称視点)
エヴァルト達が謁見の間に踏み込んだ頃、ゲイン達は地下牢でノーズライグの姿を捉えていた。
姿は捉えているものの、間には50メートルほどの距離があり、間にはぎっしりと恐兵がひしめいている。
「ああああああ!! めんどくせぇ!!」
持ってきた武器は幾人もの恐兵を斬ったことで使い物にならなくなった。
硬質化した拳で殴り、炎で燃やし、ノーズライグまでの道を作ろうとするも遅々として進まない。
ノーズライグのいる場所は他の牢よりも特別大きな牢だ。
そこから数秒に1体のペースで恐兵が戦線に加わっているのが見える。
恐兵の元となっている人の抜け殻がそこにある。
無限に存在するわけではないだろうが、終わりが見えないというだけで十分な脅威だ。
神器の効果時間は限られているのだから。
「もう使っちまおうぜ」
真っ先にゲインが痺れを切らした。
彼が使おうとしているのは、全員で相談して『奥の手』としたスキル。
本当に使わざるを得ない状況でしか使ってはならないスキル。
なぜなら、このスキルはクールタイムが長い。
神器の効果時間である1時間に使えるのは1回のみ。
それでも1人1回使えるのであればリスクは低いのだが、守り人に伝わる神器の効果は『スキルを共有する』となってる。
共有、という言葉の意味を考えれば、全員にクールタイムが適用される可能性は高い、というのが結論だった。
「しかし、こっちで使ってしまって、もし王を獲り損なってしまったら……」
ユベルは懸念を示すが、そのときには隣にいたはずのゲインの姿が消えていた。
慌てて前方に目をやると、すでにゲインがノーズライグを拘束しているところだった。
「あぁ……。もう使ってしまいましたか……」
ユベルがため息を吐く。
「おいキサマ、死にたくなければ、こいつらを止めろ」
「ぐぇっ!!」
ゲインはノーズライグに、恐兵への命令を取り消すように脅しをかけていた。
おそらくノーズライグ以外を攻撃対象として指定しているのだろう。
ノーズライグを盾にしている格好となっているゲインを恐兵は襲えないでいた。
しかし、向こう側にいるモンセノーとユベルはまだ恐兵と戦っている。
ノーズライグのスキルによって増殖されていたため、恐兵がこれ以上増える心配はなくなった。
それでも、この地下にあふれている恐兵はまだ百人以上いる。
さっさと戦いを終わらせてエヴァルト達の応援に駆けつけたい、というよりもヴァルデマルもこの手で討ち取りたいとゲインは考えていた。
「ふふっ。ふふふ。ふははははははは」
ゲインの脅迫に対するノーズライグの返答は嘲笑だった。
「なにがおかしい!?」
「ふふふふ。いえ、あなたが『死にたくなければ』なんて陳腐なセリフを仰るものですから。ふふふふっ。私を生かしておくつもりなど無いでしょうに」
「――――ッ!?」
ノーズライグの指摘は図星だった。
ゲインは、弟を人体実験していたノーズライグを生かしておくつもりなど毛頭ない。
「そうだな。俺が間違ってたぜ」
――パキィッ
「ぐあああぁぁぁ」
ゲインの手によって、ノーズライグの左手小指が手の甲に向かって折れ曲がった。
「さっさと止めねぇと、順番にいくぜ」
――ゴギィッ
「ぬがあぁぁぁぁぁ――ッ!!」
次は左手の薬指が鈍い音を立てた。
ノーズライグの顔から血の気が引いていた。
「ふふっ。ふはははは。さきほどのつまらない脅しなんかより、よほど効きますね。……でも、残念ですが、私には止められません」
――ボギッ
「んぬううぅぅぅぅ」
さらに中指があらぬ方向へと曲がる。
指を折られる覚悟を決めたノーズライグは歯を食いしばっている。
「なら、どうすれば止められる? 早く答えろ」
「……止められる者などいないのですよ。こいつらは一度受けた命令を実行することしか出来ない人形なのですから。……そうだ。私はその課題を解決しなくてはならなかったのだ。もっと、もっと使いやすい殺りく兵とするために――ッ!!」
――パキッ
「んぬぅ」
人差し指も折れるが、もはやノーズライグからは悲鳴はあがらない。
その口から発せられるのは、ただ怨嗟の言葉だけ。
「きさまらが邪魔をしなければ、私の研究はもっと高みへと近づいていた。このトリスワーズの愚民どもを使って、もっともっと実験を繰り返していけばっ! 神の兵を作り上げることが出来たに違いないのだ!! きさまらさえいなけ――ぐふぁっ」
ノーズライグの言葉が終わらないうちに、ゲインの硬質化された拳が彼の腹を突き破っていた。
恨み言を並べていた口からは鮮血が飛び出し、目からは光が消えていく。
「そんなに高いところが好きなら、とっとと逝けよ。狂人が」
「…………おぉ、神よ。いま、あなたのおそばへ……」
ノーズライグが力尽きたことを察したのか、恐兵はゲインにも襲い掛かってくる。
ゲインはノーズライグの骸のスキルで燃やし、恐兵の群れの方へと押し倒した。
「わりぃな。あんたらに恨みはねぇけどよ。縛り上げてる余裕はねぇんだ」
おそらくはこの城下に住む民であったであろう恐兵。
同情する気持ちはあるが、襲ってくるのであればわが身を守らざるをえない。
ゲインの全身が硬質化し、恐兵の攻撃が一切通らなくなる。
「残り時間はあと……20分ってところか」
神器の効果が切れる前に、この恐兵たちを始末してしまわなくては、途端に形勢は逆転してしまう。
炎を生むスキルを持つユベルはまだしも、ホビトのゲインとドワフのモンセノーは元々戦闘向きのスキルでは無い。
ゲインはモンセノーのユベルに届くように声を張る。
「ここにいる恐兵はもう止められねぇ。挟み撃ちで蹴散らすぞ!」
「ふんっ。そんなことじゃろうと思ったわい」
「ですね。もう増えないだけマシってことで」
モンセノーとユベルが頷き、近場の恐兵を燃やした。
※読まなくてもいいオマケです。
★次回予告★
よぉ! 元気にしてるか? 俺はホビトのゲイン!
ロインの仇はとった……って言っていいのかねぇ。
やっぱ、ヴァルデマルもあっちに送ってやらないと納得いかねぇよな。
次回、あにコロ『episode75 成人の日』
読むなり、ブラバするなり好きにしな!




