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episode73 姉と弟と


 僕たちは裏門を守っていた守備兵を眠らせ、王城へと潜り込んだ。


「それじゃあ、みんな……準備はいい?」


 8人が8つの珠を持ち、神器の力を解放する。

 スキルがそれぞれに共有されていく。


「ここから先は、打ち合わせ通りに別れることになる。まずゲイン、モンセノー、ユベルは地下を。恐兵の発生源を潰してほしい」


「オッケー! あのヒョロヒョロローブをぶっ飛ばしてやる」

「うむ。ワシの城を破壊した報いを受けさせてやるのじゃ」

「エルフの森を襲った奴らですね。わかりました」


 3人はすぐに走り出し、地下牢の方へと向かった。


「モカとルチアは、ここで外から入ってくる兵士を足止めして欲しい」


「はぁーーい♪」

「わかってるわ。これだけのスキルがあれば、私ひとりでも十分なくらいよ」


 ヴァルデマルのスキルなら、危険を察知したタイミングで簡単に増援を呼ぶことが出来てしまう。

 背後をつかれる事態は避けたい。


 僕、シャルティ、ベントット、ダイサツは大階段を駆け上がり、王族の部屋がある区域を目指す。


「し、侵入者だ!!」


 ここまで来たら、あとは突っ切るしかない。

 集まってくる兵士に対してスキルを大盤振る舞いするだけだ。


――【放水】


「う、うわあああぁぁぁぁぁ!!!」


――【凍結】


 これまでに何度も使ってきたスキルのコンボ。

 敵兵は見事に氷漬けになっていった。


 しかし、以前よりも王城の警備兵の数が少ないように感じる。

 気のせいだろうか……多いよりは少ない方がいいか。


 ヴァルデマルがいる場所は……謁見の間か、王の居室か。

 これ以上メンバーを分けるのは避けたいところだ。


 距離が近いのは謁見の間。

 僕たちは豪華な装飾がほどこされた大扉を開いて、謁見の間へと入った。


 謁見の間には豪奢に衣装に身を包み、エヴァルトと同じ赤茶色の長い髪をクルクルと巻いた女性が仁王立ちしていた。


「そう。あんたがカスどもの首謀者だったのね……愚弟、エヴァルト」

「……イザリア姉さん」


 実の姉との久方ぶりの再会であった。


「ふん。あんたに姉さんなんて呼ばれる筋合いは無いわ。あんたが……あんたさえ生まれなければ、母上が死んでしまうことは無かった!」


 王城で生活していたときから、何度も浴びせ続けられた言葉。

 姉は16年経った今でも、母の死を受け入れることが出来ないでいた。


「あまつさえ、兄上……我らがヴァルデマル王にたてつこうなんてね。こんな奴、やっぱりさっさと殺しておけば良かったのよ」


「姉さん、聞いてください! 兄は……、ヴァルデマルは僕たちの父王を殺したんです。それを知ったグロン将軍にまで手をかけ、その罪を僕たちに着せた。真に罰するべきはヴァルデマルです!」


 僕の必死の説得を、イザリアは鼻で笑った。


「ふふっ。なにを言ってるの」

「信じられないかもしれませんが……それが真実です」

「ふふっ、あははははははははははははは」


 イザリアの笑いがどんどん大きくなる。

 そして彼女は僕を憐れむような目で見て、言った。


「あんたは本当にバカで、グズで、ニブいわね」

「え?」


「そんなことは《《はじめから知っているわ》》」


 イザリアの告白に僕は言葉を失った。


「ふつうに考えればわかることよ。国王を殺すだなんて、そんな大それたことをやるのに根回ししていないわけがないでしょう? 私も、王太后様も、純血派の有力貴族も、みーんな承知のことよ。あんたをスケープゴートにすることも含めて、ね」


「うそ……だ」


「ついでに言えば、グロン将軍が助けに来ることも織り込み済みだし、あんたと一緒に始末しておく計画だったの。生きていたら絶対うるさいでしょ、あの大男は」


「……父さま、そんな!?」

「やはりヒュムは嘘つきで、卑怯ものダ」


「噓つき? 卑怯? あははははははは。相変わらずクズどもはくだらないわね。知恵を使うのが人の武器、騙し合いは人の世の常。あなたたちが甘いのよ」


「けっ、胸くそ悪ぃヤツだぜ。こいつ本当にエヴァルトと血が繋がってんのか?」


「胸くそ悪いのはこっちのセリフよ」


 ――バタンッ、バタンッ!


 イザリアが右手を天井に向かって突き出すと、謁見の間の奥にある扉が開いた。

 ぞろぞろと奥から出てくる王国正規の装備である青い鎧を身をまとった兵士達。


 兵士のひとりが右手を前に出すと、床と並行に炎が走った。

 とっさにエヴァルトが【放水】で水をぶつけて相殺する。


 炎と水がぶつかったことで、あたりは水蒸気で真っ白になった。


「あいつら……恐兵か!!」


「こいつらは元々、王国の警備兵。これまでのよわっちぃ奴らと一緒にしない方がいいわよ」


 様々なスキルが入り乱れて、謁見の間はもう地獄のようだった。


「エヴァルト……、ここはオレとダイサツに任せろ。ただ……、すまねぇが手加減はできねぇぞ」


「わかってる。思いっきりやってくれ」

 

 ベントットの姿がレッドドラゴンへと変わっていく。

 神器によって共有されたモカのスキルだ。


 さらにダイサツのスキルで身体は鋼鉄へと変化し、鋼鉄の竜となったベンドットが恐兵を蹴散らしはじめた。



「ぎゃっ!!」


 謁見の間の奥にいたイザリアが、地面に伏せた菅田で悲鳴を上げた。

 左腕が本来関節が動かない向きに曲がっている。


「こっちは任せときな」


 サラーナの声だ。

 ダイサツと入れ替わり、姿を消してイザリアの背後から襲ったらしい。


「おまえは誰!? 姿を消して不意打ちだなんて、卑怯だわ!!」

「知恵を使うのが人の武器、騙し合いは人の世の常……なんじゃなかったのか?」

 

 サラーナがちょっと楽しそうだ。


「イザリア姉さん、ヴァルデマルはどこ?」


 僕は急に押さえつけられて戸惑っているイザリアに近づいて訊いた。


「あんたごときが兄上様を呼び捨てにするんじゃないわよっ! 私が兄上様の居場所を言うわけないでいったああぁぁぁい!!」


 姉の叫び声が響く。

 一度だって姉らしいことをしてもらった覚えは無い血が繋がっているだけの姉。

 プライドだけは人一倍高い王族の姉。


「もう一度だけ訊くよ。『ヴァルデマルはどこ?』」


 僕はためらい無くスキル『自白』を使った。


「兄上は────────よ」


 自らの意に反してスキルによって自白させられてイザリアは、その場で舌を噛み切って絶命した。



※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 姉と弟が久しぶりに会って殺し合う世界

 はやく全てを終わらせたい

 次回、あにコロ『episode74 地下牢で』

 ちょっとだけでも読んでみて!

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