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episode71 恐兵侵攻

(第三者視点)

「兵を回せ! 奴らをひとりも森へ入れてはならん!!」


 女王であるファニーの側で、トーベンが声を張り上げる。

 トーベンが子供のころまで遡っても、これほどの数の侵入者が一度に現れた記憶などない。


「トーベン! トーベン!! あれはいったいなんなのじゃ!?」

「……わかりません」


 怯えているファニーに、トーベンは明確な回答が出来ないでいた。

 

 侵入者はヒュムだ。それだけは間違いない。


 しかし、全く統率の取れていない集団であることと、人を襲うことだけを目的とした動きに、彼の頭は混乱していた。

 

 どう贔屓目ひいきめに見ても、軍隊ではない。

 言うなれば暴徒の群れだ。


「火炎部隊、火を放て!!」


 通常、侵入者がいても森への被害が起こりうる火炎系のスキルは使わないことになっている。

 しかし、今回ばかりはそうも言っていられない状況だ。


「強風、放て!!」


 さらに風を巻き起こすスキルを重ねて延焼させる。


 エルフの森の入り口に炎の壁が立ち上った。

 相手が人の軍隊であれば、当然引くべき場面だ。


 だが、敵の足は止まらない。

 炎に焼かれながら前進してくるヒュムの群れを前に、エルフ側が恐怖に飲まれ始めている。


(まずい……このままでは)


 第一次防衛線が突破されはじめ、トーベンの表情にも焦りが見え始めた。


「トーベン! トーベン!! なんとかせよ! なんとかせよ!!」


 なんとかしろと命じられただけで解決するのではあれば、こんな危機的な状況を迎えてはいない。


 しかし、トーベンは自らの立場を顧みて、最も優先すべき対象の目を見て言った。


「陛下、ここはもう崩れます。下がりましょう」

「なにを……なにを言うておるのじゃ」

「陛下の身の安全が第一でございます」

「同胞が戦っているというのに、妾だけ逃げることなど出来ぬ」

「それでも! 陛下は逃げなくてはなりません。……ごめん!」


 トーベンは嫌がるファニーを抱えると、周囲の兵に指示を飛ばして森の奥へと駆けだした。

 ――その時。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 大きな音を立てて地面が隆起し、土の壁が敵の進路を阻んだ。


      ★


(エヴァルト視点)


 僕たちが『邪神のねぐら』から戻ってくると、エルフ達が大騒ぎしていた。


「王国軍が攻めてきた」

「いや、あれは悪魔の軍勢だ」

「生きているのか、死んでいるのかも分からない」

「もうこの森はダメだ」


 それだけで状況把握としては十分すぎた。

 間違いなく、恐兵がこの森を襲っている。ならば方向は北だ。


 僕たちはその場にいたエルフ達に道を訊き、北の出口へと向かった。

 もう戦線は崩壊しており、トーベンがファニーを抱えて逃げようとしているところだった。


「ベントット!」

「任せとけ!!」


 僕が言う前に、ベントットは地面に手をついて【地形操作】をしてくれていた。

 立ち上がる土壁が恐兵を足止めする。


 僕たちには恐兵に対する絶対的な対策があった。

 

 それは――僕が恐兵の群れに突撃して眠らせること


 別に自己犠牲などでは無い。

 それが一番簡単な攻略法なのだ。


 何故なら、奴らは僕を……いや、ヒュムを攻撃しないのだ。


 気がついたのは古城の周囲を見回っていたときのことだ。

 僕たちは恐兵と鉢合わせになった。

 しかし、奴らは僕とシャルティを無視してダイサツに襲い掛かった。


 そのとき、眠らせた恐兵を捕らえて城へ連れて帰ったが、やはり結果は同じだった。


 ()()()()()()()()()()()


 おそらく、「ヒュム以外の全てを殺せ」と命令されている。


 よく考えてみればとても合理的だ。


 自分達は襲われる心配がない。

 純血派の理念である他人種の殲滅も出来る。

 なにより、恐兵が同士討ちすることを防げる。


 恐兵が全て無力化されたことを知り、ファニーとトーベンが近づいてきた。



「あの『邪神のねぐら』から、よくぞ無事で戻ったものだ。妾はてっきり……」

「コホン。陛下。その話はあとで宜しいかと」

「おお。そうじゃったな。エヴァルト殿。エルフの森を救って頂き感謝する」

「いえ、お気になさらないでください。あれは我々の、トリスワーズの全てが相対している災厄ですので」


 そう伝えた瞬間、ファニ―が大きく身を乗り出した。


「お主たちはあれを知っておるのか? あれはいったいなんじゃ!?」

「詳しくは我々も……。しかし元凶は間違いなくヴィスタネル王家」

「なぜ、そう言いきれる?」


 ファニーとの問いは最もだ。

 僕たちは知る限りのことを彼女に話した。


 ヴァルデマルが純血派であること。

 ゲインが王城の地下で見た実験のこと。

 恐兵が決してヒュムを襲わないこと。


 そして、これだけ大人数のヒュムを恐兵へと変えられるのは、王都を支配しているヴィスタネル王家以外に考えられないこと。


 ファニーは話を聞いている間ずっと、ガクガクと小刻みに震えていた。

 

「なぜじゃ……。なぜ、そのような恐ろしいことが出来るのじゃ?」

「だから、僕たちが止めるのです」

「どうやって!? 相手は万にも届く大軍なのじゃろう?」

「そのために僕たちはここに来ました」


 ファニーに神器、8つの宝珠を見せる。


「なんじゃ、これは……?」

「陛下のご先祖から託された『神器』です。これがあれば、トリスワーズを救うことができます」

「妾の……ご先祖様が……?」

「はい。僕たちに希望を繋いでくれたのです」


 ファニーは戸惑い、トーベンの顔を窺う。

 しかしトーベンも、なにも知らない、と首を振った。


「妾たちが知らぬ先祖のことを、そなたたちは知っているという。妾たちが勝てなかった敵を、そなたたちは易々と制してみせた。妾たちが呪われた禁足地とした場所から、そなたたちは平然とした顔で戻ってくる。これも導きなのやもしれぬな」


 ファニーは大仰に頷いた。



※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 王都へ! 潜入だ!!

 なんだかとても懐かしい気がする。

 次回、あにコロ『episode72 潜入作戦』

 ちょっとだけでも読んでみて!

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