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episode70 守り人よ

(三人称視点)


 ――約300年前


 当代のエルフの王はガルフといった。

 先々代の王が神器を預かってから、幾度となく起こる盗難騒ぎ。


 幸運なことにガルフの代まで神器を失うことはなかったが、ガルフはこの神器の扱いに頭を抱えていた。

 これから先、我が子、我が孫の代まで王家がびとの十字架を背負い続けていくことに限界を感じていた。


 このまま続けていては、いつかこの神器を失うときがくるだろう。

 それはこのトリスワーズの切り札を失うということであり、悪しき心を持つ者の手に渡ればトリスワーズに新たな危機を呼び起こす恐れさえある。


 そしてあるとき、ガルフは妙案を思いつく。

 それが『邪神のねぐら』という禁域をでっち上げることだった。


 ガルフは信のおける男女の精鋭50名を選出し、自分と共に死んで欲しいと頭を下げた。

 精鋭たちはひとりとして欠けることなく、王にその命を捧げることを誓った。


 彼らは自作自演で『邪神のねぐら』を捜索する。

 もちろん怪しいものなど何もない。


 ガルフはそこに守り人の村を作った。

 彼らは心を殺して、自分達を捜索にきた兵士を討ち取り丁寧に埋葬した。


 秘密を共有する存在を、これ以上増やすことは出来なかった。

 


 やがて『邪神のねぐら』は禁足地としての立場を確立することになる。


 ガルフが倒れて後も、村は守り人としての使命を全うした。

 子を産み、守り人として育て、ただ使命のために準じる一族がここに生まれた。

 

 外界との接触を遮断したことで多くの危険を伴った。

 ときには流行病で幾人ものの仲間が死んだ。

 ときには飢饉で幾人ものの仲間が死んだ。

 近親婚が続いたことで代を重ねるごとに一族の寿命は短くなった。


 それでも彼らは使命に準じて生きてきた。

 ユベルはこの一族の末裔であり、最後の守り人となる。


      ★


(エヴァルト視点)


「こちらで、少々お待ちください」


 ユベルから案内された場所はどう見ても墓地だった。

 木製の墓標が数えきれないほど並んでいる。


 その中でも、一際ひときわボロボロになった墓標の前で、ユベルはひざまずいた。


「我が祖、ガルフよ。ついに我らの悲願が果たされます」


 ガルフ。

 それがこの墓標の主であり、『邪神のねぐら』を作り出したエルフの王であることを知った。


 僕たちもユベルに倣い、墓標の前にひざまずいてガルフ王の偉業を心から称える。


 ユベルはそんな僕たちの姿をチラリと見て、薄く微笑んだ。

 

「パパ!」


 両手を組んで祈りを捧げるユベルの元に、5歳くらいの子供が駆け寄ってきた。


「イスト。ダメじゃないか。家に居るようにと言っただろう?」

「だって! ひとりは怖いの」

「パパには大事な用事があるんだ。帰って大人しくしていなさい」


 ユベルが諫めるが、イストと呼ばれた子供は彼の足にしがみついて離れようとはしない。

 幼い子供をひとりで家に居させるのにも、その原因が僕たちであることにも、少しばかり心が痛む。


「……一緒じゃ、ダメですか?」

「イストちゃんも一緒の方が嬉しいんじゃないかしら?」

「モカはぁ、イストちゃんと一緒がぁ、いいですぅ♪」


 女性陣の援護に、イストは瞳をキラキラとさせながら父親の反応を伺っている。

 ユベルはため息を吐いて苦笑いだ。


「皆さんが良いと仰るのであれば。イスト、ちゃんといい子にしているんですよ」

「はい!」


 イストの元気の良い返事に、僕たちも顔がほころんだ。

 僕たちはユベルとイストに連れられて、さらに森の奥へと進む。


 そこには大きな樹があった。

 森の隙間から差し込んでくる陽が、樹の枝よりも下の部分しか照らせていない。


 いったい何年生きれば、これほどの大樹となるのか。


「この木の中に神器はあります」


 えーーっと、どこ?

 木のうろだろうか。

 それとも、この木を登って頂上まで行くとか?


「……なので、この木を燃やします」

「なるほど……燃や……え!?」


 一度入れたら割らないと取り出せない貯金箱的な構造なの?


 こちらの動揺などお構いなしに、ユベルは大樹に手を当ててスキルを発動する。


 ――瞬炎


 まさに一瞬だった。

 手を当てている部分から徐々に燃える、みたいな情景を想像していたのだけど全然違った。

 秒で大樹が火柱に包まれた。


「我が一族では炎の属性型スキルを持たないと守り人にはなれません。そのため、炎の属性型スキルを持つ男女が近親婚を繰り返してきました」


 大樹がパチパチと音を立てて爆ぜる。


「しかし守り人の一族も、もう私とこの子しかいません。近親婚を繰り返した我々の寿命は非常に短い。私の命もそう長くは持たないでしょう。全てが限界にきていたのです。あなた達が間に合って本当に良かった。亡きガルフ王もきっと喜んでいることでしょう」


 火の粉がチラチラと光りながら舞い落ちる。


「……なによりイストに、我が子に守り人の責務を負わせずにすんで本当に良かった」


 ――ズズゥゥゥン

 大きな音を立てて大樹が崩れ落ちた。


 ユベルがパチンと指を鳴らすと、大樹を包んでいた炎が瞬く間に消えた。

 燃え落ちた大樹の中から、現れたの8つの珠。


 ユベルはこの珠の持つ力について丁寧に教えてくれた。


 結論から言うと、珠の力を解放するために、僕たちは王城へと潜入する必要があることが分かった。



 僕は、あの夜に脱出した城へ、もう一度戻ることになる。



もし「面白そう!」「期待できる!」って思ったら、広告下からブックマークと★を入れてくださいませ。★の数はいくつでも結構です。それだけで作者の気分とランキングが上がります٩(๑`^´๑)۶

―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 最終決戦も目の前。

 もう少しだけお付き合いください。

 次回、あにコロ『episode71 恐兵侵攻』

 ちょっとだけでも読んでみて!

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