episode07 包囲捜索
(ナホロス視点)
「我が従兄弟、ナホロス。そなたに、国王陛下を弑逆した大罪人であるエヴァルト捜索の任を与える」
「はっ。このナホロスめにお任せください。必ずやヴァルデマル殿下の前に大罪人エヴァルトを引っ張って参るのである」
朝早くから緊急招集だと王城に呼び出され、そのままゼロスキルの無能を捜索に行く羽目になってしまったのである。
王族であるエヴァルトと、将軍の娘であるシャルティの顔を知っている者は限られる。その中でも年齢が近い親族である、という理由で小生に白羽の矢が立ったのである。
ちなみに小生、エヴァルトより2歳年上なのである。
だとしても、だとしてもである!
王族の一員である小生が、人捜しなどという雑事をやらされるなど屈辱の極みである。
「全ては彼の大罪人、エヴァルトのせいである!!」
「まさに、まさに、おっしゃる通りでございます。ナホロス様」
小生は、執事のセバスサンと40名の私兵を連れて王都を出発した。
「ところで、ナホロス様。王都の街中は調べなくて良いのですか?」
「むほほほほほ。心配は無用である。王都は、住民票や滞在票を持たない者を全て、例外なく捕らえるように命令してある。面通しは帰ってからやればよいのである。いい機会だから不法滞在者も掃除するのである」
「ははあ! さすがはナホロス様でございます!」
セバスサンが感激のあまり涙している。小生のような容姿端麗で頭脳明晰な王族に仕えることが出来て、セバスサンは本当に幸せものである。
「それにしても、この人相書きはヒドい出来である」
「はっ。左様で。彼の大罪人めは王族であるため、顔を知るものが少なく。王女殿下が手ずから人相書きを描かれたとか」
なんだと!? そういうことは早く言ってくれないと困る!
もしも、小生が人相書きを「ヒドい出来である」と言ったことが、王女殿下の耳に入ったら……。
想像するだけでも恐ろしいのである。
「……セバスサン、貴様! 王女殿下の描かれた人相書きに、ヒドい出来、などと不敬である!」
「はっ、ははっ! 大変失礼をば! 私、ひどく良い出来、と申し上げたつもりが、噛んでしまったようで!」
なるほど、さすがは小生の執事セバスサン。逃げ方が上手である。
ここはセバスサンに乗っかって、王女殿下の人相書きを褒めちぎっておくのである。
「そうか! ひどく良い出来、であるか。そうであろう、そうであろう。王女殿下の人相書きはエヴァルトとシャルティにそっくりである。特にこの悪人面など、最高に似ているのである」
「まさに、まさに、おっしゃる通りでございます。ナホロス様」
「して、このあたりで人が集まっている村というのはどこであるか?」
小生は大戦後の生まれであるため、王都を出たことがほとんどない。
王都の近くに村というものがある、とは聞いたことがあるが、実際に訪れるのは今日が初めてである。
「ははっ。こちらでございますれば!」
セバスサンが示す方角には、おおよそ人間が住む用途とは思えない粗末な建物が20軒ほど集まっていた。奥には森が見える。
「このような場所に、本当に人が集まっているのであるか?」
「ははっ。そのようでございます」
「では、兵士5名を残して、あとはこの場所を包囲するのである。」
「ははっ。村を出たいと申す者はいかがいたしましょう?」
「言うまでもないのである」
5分後には村の包囲が完了した。
あとは村にいる者を全員外に出して、エヴァルトを探すだけの簡単な仕事である。
「あのー、まだかかりますかね。私、大事な用事があって外に出たいのですが」
商人らしいヒュムの男が小生に話しかけてきた。
身の程知らずも大概にして欲しいのである。
「セバスサン」
「ははっ」
セバスサンの剣で男の頭が宙に舞い、首から勢いよく血が噴き出した。
「さすがはセバスサン。良いウデである」
「恐縮です!」
別に小生は好きで民を殺しているわけではない。
しかし、身分を弁えない愚か者が増えると、風紀が乱れてしまうのである。
小生は心が広いので、無知な民にも理解できるように教えてやるのである。
「ここにいる者にもう一度伝える。村は王国軍が包囲したのである。用が済むまで誰も外には出さないのである。余計なことを言うと、こいつのように頭と胴が離れることになるのである」
村人たちの畏敬の視線を感じるのである。
「この店にいる者も全員、外に出よ」
兵士達が、寂れた食堂にいた者達を連れ出した。
エプロンをつけたヒュムの女、こいつは店主である。
40代くらいのヒュムの男、こいつは歳が違うのである。
年齢不詳のホビトの男、こいつは人種が違うである。
旅人の格好をした10代くらいのヒュムの男女。
「そこの二人、こっちへ来るのである」
二人がおずおずと小生の方で近づいてくる。小生ほどの王族となるとオーラが強すぎて畏まってしまうのも仕方ないのである。
「フードを外して、顔を上げるのである」
エヴァルトは赤茶色の髪に深緑色の瞳。シャルティは黒髪に琥珀色の瞳。
たまにしか会わないヤツの容姿など、それくらいしか覚えていない。
だが、目の前にいる男女は全く別人である。
髪の色も瞳の色も全然違うのである。
「もうよいのである。戻れ」
その後も村の中を回ったが、そもそも10代の男女がほとんどいなかった。
ゼロスキルの無能なエヴァルトのことだから、きっと王都から出られなくて、今頃捕まっているに決まっているのである。
「セバスサン。もう全部見たのである。やはり大罪人はまだ王都にいるのである」
「ははっ!まさに、まさに、おっしゃる通りでございます。ナホロス様」
今日は疲れたから、早く王都に帰って一杯やりたい。
不法滞在者の確認は明日にするのである。
焦らなくても、小生にかかれば、あんな無能はすぐに捕まえられるのである。
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※読まなくてもいいオマケです。
トリスワーズ国 Tips <各人種の特徴③ ドワフとコボル>
☆ドワフ
ずんぐりむっくりの体型で丸鼻が外見的特徴の種。険しい山に住み、鍛冶や彫金などの技術を駆使した高品質な製品を生産している。エルフと異なり、交易というかたちで外部との交流にも積極的。
スキルは「創造型」と呼ばれ、無から有形物を生み出す能力であることが特徴。
☆コボル
やや小柄な体型で、耳が様々な動物の耳であることが特徴の種。平地に集まって集落を形成し、主に狩りをして暮らしている。他の種よりやや五感が鋭い傾向にあるが、身体能力的なものであり、スキルは関係ない。
スキルは「変身型」と呼ばれ、鳥や獣などに変身する能力であることが特徴。
★次回予告★
小生が王族イチ容姿端麗で、王族イチ頭脳明晰なナホロスである。
今回は空振りだったが、絶対に無能のエヴァルトを捕まえるのである。
懐の広い小生は、シャルティを側室にしてやってもいいと思っているのである。
次回、あにコロ『episode08 惑わす力』
もちろん、読むのである。
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