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episode67 不意打ち


「……本当に、宴会だわ」

「すっごくぅ、美味しそうな料理だよぉ」

「エルフの森なら、動物も川魚も獲り放題だからな」


 エルフの森にはシトロプ山脈から清流が流れ込んでいる。

 きれいな水は生命を育む。

 

 いま僕たちの前には、森と清流の恵みがところ狭しと並んでいる。


「どうじゃ? すごい御馳走じゃろう? 森も、川も、山も、我々を囲んでいる全てが、我々に恵をくれるのじゃ」


 ファニーはドヤ顔でそう言った。

 どんなドヤ顔をされても、こちらの混乱はまだ収まっていないというか。

 さっきまで囚われの身だったのに、なぜ急に宴の席に連れてこられているのか、まったく理解が追いついていないので御馳走に驚けるような精神状態ではない。


「すごい……んだけど、え? どういうこと?」

「エルフの古い言い伝えなのじゃ」


 そう言うとファニーはドヤ顔のまま「どうだ、すごかろう」と言わんばかりに胸を張っている。

 胸を張るならせめて、言い伝えがどんな内容なのかくらいは教えてくれ。


「えーっと。どんな言い伝えが?」

「うむ。この森にエルフ以外の人種が来たら追い払え。ただしエルフ以外の人種が全て揃っていたら歓待せよ、という言い伝えじゃ。何百年も前の言い伝えを、エルフは絶やすことなく伝え続けているのじゃ」


 そう言うと、ファニーは改めてドヤ顔で胸を張った。


 ドヤ顔は鼻につくが、確かにすごいことだ。

 ドワフの口伝もそうだが、人から人へ何世代も受け継いでいくことは並大抵のことではない。


 そして、この言い伝えの存在によって僕の期待が高まったことは言うまでもない。


 わざわざ「エルフ以外の人種が全て揃っていたら歓待せよ」などという言い伝えを遺しているということは、神器の守り手としての責務も伝わっているはずだ。とても幸先が良い。


 ……あれ? 待って、待って。

 歓待? 歓待って言った?

 歓待って、相手をおもてなしすることだよね。

 この宴はたしかにおもてなしだと思うけど、その前が問題だよ。


 僕たち襲われて、捕まって、縛られて、閉じ込められてたよね?

 エルフにとっての『歓待』ってなに?


 ダメだ、ダメだ。

 混乱からの安心で、次は怒りが込み上げてきている。

 一度、落ち着いて、深呼吸して、オブラートに包んでいこう。

 

「あー、ちなみに……森で襲われたのは?」

「あれは仕方なかったのじゃ。パッと見ただけでエルフ以外の人種が全て揃っているか分からんからな。『エルフ以外の人種が来たら追い払え』を優先した兵士に罪は無い。むしろ途中で、もしかしたら揃ってるかもと気づいて捕縛に切り替えた機転を褒めてやりたいくらいじゃ」


 なんか釈然としないけど、言っていることのスジは通っている。

 歩いているときにエルフのひとりが人種の確認をしていたのはそういうことか。

 ちゃんと確認出来たから歓待モードに切り替えたわけだな。


 待て待て。

 危うく納得しそうだった。


「手を縛ったまま小屋に閉じ込められていたのは?」

「さぷらいずじゃ」

「……不意打ち(さぷらいず)。……なるほど?」

「じゃ!! 妾のアイデアなのじゃ! ドキドキしたじゃろう!?」


 いらねーーーッ!!!

 捕まっていたと思ったら大歓迎!! とかいらねぇから!!

 と叫びたくて仕方なかったけど、隣で無邪気にニコニコしているファニーを見てグッと堪える。


 ここでサプライズを否定したらファニーの機嫌を損ねてしまいかねない。

 折角の宴会を前に、トラブルを起こすのは避けたい。


「……ハイ。トテモオドロキマシタ」

「そうじゃろう。そうじゃろう!! む、そろそろ時間じゃな」


 満足顔のファニーが立ち上がると、コップを持って立ち上がった。


「皆の者。古より伝えられてきたとおり、ここに8つの種族が全て集まった。我らはこの出逢いを森に感謝し、川に感謝し、山に感謝して、盃をかわす」

「「「「オオオオオオオォォォォォォォォ!!!!」」」」


 大きな歓声と共に宴は始まった。


 ――待て待て待て待て。

 宴の始まりの挨拶を君がやるの?

 この場で一番偉いのって、もしかしてファニーなの?


 ここに来てから驚きの連続で、僕の頭はオーバーヒートしそうだ。


「ファニー……さん?」


 ファニーの名前を呼んだ瞬間、背中から殺気に似た視線を感じた。

 慌てて振り向くが、護衛とおぼしきエルフが立っているだけだ。



「なんじゃ、ファニーで良いぞ。そういえばお主の名を聞いておらんかったな」

「あ、エヴァルトです。ところで、エルフの王はどちらに?」

「なにを言っておる。ここにおるではないか」

「えーっと、きみが?」

「妾が」

「おうじょ?」

おうじゃ」



 そういうことかあああああ!!!!

 めっちゃ若いし、女の子だしで女王という選択肢が抜けていた。


 ヴィスタネル王家の女子だって王位継承権はある。

 実際に王位に就いた女性はいないけど、理論上はなれることになっている。


 さっきサプライズを全否定しなくて良かった。本当に。

 しかし、王と言うことであればまずは聞かなくてはならない。


「ファニー陛下」

「ファニーで良いぞ」


 いや、そうはいかんだろう。

 王の威厳というやつを考えて欲しい。

 ほら、さっき感じた殺気も、後ろに立ってるエルフさんの目がちょっと怖いのも、そういうことだよ。


「いえ、ファニー陛下で。我々が今日、この森を訪れたのは神器の話をするためです」

「ほほぉ、神器ときたか……。なるほどのぉ。…………で、神器とはなんじゃ?」


 んんんんんんんんんんんんん?


※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、さぷらいずエヴァルトです。

 これはあれだ。手段が目的になったやつだ。

 本当の目的は伝わらなかったか……。

 次回、あにコロ『episode68 フル回転』

 ちょっとだけでも読んでみて!

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