episode66 囚われて
「おまえは、ヒュムか? ハピラか?」
「ハピラよ、悪い?」
「……次、おまえは……ドワフだな?」
「そうじゃ」
「おまえは……いいや」
「俺は小さいからどっからどう見てもホビトだからなって、失礼な野郎だな」
エルフのひとりが、歩きながら僕たちに人種を聞いて回る。
僕たちはアヴェールの古城を朝に出発して、昼過ぎにはエルフの森に着いた。
そして森に足を踏み入れた瞬間、矢は飛んでくるし、水の塊を落とされてびしょ濡れになるし、強風で吹き飛ばされそうになるし(おかげで少し乾いたけど)で散々な目に遭った。
いや本当に「説明すれば、エルフにも理解してもらえるかもしれない。いや、きっと理解してもらえる」とか思っていた自分の横っ面にビンタしたい。
これまでなんだかんだ言ってもいきなり襲われるようなことは無かったから油断していた。
エルフの排他主義は筋金入りでした。
8人でスキルを使えば抵抗できたとは思うけど、目的はエルフが守っている神器だし、その神器を使うためにはエルフの協力も必要なわけで、エルフと敵対関係になっていては目的達成は夢のまた夢となってしまう。
今のところは彼らも命を奪うまでの行動に出ていないので、僕たちは抵抗せずに捕まることにした。
そういうわけで、いまは8人そろって両手を後ろに縛られてどこかに連行されている。
目隠しはされていないけど、森の景色は360度どこを見ても変わらないし、グルグル歩かされているから方角も分からない。
今から森を脱出せよ、と言われても迷う自信がある。
「ここで待っていろ」
エルフ達はそう言って、僕たちを粗末な小屋に誘導していなくなった。
手はもちろん縛られたままだし、きっと小屋にも外から閂が掛けられているのだろう。
「あうぅ。モカはぁ、ひどいめに遭ったよぉ」
「我がひと暴れすレバ、あんなやつらに負けはしナイ」
「……勝っても、こまる。……神器、手に入らない」
「そう言っても、よ。私たちはいつまでここで待っていればいいのかしら?」
「まぁ、殺されなかったということは対話の機会があるということじゃろう。気長に待つしかあるまいよ」
「おいおい、モンセノーのじいさん。気長に待ってたら城が恐兵に落とされしまうかもしんねぇぞ」
「はっはっは。それもそうだ。もしかしたら1ヵ月くらいこのままだったりしてな」
「そりゃ困る! あの城はワシの自信作じゃぞ!!」
「いや、城より住んでる人を心配しようよ……」
「人は逃げればいいじゃろうが!! 城は逃げられんのじゃああぁぁ」
8人もいると収拾がつかないな。
特にモンセノーの発狂っぷりがひどい。
ジジイ、いい歳してんだからしっかりしてくれ。
その後もやんややんやと言い合いながら、小屋の中で時を過ごした。
小屋には採光用の窓があった。
やや高いところにあり、嵌め殺しになっているのがひと目で分かる。
別に割ろうというわけでは無く、そこから入ってくる光の量でなんとなく時間の経過がわかる、という話なのだが……日が沈んでしまった。
森に着いたのが昼過ぎだから、そろそろ5時間くらいは経過しただろうか。
お腹が減ってきたのか、ちょっとベントットがイライラしはじめた頃、なんだかドアの外が少し騒がしくなってきた。
耳を澄ましてみるとなにやら揉めているようだった。
「危険です、おやめください」
「うるさい、妾に逆らうのか?」
「いえ、そんなつもりは……。しかし危険です!」
「危険から妾を守るのがそなたらの仕事じゃ!!」
この小屋の造りが荒くて声が筒抜け、ということもあるが、まるっと聞き取れるくらい大声で騒いでいた。
――バタンッ
大きな音を立てて扉が開かれたかと思うと、どう高めに見積もっても10歳くらいの女の子が仁王立ちしていた。
「妾はファニー! お前たちがちんにゅうしゃか!!」
ファニ―と名乗る少女が侵入者と言いたいのか、闖入者で合っているのかは定かではないが、どちらでも意味は通じるな、うん。
そして言わせてもらうなら、僕たちは侵入者でも闖入者でもない。
「僕たちは話し合いに来ただけだ。この森を荒らすつもりも無ければ、別に森の外で話したって構わない」
「ふむ。ではなぜお前たちはこの森にいるのだ?」
「なぜって、いきなり襲ってきて拘束して、ここまで連れてきたのは君たちじゃないか……」
「妾はそんなことは知らん。しかし、森の奥まで来てしまった以上、覚悟はしてもらわねばならんな」
僕は覚悟という言葉にゴクリと唾を飲み込んだ。
ファニ―の大物感漂う雰囲気も相まって、小屋の中に緊張が走る。
大物感っていうか、絶対大物の娘だよね君って感じ?
見張りのエルフが少女のひとりも止めることが出来ずにオロオロしてるし、一人称が『妾』だし、服装も明らかにほかのエルフと違うし、もう8割方王女で間違いないと思う。
やはりここから先は命懸けということになるのか。
ほかの7人も一様に覚悟を決めた顔になる。
出来れば穏便にことを進めたかったが――向こうがそういうつもりなら仕方がない。
こちらも命まで奪われるわけにはいかないのだ。
好都合なことに、目の前にはおそらくこの国のお偉いさんの娘であろう少女がいる。あまり気は進まないがファニーを人質にして無理やりにでも交渉の場を作るしかない。
いつでも飛び掛かれる体勢に身構えたところで、ファニーはおもむろに口を開いた。
「宴じゃあああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
「「「「「「「「ええええぇぇぇぇ!!!???」」」」」」」」
★次回予告★
どうも、エルフに捕まったエヴァルトです。
まさかの展開。次回は宴会。
驚きすぎて韻を踏んじゃったよ。
次回、あにコロ『episode67 不意打ち』
ちょっとだけでも読んでみて!




