episode65 救国伝説
(モンセノーは語る)
最初に言っておくが、これはおとぎ話ではないぞ。
ドワフに伝わる口伝。受け継がれてきた記録じゃ。
ただ、もう300年以上前の話じゃからな……細かい情報は抜け落ちてしまっておるが、そこは諦めるのじゃ。
さて、30年前にも大きな戦争があったが、遡ってみればこのトリスワーズは何度も同じような戦争を繰り返しておる。
人種間の対立というのは、それくらい根深い問題なのじゃ。
ヒュムの隠語で、リザドをトカゲと呼んだり、コボルをケモノと呼んだりするじゃろう?
あれもな、別にヒュムが言い始めたわけじゃない。
数百年も前から、
リザドはトカゲ、
コボルはケモノ、
ドワフはダンゴ、
ホビトはミジンコ、
オルガはノウキン、
エルフはミミナガ、
ハピラはニワトリ、
そしてヒュムはムノウと、
互いに罵り合っておった名残りなのじゃ。
ヒュムがなんでムノウかって?
そりゃあ、他の人種と比べてスキルが地味じゃからじゃ。
そんなスキルは有っても無くても一緒、じゃから無能とバカにされておったんじゃよ。
そうして8つの種族は幾度となく戦い、勢力を争い、数多の血を流してきた。
しかし、じゃ。
あるとき、そんな8つの種族が手を結んだことがある。
魔王が降臨した、と伝わっておるが、魔王というのが南北のどちらかから入ってきた侵略者なのか、強力なスキルを持ったバランスブレイカーなのか、それは分からん。
分からんが、トリスワーズが窮地に陥ったのは事実じゃ。
そのとき、彼らが頼ったのが神器を呼ばれる道具。
神器を使うには8つの人種が力を合わせなくてはならない。
神器の力によって無事に魔王を退治した8つの人種は停戦協定を結び、ひとときではあるが戦の無い時代を作った。
そして、神器はエルフが森で厳重に管理することを約束した。
いかに強力な神器とはいえ、8つの人種が集まらなければ使えない。
だからエルフは、エルフ以外のいかなる人種も森への侵入を許さない、神器の管理者としての役目を今でも続けているのじゃ。
★
モンセノーが話し終わると、僕も含めてみんな目を丸くしていた。
ヒュムの間では謎に包まれていた『エルフが森を閉ざした理由』が、こんなにさらっと語られるとは思わなかった。
そしてヒュムの陰口が『無能』だったことは、ちょっと前まで『無能の第二王子』と呼ばれていた僕としては妙な気分だった。
ヒュムからすれば『無能の中の無能』とも言えるが、他の人種からすれば『無能などんぐりの背比べ』でしかない。
気にしていたのがバカらしくなってくるというか……。
「あいつら、ただ引きこもってたわけじゃなかったんだな」
みんなが言葉を失っている中で、ベントットがぽつりと呟いた。
その言葉は、その場にいるみんなの気持ちを代弁していたと思う。
モンセノーのおかげで神器があれば、恐兵をなんとか出来そうなことは分かった。
だが、そのためにはひとつ、大きな問題がある。
神器はエルフの森にあって、エルフは、エルフ以外のいかなる人種も森への侵入を許さない。
神器を手に入れるとか無理じゃね? 問題だ。
とはいえ、そこにしか希望が無いのなら。
「エルフの森に行って、頼み込んでみるしかないよね」
「そうじゃな。ワシも一緒に行ってやる。若いヤツだけじゃ話を聞いて貰えんかもしれんからな」
「……もちろん、私も」
「オレもついて行くぜ。つーか、8つの人種が集まらないと使えない神器なら、それぞれの代表がいた方がいいんじゃねぇか?」
確かに。ベントットは時々鋭い。
そもそもエルフが森を閉ざしているのは神器を守るためなのだ。
各人種の代表が集まって、恐兵を止めるために神器が必要だと説明すれば、エルフにも理解してもらえるかもしれない。いや、きっと理解してもらえる。
「じゃあ、オルガはダイサツとサラーマだね。コボルは……」
「モカがぁ、行くよぉ♪」
「モーカレラ!? お前をそんな危ないところにやるわけにはいかん。モカに行かせるくらいならワシが――」
「おじいちゃんはぁ、そろそろ孫離れした方がぁ、いいと思うのぉ。おじいちゃんはぁ、お城でお留守番しててねぇ」
「モ、モーカレラァァァ」
愛しい孫娘から孫離れを促され、涙目でこちらに助けを求めるマタリ長老を無視して、他の代表者を確認していく。
「ホビトはゲインでいい?」
「おう! 任せろ! ヴァルデマルの野郎に一泡吹かせられるなら、エルフに頭下げるくらいなんてことねぇぜ」
ゲインは、ドン! と胸を叩いてふんぞり返った。
「ハピラからは私が出るわ」
そういって手を挙げてくれたのは、シャルティの従姉妹であるルチアだ。
アヴェールの古城が王国軍と戦うことになった際、ハピラの仲間を連れて応援に来てくれたのだ。
いまも怪我人の治療に強力してくれている。
ルチアが同行することに、ほかのハピラからも異論は無いようだ。
かなり信頼されているのだろう。
「……ルチア、ありがとう」
「気にしないで。別にあなた達のためってわけじゃないんだし」
仲良しのモカに加えて、従姉妹まで一緒に来てくれることになって、シャルティも嬉しそうだ。
こうして僕とシャルティを含めて8人のメンバーでエルフの森を目指すことになった。目指すとは言ってもトリスワーズの南部にあるアヴェールの古城から最南端のエルフの森までは、歩いて半日かからない距離だ。
目的地が近場だと、旅支度もほとんど要らないから楽で良い。
意気揚々と出発した僕は、半日後、森の入り口でエルフ達に拘束された。
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※読まなくてもいいオマケです。
★次回予告★
どうも、エルフに捕まったエヴァルトです。
問答無用だった。なんの説明もさせて貰えなかった。
次回、あにコロ『episode66 囚われて』
ちょっとだけでも読んでみて!




