episode62 怒れる王
「おい、エヴァルト。お前のスキルで吐かせてくれ」
「う、うん。ノーズライグって地下で研究してるの?」
「その通りでございます。王が地下牢の一部をノーズライグに与えたと」
スキル【自白】の力でセバスサンが再び喋り出す。
そのまま、ゲインが訊きたいことを僕がスキルで自白させた。
「研究の内容をもっとくわしく教えて」
「詳しいことは分かりません。ただ、ノーズライグが陛下に謁見したところに立ち会っていた者の話では、火を吐くネズミを見て興奮されていたとか、研究の段階を進めるとか、”人”を送るように頼んだとか」
そこまで聞くと、ゲインは得心がいったような顔で再び舌打ちをした。
「チッ、そういうことか」
「ごめん、どういうこと?」
ゲインだけ納得されても困る。
「ああ、悪りぃな。あとでちゃんと話すからよ」
ナホロスとセバスサンからスキルを奪い、再び部屋へと閉じ込めた僕たちはゲインから詳しい話を聞かせて貰った。
ゲインの弟のロインが王国兵に捕まったこと。
ゲインは弟をひと目でも見ようと王城の地下に潜り込んだこと。
ロインが地下で――おそらくノーズライグに――実験体にされていたこと。
ロインに自我は無くノーズライグの命令に素直に従っていたこと。
ロインのものではないスキルを使っていたこと。
そのスキルで別の囚人らしき男を殺していたこと。
おそらく、この実験を見てしまったがために、ゲインは執拗に兵士から追われアヴェールの古城へと逃げ込むハメになったこと。
実験の全貌は見えないが、非常に危険な実験を行っていることは間違いないようだ。そして、おそらくその実験は戦争に利用される。
「王国軍を倒してハイ終わり、ってわけにはいかなそうだな」
僕はゲインの言葉に頷いた。
(三人称視点)
数日経って、討伐軍壊滅の報が王城へと届いた。
その日は王城の外も、中も、はげしい嵐が吹き荒れていた。
「これはいったいどういうことか!?」
「ひっ、ひいいいぃぃぃぃぃぃ!!!」
広間に響き渡るヴァルデマルの怒声と、兵士の悲鳴。
王の勘気に触れるのを恐れてか、嵐だから家を出たくなかったのか、広間には貴族や官吏の姿がほとんどなく、閑散としていた。
「ケモノやトカゲを駆除できなかったどころか、3000の兵が壊滅だと!? いったいなにがどうしたらこんなことになるのだ!! ザゴンネスは! ザゴンネス将軍はどこだ!?」
「ははっ。将軍の消息は不明です」
報告に駆けこんできた兵士は、元々、王城と討伐軍間の連絡役として随伴していた。
彼は、アヴェールの古城の近くの丘に布陣してすぐ、ザゴンネス将軍の命令で王城へ向かった。追加の糧食を手配するためだ。
無事に糧食を手配した彼は、補給隊を連れて意気揚々と自陣へと変える途中、ほうほうの体で逃げている兵士と遭遇して自軍が潰走したことを知ったのだった。
「あの役立たずがッ!!」
討伐軍の責任者であり、今回の大敗北の責を問われるべきザゴンネス将軍。
そこへ怒りをぶつけたいのに、当の本人が消息不明。
行き場を失った怒りの感情は、八つ当たりとなって目の前の兵士が被害を被ることとなる。
ヴァルデマルに蹴り飛ばされた兵士は、平伏した姿勢のまま広間から下がっていった。
「王ともあろうものが、そのような無様な姿を見せてはなりません」
「……母上」
豪華な衣装を身にまとい、しずしずと王座に近づいてきたのはマーレだ。
母であり、王太后であるマーレに諭され、ヴァルデマルは多少だが落ち着きを取り戻した。
「しかし3000もの兵を壊滅させられては。この王都もそろそろ危険です」
「そのような些事に慌てる必要はありません。王都にはまだまだ人がいるではありませんか」
「母上……。人はいても兵ではありませんから」
「兵にすれば良いのです。……ノーズライグ!」
そう言って、マーレはノーズライグを呼び出した。
出番を待っていたかのように颯爽と現れたノーズライグは、いつもの黒いローブ姿で恭しく平伏する。
「国王陛下と、王太后様に置かれましてはご機嫌麗しゅう――」
「そのような形式ばったものは良い。ノーズライグよ。例の実験は順調なのであろう?」
「もちろんでございます。王太后様」
「うむ、順調で何よりじゃ。となれば、やることはひとつではないか。ヴァルデマル?」
マーレの意を受けて、ヴァルデマルも彼女の考えを理解した。
ノーズライグが生み出した『従順に命令のみを遂行する兵士』のことを指しているに違いない。
たしかにあれを使えば、王都に人がいる限りいくらでも兵士を増やすことが出来る。命令に逆らうこともないし、恐怖で逃げ出すことも無い、量産型の殺りく兵器といったところだ。
「王都に住んでいる臣民を……無理やり兵士にせよ、と?」
「そうじゃ。なにか問題があるかの?」
「問題など! あろうはずがございません、流石は母上、情の欠片もないと感心していた次第でございます」
「なにを言う。全ては王族あっての臣民であろう? 王都に危機あらば臣民が身体を張って守ることなど当たり前ではないか」
「違いありませぬ。はっはっはっはっはっはっはっは」
ヴァルデマルの笑い声が広間に響き渡った。
その日から、王都の臣民が行方不明となる怪事件が頻発するようになる。
しかし、王都で生まれ王都で育った者達は、王都の外へ逃げるという選択肢を持たない。
ただただ事件が解決することを望み、怯える日々を過ごすこととなる。
※読まなくてもいいオマケです。
★次回予告★
どうも、エヴァルトです。
ヴァルデマルもマーレもひどいな。
こんなひどい話をひっぱったまま第二章は終わりです。
次回、あにコロ『episode63 二章閉幕』
ちょっとだけでも読んでみて!




