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episode60 攻城戦③

(三人称視点)


「わぁ♪ 坂道が兵隊さんでぇ、真っ青だぁ」


 レッドドラゴンに変化したモカが、パタパタと空中を浮遊していた。

 その四脚の爪はそれぞれに木樽を掴んでいる。


「この樽をぉ、ほいっとぉ」


 モカが空中から樽を放ると、重力に引かれて樽が落ちていく。

 

 落ちた先には、もちろん王国兵がひしめいている。

 樽が直撃した兵士は「ガッ」と悲鳴を上げるものの、樽は見事に割れて地面に落ちた。



「痛ってぇな……なんだコレ」

「おいおい、大丈夫か? つかお前濡れてるぞ?」

「ほんとだ、うわっクッセえ゛え゛え゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」



 戦場で液体が飛んでくれば、ほぼ間違いなく可燃性である。

 そこに火球が飛んでくれば、豪快に燃え上がる。

 古代から脈々と受け継がれる、戦争で大活躍の作戦『火計』の出来上がりだ。


 さらに火球が防御柵に当たると、柵から勢いよく火柱があがった。

 ここにも可燃性の液体を染み込ませてある。


「おかわりだよぉ♪」


 火に囲まれて混乱する王国軍の上に、さっきの樽を持ったモカが再び現れる。


「この樽をぉ、ほいっとぉ、ほいっとぉ♪」


 先ほどまで王国兵の防具の色で青く染まっていた坂道が、炎で真っ赤になっている。しかし逃げ出そうにも燃えている防御柵が邪魔で逃げ道が詰まってしまっていた。


 数百の兵士が焼け死に、数百の兵士が燃えたまま坂道を脱する。

 坂道に入ることが出来ず、手持無沙汰にアヴェールの古城を囲んでいた兵士達も、燃える友軍に驚いて川の方へと引き返していった。


「なんである? なんである!? どうして兵達が逃げ出すのであるか!? 貴様らちゃんと城を攻めるのである!!」


 やや後方にいたナホロスは、坂道で何が起こっているのか把握できないでいた。

 ただ前方から慌てて逃げ出してくる友軍を見て、ただ「攻めろ」と喚き散らす。


 しかしそれも、後方から逃げてくる背中の燃えた王国兵を見つけるまでのこと。


「ひ、ひえぇぇぇ!! 燃えているのである! 奴ら、自分の城を燃やしたのであるか? 蛮族どもは頭がおかしいのである!!」

「まさに、まさに! 頭のおかしい奴らに付き合う必要はございませぬぞ」


 ナホロスとセバスサンは慌てて馬を返し、川の方を向き直す。


「あれは……なんであるか?」


 そのとき、ナホロスの目に信じられない光景が飛び込んできた。

 多くの友軍が逃げた先、古城と本陣の間に流れていたはずの川が凍っていたのだ。

 ただ凍っているのではない。

 川に入った兵士も丸ごと氷漬けになっている。


 氷漬けになっている兵の数は……どう見ても500を下らない。

 2500いたはずの友軍は、いつの間に半分以下になっていた。


 その残りと兵士達も、凍った川を渡れずに立ち往生している。


(どういうことである!? どうしてこんなことになったのである!? いま敵が現れたら……)


「カッカッカッカ! お主、見た顔じゃのぉ」


 背後から声を掛けられてナホロスが振り向くと、二度と見たくない顔がそこにあった。


「き、貴様は! コボルの村の!!」


「カッカッカッカ! 誰じゃったかのぉ? まぁ、誰でも良いわ」


 ナホロスの目の前で、髭の長い年寄りのコボルが九つの首を持つ水蛇(ヒュドラ)へと姿を変えていく。


「ひっ! ひえええぇぇぇぇ」


「ナホロス様! ナホロスさまあぁぁぁぁぁ」


 そのまま意識を失ったナホロスは、落馬する前になんとかセバスサンに受け止められた。




 一方、ザゴンネス将軍がいる本陣も上を下への大騒ぎとなっていた。

 古城の方で火の手が上がったかと思えば、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した兵士達が川で氷漬けになったのだ。

 これを全ての当たりにした兵士達の恐怖は想像に難くない。


 元々、戦争経験も無い兵士達を集めた練度の低い部隊であったことに加え、敵の3倍以上の大軍による逆賊討伐という圧倒的優位な立場での開戦だった。

 それが、ものの見事に劣勢に立たされている。


「聞いてた話と違うじゃないか」

「こんなところで死ねねぇよ」

「お、俺、兵士やめます!」


 そんなことを言い残して戦線から離脱していく兵士達。

 もはや王国軍は一切の統率が取れておらず、軍とは呼べない状態に陥っていた。


「ザゴンネス将軍、これはもう……」

「うむ。向こうの方が上手であったと認めるしかあるまい」


 軍の大将であるザゴンネス将軍も、わずかな供回りだけを連れて戦線を離脱。

 ここに勝敗は決した。


 王国の討伐軍が陣を敷いてから、わずか1週間程度の出来事である。

 当初、ザゴンネス将軍が王都に要請していた食料はいまだ到着していない。


      ★


 「将軍、ここで夜を明かしましょう」


 アヴェールの古城から馬で半日。

 敗戦の将となったザゴンネス将軍は王都へ向かう山中にいた。


 空には雲もなく、月明かりが地面を照らしている。

 部下たちが野営の準備をしている間に、ザゴンネス将軍は葉巻を取り出して火をつけた。


「…………、ふぅ」


(3000もの兵を預かったというのに、この体たらく。ヴァルデマル陛下に合わせる顔がないわ)


 ――カサリ


「誰だ!?」


 音がしただけではない。ザゴンネス将軍は何者かが近づいてくる気配を確かに感じた。

 しかし、あたりを見回しても怪しい人影はもちろん、動物の影すら見当たらない。


「どこにいる!?」


 誰もいないところで、ひとり警戒態勢を取っているザゴンネス将軍を、部下の兵士が不思議そうに見ていた。


「将軍、どうされました!?」


 兵士は剣を抜いて、将軍の元に駆け寄った。


「気をつけろ! 何者かがガフッ……き、さま」


 ザゴンネス将軍の胸に、深々と突き刺さった剣。

 突き刺した張本人である兵士が、なぜ、という顔をしている。


 騒ぎに気づいた他の部下たちも駆け寄ってくる。


「将軍!? 貴様! なにをしている!? まさか敵のスパイ――」


「違う……違うんだ。俺は将軍を守ろうとして……あれ? なんで将軍が刺されて?」


 将軍を刺した兵士を斬ろうと、別の兵士が腰から剣を抜いた。


 兵士の剣は大きく弧を描き――()()()()()()()()()()()()()()()()()()


もし「面白そう!」「期待できる!」って思ったら、広告下からブックマークと★を入れてくださいませ。★の数はいくつでも結構です。それだけで作者の気分とランキングが上がります٩(๑`^´๑)۶

―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 アヴェールの古城はちょっと燃えたけど大丈夫。

 居住区は正門と反対側に作ってあるしね。

 防衛設備は作り直しになるけど、それくらいはね。 

 次回、あにコロ『episode61 唄う虜囚』

 ちょっとだけでも読んでみて!

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