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episode06 人相書き


 抜け穴の先は王都から少し離れた森へと続いていた。

 シャルティは、前もってこの辺りを下調べしていたようで、迷うことなく近くの農村まで僕を案内してくれた。



「……殿下、ここ」



 シャルティが指をさした先には、小さな小屋があった。



「……今日の、寝床」

「本当にここ?」



 マジかぁ。ずっと王城で暮らしていた僕には、ちょっと刺激が強すぎる場所だ。


 ここで、寝るのか。寝られる気がしないんだけど。



「……贅沢、敵」



 仕方ない。これ以上ゴネても何も出てこなそうだ。


 小屋の中に入ると、ハンドメイドのような机と椅子、ワードローブが一台。そして、粗末な寝床が一つ。



「寝床が一つしかないんだけど」

「……殿下、寝て。……私、床でいい」

「いや、シャルティが寝ていいよ。夜明けはもうすぐだし、僕は……多分、寝れそうにない。シャルティにしっかり休んでもらった方が合理的だ。」



 いつも無表情なシャルティが少しだけ困惑した顔になっていた。


 僕は寝床を使わないことを示すため、壁に背を預け、床に座り込む。



「……わかった、また明日」



 シャルティは観念したのか、おずおずと寝床に転がった。

 僕は満足して天井を見上げる。なんて低い天井だろう。


 今日は色々なことがいっぺんに起こった。

 父である国王が殺され、兄に殺されかけ、グロン将軍とシャルティに救われた。


 今は王都を抜け出して、農村の外れにある粗末な小屋で一夜を過ごそうとしている。


 昨日までとは何もかもが変わってしまった。


 スゥ、スゥ、スゥ。

 隣から寝息が聞こえてきた。


 年下の幼馴染、シャルティ。彼女にとっても今日は大変な一日だったはずだ。



「……父さま、死なないで」



 シャルティの方を見ると、涙が彼女の黒髪を濡らしていた。


 しかし、またすぐに寝息を立て始める。


 母を強盗に殺され、父は生死不明。

 いや、十中八九、殺されているだろう。


 あの状況でヴァルデマルがグロン将軍を生かしておくはずがない。



「こんなゼロスキルの、無能な第二王子なんかを守るために。ごめんね、シャルティ」



 謝っても意味が無いことは分かっている。

 直接伝えても、ただシャルティを困らせるだけだろう。


 これは自分のための謝罪だ。罪悪感を少しでも軽くするための。

 

 外から朝陽が差し込んできた。


 悪夢のような一日が終わった。これからは地獄の果てまで追われる身だ。


     ★


「おい、王都で大事件だぞ!」



 座ったままで、少しウトウトしていた。なんだか外が騒がしい。


 シャルティはまだ寝ているようだ。

 小屋の扉に耳を当てて、外の話に聞き耳を立てる。



「なんだなんだ? 藪から棒に。どんな事件が起こったって?」

「それがよ、国王様が殺されたらしい。犯人は、無能な第二王子って話だ」

「本当か!? そりゃ大事件だ。それで、どうなったんだ?」

「現場に居合わせた第一王子のヴァルデマル様が、共犯のグロン将軍を捕らえて斬首したってよ」



 グロン将軍が斬首……。

 覚悟はしていたがショックは大きい。



「グロン将軍が!? あの人が共犯とはねぇ。それで第二王子は?」

「第二王子は将軍の娘と一緒に逃げたってよ。賞金首だって配られてた、二人の人相書きがこれよ」

「はあ、二人とも悪そうな顔してやがるな。もしかしたら、この辺に逃げてきてるかもな」

「おうよ、見つけたら報奨金で一攫千金だぜ」



 ヴァルデマルのヤツめ。なんて手回しの良い。

 村中がこんな状況じゃ、こっそり抜け出すのも厳しい。



「……普通に、してていい」



 いつの間に起きたのか。すぐ後ろにシャルティがいた。



「……人相書き、だいたい似てない」



 そういえばさっきの男も「悪そうな顔」とか言ってたな。

 僕はさておき、無表情なシャルティを悪そうな顔に描いたら、もう別人だ。



「……これ、着替えて」



 小屋の中に用意してあったのだろう、くたびれた服とボロボロの外套(がいとう)を渡された。


 なんか旅人の服って感じだ。


 僕たちは、人がいないタイミングを見計らって小屋を出た。


 森から迷い込んだ旅人になりきる。


 本心を言えば、このまま村を出たいところだが、旅人らしく少し休憩している様子くらいは見せた方が怪しまれないだろう。


 あと、お腹減ったし。


 ここは王都近郊の農村ということもあり、王都に入る手続きで待たされている商人達が利用する、酒場や食堂が多少ある。


 朝から酒場で飲む旅人、などという悪目立ちはしたくないので、人があまり入っていない食堂を選んで食事をすることにした。


 火が通りすぎたスクランブルエッグ、茹でたウインナー、堅いバゲット。


 おおよそ料理とは言い難い食事が出てきた。

 僕の方がもう少しマシな料理を作れるのではないかと思う。作ったことないけど。


 お腹が減っていたはずなのに、驚くほど食欲が湧かない。



「……食べなきゃ、ダメ」



 そう言うシャルティも、ほとんど手を付けてないじゃないか。


 どう始末しようか、と考えあぐねていると、外がにわかに騒がしくなった。



「おい! 王国の兵士がきたぞ!」

「国王殺しの第二王子を探しに来たってよ」



 僕とシャルティは顔を見合わせた。

 想定より相手の動きが早い。


 しかし、ここで慌てて飛び出せば、それこそ怪しまれてしまう。



「やあやあ、お困りかい?」



 どうすべきか、と動きあぐねていると、突然、見知らぬ小さな男が隣に座ってきた。



「なんだ、お兄ちゃん。ホビトを見るのは初めてか? まあ、そんなことはどうでもいい。金さえあれば飛ぶ鳥も落ちる、ってね。貰えるもんさえ貰えれば、あんたの窮地を救ってやるぜ」




 ホビトの男は、そう言うとニヤリと笑った。

―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


トリスワーズ国 Tips <各人種の特徴② ホビトとリザド>


☆ホビト

 ヒュムの半分程度の身長で東部が大きく、三~四頭身くらいの外見が特徴の種。移動型民族で特定の場所に定住することは無い。部族単位のグループで動くため種族を統一するような長も存在せず、大戦においても部族によって参戦したり、しなかったりバラバラだった。

 スキルは「精神型」と呼ばれ、生物の脳や精神に作用する能力であることが特徴。


☆リザド

 細身でしなやかな筋肉を持ち、肩や膝に青い鱗がある種。水辺の近くを好んで集落を形成しているが、水が無くとも生存に問題は無い。他の種との交流も積極的。大戦においてはオルガ、コボル、ハピラの長と正式に手を組み、前線でヒュムと戦った。

 スキルは「操作型」と呼ばれ、物質、地形、天候など様々なものを動かす能力であることが特徴。


★次回予告★

 ピンチに次ぐピンチのエヴァルトです。

 本物のホビト初めてなんだよね。あ、本では見たことあるよ。

 次はちょっと年上の従弟が出てくるんだけど、僕、あいつ嫌いなんだよなぁ。

 次回、あにコロ『episode07 包囲捜索』

 ちょっとだけでも読んでみて!

―――――――――――――――――――――――――

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