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episode59 攻城戦②

(三人称視点)


 男は王国軍の兵士だ。

 男のスキルは【超嗅覚】というパッシブスキルで、つまりとても鼻が良い。


 川の向こう側から漂ってくる焼けた肉の匂いはもちろん、ビールの香ばしい麦の香りも、果ては塩コショウの香りまで、まるで目の前に料理が並んでいるかのように感じ取ることができた。


 それ故に、匂いだけで食べることが出来ない状況は、まさに地獄であった。


「ああ、もう耐えられない。俺にも寄越せーー!!」


 男はひとり、川の向こうへと渡り出す。

 もちろん、それを見つけた他の兵士は彼を止めようと追いかけた。


「肉! 肉! にぐっ、がはっ」


 川の半ばまで渡ったところで、男は後ろに倒れる。

 その額には矢が刺さっていた。


「はっはっはっはっは! ナイスショットだ!」


 リザドかコボルか、それは分からない。

 自分達よりも下等な人種が、こともあろうかヒュムの兵士を矢で射抜いて笑っている。それも宴会の余興でも見るかのように。

 その事実は、我慢を重ねてきた王国軍の兵士達を暴走させた。


「殺す……絶対に殺す!! うおおおおぉぉぉぉ!!!!」


 王国軍は、敵のあからさまな挑発に乗ってしまった。

 大戦が終わってからの30余年、一方的な制圧ばかりで戦争経験の無い軍隊の弱さが露呈した瞬間であった。

 ザゴンネス将軍がどれだけ「下手な挑発に乗るな」と伝令を飛ばしたところで、一兵卒の端から端に至るまで完全に制御することは出来ない。



「なんである!? セバスサン! セバスサン!! 右翼が突撃しているのである!! 小生達も遅れてはならぬのである!!」

「なんと!! しかし本陣からはなにも……」

「きっと伝令が遅れているのである。ああっ、もう右翼は川の真ん中まで!! すぐに出陣るのである!!」

「まさに、まさに。ナホロス様のおっしゃる通りでございます! 皆の者、出撃するぞ!!」

「「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」



 右翼の突撃を見て、副将であるナホロス率いる中央もすぐさま突撃を開始した。

 当然、これを見た左翼も、中央に遅れてはならぬとばかりに兵を動かす。


 こうして本陣を固める500の兵以外、右翼800、左翼800、中央900、合わせて2500の兵が一斉に、アヴェールの古城へ向かって進軍することとなった。


     ★


「お、思ったより早かったな。もう1、2週間は覚悟してたぜ」


 王国軍が川を渡ってくる様子を見て、胸を躍らせているのは『煽り部隊』を指揮しているベントットだ。


「じゃ、みんな予定通りいくぞ」


 ベントットが川岸に両手を着く。


 ――地形操作


 ベントットのスキルで川底がウネウネと隆起、陥没を繰り返し、王国軍の足を止める。

 そこへ降り注ぐ矢の雨が、王国軍の兵士達に襲い掛かった。


「な……、なんだ。これガッ」


 超感覚や超能力のようなスキルが多いヒュムに対して、戦っているフィールドに影響を与えるベントットのスキルは明らかに戦争向きだ。


 それでも矢に倒れた兵は100いるかどうか。

 先頭はもう川を渡り終える。


「よし、引き上げるぞ」


 ベントットの指示で、リザドとコボルの部隊が古城の方へと逃げていく。


「敵は逃げ出したぞ! 攻めろ! 攻めろーー!!」


 矢によって多少の被害は出たものの、逃げ出す相手を追う立場である王国軍の士気は上がっていく。


 しかし、ベントットが再び地面に手を当てると、王国兵の前に巨大な土壁がいくつも立ちふさがった。


「ええぇい! これだからトカゲどもは!」


 追撃の手を止められ、王国軍の怒りのボルテージが上がっていく。

 立ち並ぶ土壁を避けながら前進すると、ついにアヴェールの古城が王国兵の目の前に現れる。


 山城であるアヴェールの古城、その門の前は当然坂道になっている。

 さらに坂道の行く手を阻む防御柵は、ひとつひとつ破壊していくにはあまりにも手間がかかる。


「ふっ、ははははは。見ろ、ここの防御柵は繋がっていないぞ」


 王国兵のひとりが防御柵を指差して笑っている。

 防御柵とは敵兵の侵入を防ぐためのものであり、常識的に考えれば隙間があっては意味がない。

 しかし、このアヴェールの古城の坂道に仕掛けられた防御柵は、一定の間隔で互い違いに防御柵が並べられており、ジグザグに進めば防御柵を壊さずとも進軍することが可能だ。


「これだから蛮族は。まさか防御柵の設置方法も知らんとはな。これは傑作だ! だっはっはっはっはっは!!」


 大笑いしながら山道を登り出した王国兵たちを、屋上からモンセノーが眺めている。下の熱気とは対照的に、屋上には涼しい風が吹いていた。


「ふぅむ。こりゃ指揮官がおらんのか、それとも指揮官が大戦も知らん若造なのか……。なんの警戒もせずに登ってきよるわ」


 ドワフにおける築城の匠、モンセノー。

 このアヴェールの古城は匠が自ら設計し、構築した戦うための城だ。


 当然、坂道に設置した防御柵まで、大戦で得た知見を思う存分発揮した造りになっている。


 一方、王国軍の指揮官たるザゴンネス将軍は本陣で怒号を飛ばしていた。


「敵の挑発に乗って、全軍で突撃するバカがあるか!! すぐに退却させろ!! 副将のナホロスはなにをしている!?」


 ザゴンネス将軍の指示で、兵士が退却の銅鑼どらを鳴らすが前線にいる兵達は一向に戻ってこない。

 初めての攻城戦。さらには大軍で自分達が攻めていると高揚感。自ずと身体から湧き上がる雄叫び。上がり続けるテンション。

 退却の銅鑼の音など、彼らの耳に届くはずがなかった。


 このとき、やや出遅れたことで坂道には入れず、山を囲んでいたナホロスには銅鑼の音が聞こえていた。

 だが、その反応はザゴンネス将軍が想定していた斜め上をいっていた。


「おお、何やら銅鑼の音が聞こえるのである。きっとザゴンネス将軍が本陣から鼓舞しているのである。皆の者! 全力で突撃するのである!!」

「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


 副将であるナホロスの激を受け、王国兵たちは必死で坂道を登っていくのであった。

―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 小生が王族イチ容姿端麗で、王族イチ頭脳明晰なナホロスである。

 いま、忙しいのである。

 坂道が狭くて兵がなかなか上がれないのである。

 もどかしいのであるーーーー!!!

 次回、あにコロ『episode60 攻城戦③』

 もちろん、読むのである。

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