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episode57 小人の道

(三人称視点)


 トリスワーズの南西、海に近い山麓に小さな山小屋がある。

 そこに、ホビトの各部族を代表する族長5名が集まっていた。

 族長の1人が緊急で招集をかけたのだ。


 陽も下がり暗くなった室内で、ろうそくの火がゆらゆらと揺れている。

 コホン、と静寂を嫌った族長による咳払いが響く。


「して、今日の緊急招集は何故なにゆえか?」


 恰幅の良い族長が不機嫌そうに尋ねると、6名の中でも若い族長がその問いに答えた。


「王家の代替わりについては承知されていますか?」


「バカにするでない。当然知っておる」


 フン、と鼻を鳴らす恰幅の良い族長に、若い族長が満足そうに言葉を重ねる。


「それは重畳。では、新王であるヴァルデマルが純血派であることは?」


「「……!!??」」


 若い族長の言葉に、ほかの5名の顔が引き締まる。

 新しい国王が純血派である、という情報にはそれだけの力があった。


「……早いな」


「うむ、早い。大戦にシュルヴァン教が関与してきた以上、王家に手を伸ばしていないわけがない、とは思っていたが……たったの30年余りでよくぞそこまで」


 恰幅の良い族長とチョビ髭の族長が神妙な面持ちで呟くと、そこに浅黒い肌の族長が大声で割り込んだ。


「待て待て! 悲観する前に事実確認が先だ。『新王ヴァルデマルが純血派』という情報に証拠はあるのか?」


「その疑問は最もです。そして残念ながら証言だけで証拠はありません。しかし、証拠が無いからといって放置できるような情報ものでないことは皆様もお分かりのはず。だからこそ、皆様のご意見を伺わせて頂きたいのです」


 礼儀正しく話している若い族長だが、その口ぶりには強い意志が込められている。

 すなわち、この由々しき事態に対策を練る必要がある、と。


「……昨日、王都から3000の王国軍が出兵した。目的地は、アヴェールの古城だ」


 これを聞いた浅黒い肌の族長が忌々しげに舌打ちをした。


「アヴェールの古城というと、リザドとコボル、最近ではハピラやオルガも集まってきているとかいう城だな。ちっ、あいつらもあいつらだ。大戦で大負けした奴らが懲りもせず……また、このトリスワーズで大戦を起こすつもりか」


「……奴らにも理由があるんだろうが、それは良い。大事なのは我らにとっては今回の征伐が好都合ということよ」


「好都合だと?」


 恰幅の良い族長が、理解できないという顔で疑問を呈する。

 ろうそくの火が、えびす顔の族長の顔を照らした。

 その顔には、底意地の悪い怪しい笑みが浮かんでいた。


「奴らが王国軍に敗北したなら……まあ、十中八九は負けるだろうが、その場合は王国軍の対処で見えてくるものもあろう」


 えびす顔の族長の発言に、意を得たりとチョビ髭の族長がポンと手を打つ。


「なるほど、まずは様子見ということだな。もし王国軍が反逆者たちを皆殺しにするようなら、純血派という話も真実味を帯びてくる。対策を立てるのはそれから、ということか」


「ふむ。焦って動いてもロクなことにならんからな。妥当なところだ」


「おお、ワシも異論はない」


 恰幅の良い族長と、浅黒い肌の族長も様子見案に同意する。

 だが、若い族長はその案に乗らない。


「くっくっく。皆様そろって平和ボケされているようですね」


「なんだと!?」


「平和ボケとはどういうことか!?」


「若造の分際で……貴様!!」


 平和ボケと揶揄やゆされて怒りをあらわにする族長たちを、若い族長は片手で制して話を続ける。


「ボケているから、ボケていると言ったのです。あなたたちが望むように、アヴェールの古城が落ちて反王国勢力が皆殺しにされたとしましょう。その場合、ヴァルデマルは純血派ということになります。当然、次は我々ホビトも排除の対象となるでしょうね。そのとき、我々に抵抗する手段があるのですか?」


「それは、もちろんほかの種族と手を組んで――」


 恰幅の良い族長が反論するのに被せて、若い族長が畳みかける。


「反王国勢力が皆殺しにされたあと、ほかの種族とやらはどれほど残っているんでしょうか。女子供くらいは残っているかもしれませんが戦力にはならないでしょう。ドワフを谷から引っ張り出したところでクラフトワーク以外のどんな役に立つのやら。もちろん、森に引き籠もったエルフなんぞは元から頼れるはずもない」


「むぅ……」


 薄暗い部屋がシンと静まり返る。

 若い族長の言葉にほかの族長たちは反論することも出来ず、黙って話を聞かざるをえないからだ。

 若い族長はさらに話を続ける。


「今の話に限らず、『焦って動いてもロクなことにならん』などとうそぶいて、日和見主義でいるあなた達は全てが後手後手なのですよ。大戦にシュルヴァン教が関与していることを知りながら、更には王家にシュルヴァン教の手が伸びていると予想しながら、なんら手も打たずにきたツケが回ってきていることを自覚すべきです」


 前回の大戦では生き残るために策を弄し、被害を最小限に抑えて戦後を迎えたホビトだったが、今回はそうもいかない。若い族長――ゲインの言葉が、ほかの族長たちに重く圧し掛かる。


「俺は決めましたよ。皆さんがどうするのか、は次の機会にお伺いします」


 そう言い残して、ゲインは席を立つと山小屋を後にした。


 果たして、その日は最終的な結論を導き出すことが出来ないまま、各族長は解散することとなった。


 ホビト達の決断は……。




―――――――――――――――――――――――

★次回予告★

 よぉ! 元気にしてるか? 俺はホビトのゲイン!

 実は族長のひとりだったんだぜ!

 どうだ? びっくりしたか?

 え? ぶっちゃけ予想通りだった?

 へぇ~、君って聡明なんだねぇ。

 次回、あにコロ『episode56 逆賊討伐』

 読むなり、ブラバするなり好きにしな!

★次回予告★

 よぉ! 元気にしてるか? 俺はホビトのゲイン!

 実は族長のひとりだったんだぜ!

 どうだ? びっくりしたか?

 え? ぶっちゃけ予想通りだった?

 へぇ~、君って聡明なんだねぇ。君みたいな子、結構好き。

 次回、あにコロ『episode56 逆賊討伐』

 読むなり、ブラバするなり好きにしな!

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