表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/80

episode56 逆賊討伐


 気づいたときにはゲインの姿は無かった。

 狐につままれたよう、とはこういうときに使う言葉なのだろう。

 いや、まさか四方を囲んだ状態で逃げられるとは……。


「……やっぱり、あいつ。……信用、できない」


 ゲインが逃げたと分かったとき、無表情なシャルティの顔がまるで般若のようになっていた。


「あいつスゲェな……」


 いつもならすぐに軽口を叩くベントットが、驚いた表情のまま固まっていた。


「ホビトのスキル、侮れヌ」


 ダイサツは難しい顔をしながら、多分タイマンでどうやって勝つかシミュレーションしていた。


 それくらい衝撃だった。


 僕たちはゲインの姿を見失わないよう、360度で監視していた。

 そこに一切の油断も無かった。

 なのに、続きを話すべきか考え込むゲインの姿がフッと消えた瞬間、僕の目に何もない床が飛び込んできた。

 ゲインの姿だけが忽然と消えたのだ。


 ものの見事に逃げられた僕たちは、ゲインのスキル【幻視】は何もないところに幻を見せることも出来るのだろう、という結論に至った。


 ヴァルデマルとグランドダラム教国の関係について聞き出そうと待っている間に、僕たちは全員『考えている(ふりをしている)ゲイン』という幻を見せられ、その隙にゲインは堂々と城から逃げ出した――と考えれば辻褄が合う。


 対象に別の姿を見せる能力、というのは【幻視】のスキルの一端でしかなかった、という事実に僕らは舌を巻くことしか出来なかった。


 相変わらず、人を騙して逃げ出すのが上手い人だ。


 では、ゲインが話した『大戦の真実』も逃げ出すために用意したウソなのか?

 その答えは分からない。

 だが、僕にはとても出まかせとは思えなかった。


 急ごしらえで考えたとは思えないほど筋が通っていたし、僕たちが知っている(ヒュム、リザド、コボルにそれぞれ伝わる)大戦の結末とも辻褄つじつまが合っていた。


 他の面々も考えは同じだったようで、噂は一気に城内を駆け巡ることとなる。


 ――グランドダラム教国による大戦への介入。


 否。

 城内のリザドとコボルにはこのように受け取られた。


 ――シュルヴァン教が大戦に介入していた。


 と。


 ヒュム以外の人種を認めないシュルヴァン教は、リザドとコボルにとっても憎むべき敵である。

 結果として、城内における反王国の機運は盛り上がることとなった。



「「シュルヴァン教の侵略を許すな!!」」

「「グランドダラム教国の傀儡、ヴィスタネル王家を倒せ!!」」

「「俺たちのトリスワーズを取り戻せ!!」」



 グランドダラム教国と、現国王ヴァルデマルとの関係については全く情報が無い。

 しかし、グランドダラム教国が大戦に介入していて、ヴァルデマルが純血派である、という2つの事実があれば当然、そこに意味が生じてくる。


 さらに噂には尾ひれが付き、「ヴィスタネル王家は大戦後からグランドダラム教国の傀儡であり、ヴァルデマル王はトリスワーズ国内の異人種を虐殺しようとしている」という言が事実のように語られるようになった。


 その勢いは城の外へも波及し、ヨンリンドマウンテンに住むハピラとオルガからも有志が城へと集まりはじめる。


 こうしてアヴェールの古城は、当初エヴァルトが想定していた『王国に虐げられている人種を守るための防衛施設』という役割を超え、反王国を唱える組織の根城へと変わっていくこととなった。


      ★


(三人称視点)


 その日、王城の外には3000人を超える兵隊が集められていた。


 人口約50万人のトリスワーズは、そのうち約70%がヒュムだ。

 一部の傭兵を除き、ほとんどがヒュムで構成されている王国軍の総兵力は約5000人。


 つまり総兵力の60%がここに集まっていることになる。

 北のホワイトワーズへのけん制と、王都の守りを考えれば、集められる全兵力といっても過言ではない。


「勇猛なるヴィスタネル王家の精鋭達よ! 我らが王家の剣として、その大役を果たすときがきた!!」


 大きな声で兵達を鼓舞しているのは、王国を代表する将、ザゴンネス将軍だ。

 討伐軍に名乗りを上げていたナホロスは副将として随伴ずいはんすることとなった。


 ナホロスは最後まで「これはザゴンネス将軍の横暴である!」と騒いでいたが、総兵力の60%を預ける大将としてナホロスを後押しするような貴族や文官は、当然ながらひとりとしておらず、その声は黙殺されることとなった。

 それでも副将としてナホロスを据えたのは、ザゴンネス将軍が王家の血を引くナホロスに気を遣った結果であると言えよう。


「現在、アヴェールの古城には反乱分子たるリザド、コボル、オルガ、ハピラが集まっている! 王家への反逆を企てていることは疑うに値しない! ヴィスタネル大戦において敗北者たる奴らへの寛大な措置を認めたシュヴァル公に対し恩を仇で返そうとしているのだ! 我々はこのような暴挙を許して良いのか!?」


「「畜生どもの暴挙を許すなー!!」」


「義は我らにあり!!」


「「義は我らにありーーー!!!!」」


「これより我らは逆賊を討つ!! 出陣せよ!!」


「「おおおおおぉぉぉぉ!!!!!」」


 ザゴンネス将軍の言葉に、兵達の士気がみるみる上がっていく。

 その様子を、隣に馬を並べたナホロスが苦々しい顔で見ていた。


 3000人の王国軍が、王都の民の激励と共に、意気揚々と王都を出立する。

 エヴァルト達と王国軍との戦いの幕が上がった。


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 ゲインの登場で、王国側も僕たちも一気に状況が変わってきた。

 戦いの準備は着々と進んでいる。

 次回、あにコロ『episode57 小人の道』

 ちょっとだけでも読んでみて!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ