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episode54 緊急伝令

(三人称視点)


 その日、王城に電撃が走った。


 王城に不法侵入していたホビトがいたから、ではない。

 それを追跡していた兵が、アヴェールの古城にリザドとコボルが集まっているのを見つけたからだ。


「これは王家に対する明らかな叛意である!」


 新国王となったヴァルデマルは、貴族たちが集まっている場で高らかに宣言した。


(良い口実が出来た)


 危機感をあおる言葉とは裏腹に、ヴァルデマルは好都合とほくそ笑む。


 元々、ヒュム以外の人種は滅ぼすつもりだったが、自身の後見人でもあるザゴンネス将軍をはじめとした慎重派を無下にも出来ずにいたからだ。


 それに、軍備を増強するにも資金が必要だ。

 資金を集めるには税を増やさなくてはならない。

 税を増やすには民が納得する理由がいる。


 ヴァルデマルを悩ませていた2つの問題が、これで一気に解決する。


 おそらく愚図の従兄弟(ナホロス)がリザドの村を蹂躙し、コボルの村を兵で囲んだことが奴らを団結させたのだろう。


(従兄弟殿もたまには役に立つではないか)


「ふぅむ。これは由々しき事態。早急に兵を集めねばなりませんな」


 ザゴンネス将軍からこの言葉が出れば、もはや憂いはない。

 もはやヴァルデマルの思うままに事は進みはじめた。


「奴らを駆逐するのであれば、このナホロスにお任せ頂きたいのであーる」


 どこから湧いてきたのか、ナホロスが討伐に名乗りを上げた。


 逃亡中のエヴァルトの足取りも掴めず、コボルたちには蹴散らされ、ドワフ共から武器を調達することも出来なかった男が、よくも臆せず手を挙げられるものだ、とヴァルデマルは逆に感心してしまった。


「反逆を企てるものの末路を国中に知らしめる必要がある。此度は総力戦となるであろう」

「ならば! ならばこそ!! このナホロスめにお任せを!!」


 チッと、他の者には聞こえないようにヴァルデマルが舌打ちする。


 わざわざ遠回しに、ナホロス(お前)は大人しくしていろ、と伝えているのに愚図の従兄弟には欠片ほども伝わっていない。


 しかし、ナホロスは王族。

 ここで王族同士が不毛な議論を続けている様を、貴族たちに見せるわけにはいかない。


「総大将については軽々には決められぬ。軍の編成については我が国随一の将、ザゴンネス将軍に預けることとする」

「ははっ。お任せください」


 ザゴンネス将軍が承諾したことで、名目上の決定権はヴァルデマルの手を離れる。

 これ以上の問答は価値を失った。


 こうして、ヴィスタネル王家による『アヴェールの古城鎮圧』の準備が進められることとなった。


 王家の動きを、エヴァルト達はまだ知らない。


      ★


 (エヴァルト目線)


 日課としている古城周辺の警戒から戻ると、どうにも城内が騒がしい。

 コボルのおじさんたちが怪しいヤツを捕まえたらしい、ということまでは把握できた。


「ダイサツ。なにがあったの?」

「ホビトがリザドに化けて潜入していたそうダ」

「リザドに化けて?」


 わざわざ変装して潜り込んできた以上、なにか理由があるのだろうが……。王家からの刺客? 偵察? そもそも僕がこの城にいることを知っているのか? 分からん。などと悩んでいるうちに僕らは現場に到着した。


「あれ? もしかしてゲイン?」


 王都近くの村で会った、ホビトのゲインじゃないか。


 それにしてもなんの因果なのか。

 僕たちが捕まりそうになったときに出会ったゲインと、

 今度は彼の両手が後ろに縛られて状態での再会になるとは。


「あー、ミスリルの腕輪の兄ちゃんか。へえ、また生きて会えるとは思わなかったぜ。んで、なんで兄ちゃんがここにいんの?」

「ここに住んでるから?」

「なんだそりゃ? ここはリザドとコボルの城じゃねぇのかよ?」

「別にリザドとコボルに限定してはいないんだけど、そう見えるよねえ。別にゲインもここにいていいんだよ?」

「いいんだよって、なんで兄ちゃんが決めてんの?」

「僕が全部決めてるわけじゃないけど……」

「ん?」


 なんだか全然話がかみ合わなくて、僕もゲインも二人して顔がクエスチョンマークでいっぱいだ。


「……殿下、それじゃダメ。……このお城の目的、まず伝えなきゃ」

「あ、シャルティ」

「おー! あんときのハッキリ言う賢い姉ちゃんか!? 俺、君みたいな子、嫌いじゃない」


 おお、懐かしい。ゲインは初めて会った時もシャルティに同じことを言っていた。

 そして、シャルティも今みたいにいつも無表情な顔の眉間にシワを寄せていたのを思い出した。


「……私、やっぱり。……この人、苦手」

「えー、残念。でも俺、君みたいな子、結構好き」


 シャルティの眉間のシワがどんどん深くなっていく。

 顔の中心にいくつものクレバスが出来ている。


「再会の挨拶はそのあたりにして。この城はみんなで協力して身を護るための防衛拠点なんだ。今は王国軍に村を襲われたリザドとコボルがほとんどだけど、ほら、オルガだっているだろ?」


 僕が隣にいるダイサツを見ると、ダイサツはいつものように腕を組んで胸を張っていた。威圧感が凄いよ、威圧感が。


 ゲインは「なるほどなあ」と呟きながらも、どうやら得心するには至っていない様子だ。


「まあ、目的は分かったけどよ。気になることは……まあ、ふたつだな」

「ふたつ?」

「ああ、ひとつは兄ちゃん。これはまあ、ただの確認だ。あんたヴィスタネル王家の元王子だろ?」


 ゲインの問いに、エヴァルトは「そうだ」と首を縦に振った。

 僕が元第二王子で、いまは賞金首という事実について、この城にいる者達はみんな知っている。


 ゲインだって、ナホロスから僕たちを助けたときには、概ね分かっていたはずだ。

 これについては否定する必要がない。


「兄ちゃん、リザドにコボル、果てはオルガまでなかよしこよしちゃんみたいだけどよ……大戦が終結した本当の理由、知ってるか?」

「それは……僕のおじいちゃん、シュヴァル=ヴィスタネルが騙し討ちに――」

「やっぱり、お兄ちゃんもその話を信じてんのか。 じいさんもかわいそうに」

「え!? 違うの?」

「違う、違う。大間違い。あれはグランドダラム教国の介入が原因さ」


 またしても初耳の情報が出てきたよっ!

 おじいちゃん! どういうこと!?


―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、驚愕しているエヴァルトです。

 グランドダラム教国、純血派の国。

 ヴァルデマルが純血派なのと、なにか関係があるんだろうか……。

 次回、あにコロ『episode55 戦の伝承』

 ちょっとだけでも読んでみて!


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