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episode52 旧知の男


 クロ姉が旅立ってから3日が過ぎた。

 ずっと彼女が外さなかった、鳥をモチーフにしたマスカレードマスクは、いま僕の手元にある。


 マスクを外した彼女の顔は、とても美しく、確かにシャルティの面影があった。

 僕はクロ姉のことを思い出して、ため息を吐く。



「……また、ため息。……今日、34回目」

「人のため息の数を数えないでよ」



 僕とシャルティは屋上にいた。

 クロ姉と最後にしゃべった場所だ。


 ドワフの谷へと出発する前の晩、クロ姉はあの鋸壁きょへきに座っていた。

 一緒に星空を見上げた彼女は、もういない。


 屋上から見下ろす景色は、あの頃と大きく様変わりしている。

 城の防衛設備を中心に、大規模な改修が行われたからだ。


 モンセノーの手腕は、流石の一言だった。

 崩れていた壁や、防護柵の補修はもちろん、城の後方にある山岳を切り拓いて、居住区を広げてくれた。


 少しずつリザドの村、コボルの村からの移住も始まっている。

 しかし、僕の心はずっとモヤモヤとしていて、今日も、昨日も、一昨日も、気がつけばこの場所でため息を吐いていた。


 そしていつも、いつの間にかシャルティが隣にいた。



「……いつまで、こうしてるの?」

「いつまでって。クロ姉が死んだんだよ? 僕は助けられなかったんだ。そんな簡単にいつもどおりってわけにはいかないよ。僕からしたら、どうしてシャルティがそんなに普通にできるのか、そっちの方が理解できない」

「……クロ姉が、望んでいるから。……殿下が、生きていて。……この国を、変えることを。……だから、私は。……いつも通り、殿下を支える」

「クロ姉が望んでる? どうしてそんなことが分かるのさ!」

「……クロ姉は、私だから。……未来の、私だから」

「!!!!」

「……下で、待ってる」



 そう言い残して、シャルティは階段を下りて行った。

 僕は大きく深呼吸をして、クロ姉と出会ったときのことを思い出した。



「それにね、王子様。あなたには、この国をもっと見て欲しいの。王城からでは決して見えない、この国の現実を。そして、悪を断罪し、スキルを得ることで、もっと力をつけて欲しい。この国の未来のために」


「今はまだ分からなくてもいい。でも、あなたならきっと、この国を変えられると信じてるわ」



 思えば、初めて会った日からクロ姉は「この国の未来のため」「この国を変えられる」と言っていた。


 胸元からクロ姉が残した手記を取り出す。


~~~~~~~~~~

 人種を越えた、人と人との繋がりを大事にされるようになった。

 なにより、人のために自分がこの国を変えたいという気持ちを持たれた。


 私がいなくても、殿下は目的のために自ら考えて、動くことが出来るだろう。


 もう思い残すことは無い。

~~~~~~~~~~


 いま僕は、目的のために動けているだろうか。

 いまの僕を見て、クロ姉は安心できるだろうか。



「思い残しがあるって、枕元に立たれても困るしな」



 パンパンッと頬を叩いて、立ち上がる。

 この場所で黄昏たそがれるのはこれで終わりだ。


 ヴァルデマルが、リザドやコボルの動きに気づくのも時間の問題だろう。

 改修された城と、人が集まっていることを知れば、やつらは必ず潰しに来るはず。


 決戦のときは近い。


      ★


(三人称視点)


 王都にほど近い街道をホビトの男が走っていた。


 彼の名はゲイン。

 かつて、ナホロスによって窮地に立たされていたエヴァルトとシャルティを救った男である。


 彼がなぜ走っているのか。

 それは王国兵に追われているからに他ならない。


 ――ヒュンッ、トスッ!


 ゲインが走っている街道に、王国兵が放った矢が突き刺さる。

 奴らは彼を捕らえるつもりではいるが、誤って殺してしまっても別に構わないと考えていた。

 なぜなら上がそう言っているから。



「ちっくしょう。今日は厄日だぜ」



 彼がなぜ追われているのか。

 それは見てはいけないものを見てしまったからだ。


 王国にとっての重要機密。

 それも、見たものを問答無用で口封じしなくてはならないほど重要な。


 ――ヒュンッ、トスッ!

 ――ヒュンッ、トスッ!

 ――ヒュンッ、トスッ!

 ――ヒュンッ、トスッ!


 王国兵の弓によって、いくつもの矢が放たれるが、ゲインには当たらない。

 もちろんゲインの運が良いからではないし、王国兵の弓の腕が絶望的に悪いからでもない。


 彼がエヴァルトたちを助けたときにも使ったスキル、【幻視】がなせる業である。


 いま、王国兵からはゲインが何人も走っているように見えている。

 スキルで生んだ幻は、自由に動かすことは出来ないものの、自分と同じ動きを模倣させるくらいなら可能だ。


 街道の横に雑木林が見えた。


 ゲインは考える。

 まずはここに飛び込むとして、そのあとはどう逃げるべきか。


 最終目的地は決まっている。

 ここからもっと南へいったところに、リザドとコボルが集まっている城があると聞く。


 スキル【幻視】を使って、リザドにでも扮して潜り込む。

 そのあと王国兵と奴らが揉めるようなら、その隙に別の場所へ逃げ出せば良い。


 リザドやコボルがなにを考えて城に集まっているのかは知らないが、知らない奴らが集まっている場所なら紛れるのは容易い。

 俺のことを知っている奴さえいなければ、声で正体がバレる心配もないはずだ。



 ゲインは走る。目的地であるアヴェールの古城を目指して。

―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 いつまでも落ち込んではいられない。

 クロ姉の想いも胸に、ヴァルデマルとの決戦に備えなくては。

 あ、ゲインだ。ひさしぶり!!

 次回、あにコロ『episode53 王国の闇』

 ちょっとだけでも読んでみて!

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