表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/80

episode51 別れの日


 ヨンリンドマウンテンからアヴェールの古城へと戻った僕たちは、そのままクロ姉の部屋へと駆け込んだ。



「おお! エヴァルト! やっと帰ってきやがったか」

「あ、エヴァルトとシャルだぁ♪ おかえりなさいぃ」

「ベントット! モカも来てたんだ。クロ姉の様子は!?」



 僕の問いかけに、ベントットは静かに首を振る。



「どんどん呼吸が浅くなってる。この感じだと、もう……。ハピラの方はどうだった? それらしい姿は見えねぇようだが」

「スキルを、受け継いできた」

「受け継いで? なんかよく分かんねえけど、目的は果たしたってことか」

「クローネはぁ、目を覚ますのぉ?」

「覚ますさ、きっと。いや、必ず!」



 ベントットが僕をクロ姉の隣へと誘導する。


 僕はベントットとモカにスキル【生命力移動】のことを話した。

 そして2人にも協力して欲しい、とお願いした。



「生命力? そんなもん、オレので良けりゃどんどん持ってけ! 活きが良いのがオレの取柄みたいなもんなんだからよ」

「モカもぉ、協力するのぉ♪ エヴァルトには助けて貰ったしぃ、シャルは友達だものぉ」

「二人とも……ありがとう。本当に」



 僕は、快く協力を申し出てくれた2人の手を握る。



「カッカッカッカッカ。ワシに声をかけてくれんとは水臭いのぉ。ワシらは盟約を結んだ仲じゃろうが」

「ワシも協力してやらんこともないぞ。城の改修はめども立ったしのぉ」

「マタリ長老! モンセノーさんも。本当に助かります。ありがとう」



 いつの間にか、マタリ長老とモンセノーも部屋に来ていた。

 クロ姉、あなたを助けるために、みんなが協力してくれているよ。


 僕はシャルティと、シャルティがモカと、モカはマタリ長老と、さらにベントットとモンセノーが手を繋ぐ。


 ――生命力移動


 あたたかな力の波動が身体に伝わってくる。

 僕は右手をクロ姉にかざした。



(頼む、クロ姉。目を、覚ましてくれ)



 しかし、クロ姉は反応しない。

 まだ、まだ生命力が足りないのか。


 もっと、もっと自分の生命力を絞り出すんだ。


 身体の奥底からエネルギーを絞り出す。



「……エヴァルト、殿下?」



 このしゃべり方はシャルティ?

 僕はシャルティの方を振り向く。

 しかしシャルティは首を振り、クロ姉の方を見ていた。



「……迎えに、来たの?」



 喋っているのはクロ姉だ。

 目はほとんど開いていないが、少しだけ唇が動いている。


 まるでシャルティが喋っているようだ。

 クロ姉はシャルティ。その告白が真実であることが今さらながら腑に落ちた。



「クロ姉、クロ姉! しっかりしてよ!」

「……クロネ、ってなに? ……お菓子なら、分けて」

「なに言ってんだよ、クロ姉!」

「……変な、殿下」



 シャルティがクイクイと僕の手を引っ張る。



「……シャルティって、呼んであげて」



 ああ、そうか。もうクロ姉は自分がクロ姉だったときの記憶が無いのかもしれない。

 未来で一緒にいた僕、エヴァルトといた頃のシャルティなんだ。



「シャルティ。大丈夫だ、きっと助かる。だから!」

「……もう、いいの。……殿下の側に、いさせて」

「僕はここにいる! いつだってあなたの側にいる!」

「……そう、良かった。……殿下、私は。……あなたのことが――」



 クロ姉の顔から生気が消えていくのを感じる。

 僕たちが送っている生命力が、そのまま抜けていく感覚。



「シャルティ! いっちゃダメだ、シャルティ! ベントット! ほかの人たちも呼んでくれ! このままじゃシャルティが、クロ姉が死んでしまう!!」

「エヴァルト、クロ姉はもう……」

「もうじゃない! クロ姉はまだ生きてる! まだ助かるんだ! 早く!! 早く人を呼んでくれって!!」

「落ち着け、エヴァルト! もうクロ姉を、いやシャルティを休ませてやれよ。黙ってたんだけどよ、オレも読んじまったんだ。クロ姉の手記」



 そういえば、クロ姉の手記を読んだ後、どこにしまったのか覚えていない。

 あのときはただ、なんとかしてクロ姉を助ける方法を探さなきゃって、それだけで。


 そうか、ベントットも呼んだのか。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。


 むしろ読んだのなら僕の気持ちが分かるはずだ!


 このままじゃクロ姉が死んでしまう。

 それだけは絶対にイヤなんだ。



「この人はもう十分に尽くしてくれただろう? 未来のエヴァルトに12年、こっちでもお前らにつきっきりだった。もう解放してやれよ」

「イヤだ! イヤだイヤだイヤだイヤだ! クロ姉を助けるんだ。僕が助けるんだ!」



 ――パァン


 乾いた音が響いた。

 頬が熱い。


 シャルティ?

 僕はシャルティにたれた?


 こんなことは初めてだった。

 シャルティが僕に手を挙げるなんて。



「……殿下、しっかりして。……ちゃんと、見送ろう」

「僕はクロ姉を助けたい。クロ姉だって書いてたじゃないか、死にたくないって。僕がこの国を変えるところを、グスッ、クロ姉に……う゛う゛ぅぅあ゛あ゛ぁぁぁぁ」



 僕はしゃがみ込んで泣いた。

 涙が止まらなかった。



「……殿下、泣いてる?」



 クロ姉の掌が、僕の頭を撫でる。

 僕はその手を握った。



「クロ――シャルティ? 大丈夫。泣いてないよ」

「……そう、良かった。……私が、いるから。……これからも、ずっとおそばに」

「シャル、ティ。……う゛う゛ぅぅぅ、シャ……ティ……」

「……殿下、愛してます。……これまでも、これからも」



 クロ姉の手から力が抜けていく。

 顔からも完全に生気が抜けた。


 そのままクロ姉の手は力を無くし、すとんとベッドへと落ちた。



「シャルティ? シャル……クロ姉! クロねえぇぇぇぇ!!!!」



 こうして、クロ姉は僕たちのところから旅立っていった。



 向こうで12年後の僕と会えたのだろうか。



―――――――――――――――――――――――

※読まなくてもいいオマケです。


★次回予告★

 どうも、エヴァルトです。

 ごめんなさい、今日はなにも言う元気がない。

 でも、僕が元気を出さないとクロ姉が心配するよね。

 次回、あにコロ『episode52 旧知の男』

 ちょっとだけでも読んでみて!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ